始業式から2週間が経とうとしていた。
新しいクラスになってから最初の方は、まだ教室には緊張感があった。
しかし、今では緊張感のあった教室が嘘のように笑い声で溢れていた。
俺も自然と肩の力は抜けていた。
「じゃあここ来週までにやっといてよー、今日はちょっと早いけど終わり」
先生の終わりの言葉を聞き、当番の人が声を掛ける。
「起立!......これで4時間目を終わります」
「ありがとうございました」
「ありがとうございました!!!」
後ろから大きな声で挨拶をする声が耳に響いた。
俺はチラッと後ろを見た。犯人はこいつしかいない。
楓だ。満面の笑みだった。
長く感じた4時間目がやっと終わった。
もうお腹が空いていた。
「絵橙!行くぞ!」
後ろから楓がお弁当を持って声をかけた。
「やっとお昼だー。もう疲れたよなー」
「始業式からもう2週間経つとなると授業もう本格的だからな」
そんなたわいのない会話をしながら俺と楓はお昼ご飯を食べるべく、空いている教室を探した。
空いている教室を見つけるといつものように窓際の席へ行き、机を向かい合わせにして座った。
食べ始めると楓が話し始めた。
「今年吹奏楽部やばいらしいよ?」
「ん??」
俺は首を傾げることしかできなかった。
俺は吹奏楽部など、他の部活にあまり目を向けてこなかった。
「え?なんかあったの?」
「今年の3年生、2人しかいないんだって。しかもその2人、同じクラスの夜瀬楽空(よるせらら)と桜美凪(さくらみなぎ)だよ」
「へえー、そうなんだ。吹奏楽部って人数多そうだから大変そうだね」
俺は黄色いトマトを頬張りながら言った。
俺は吹奏楽部については詳しくは知らなかった。
それにその2人と初めて同じクラスになって、まだ顔と名前が一致していないこともあって分からなかった。
ということは、その2人のどっちかがあの......クラリネットということか。
そんな話をしている裏では、吹奏楽部の練習する音が響き渡っていた。
「俺たち美術部も3年生2人だけど、気持ち的には全然違うんだろーな」
「そうだな、俺たちは気楽だよな」
人数が少ない分、そして絵を描くのは団体ではなく個人だから、吹奏楽部のように人間関係をさほど気にする必要もない。
「なあーえりとーー、......ゴックン。今日...放課後やってく?」
「ああ、今日はやってこうかな。......フッ」
楓は口いっぱいにおにぎりを詰めながら聞いてきた。
俺は、そんな楓の姿に思わず笑ってしまった。