「ただいまー」
俺は早く帰れたことが嬉しく、勢いよくリビングのドアを開けた。
「おかえり、絵橙。早かったねえ」
「おー、おかえりー」
リビングに入ると、お母さんとお父さんがいつものように作業をしていた。
「今日はさ、うちのクラスだけ早く終わったんだ。担任、浜坂先生だったよ」
「あら、そうなの?しっかりしてそうな先生でよかったわー!楓くんとは一緒のクラスになれた?」
「うん!しかも後ろの席だった」
「絵橙よかったじゃない!お昼ご飯作るから着替えてらっしゃい」
「うん」
お母さんはパソコンを閉じて、キッチンへと足を運んだ。
机の上でパソコンと睨めっこしていたお父さんは俺に、
「楓くんと同じクラスでよかったな!今日は午前終わりだったんだからゆっくりしろよ」
と笑って言った。
「うん、ありがとう」
それだけ言って2階の自分の部屋へと向かった。
階段を登っている時に、先ほどのお母さんとお父さんの様子を思い出した。
お母さんとお父さん、今日も忙しそうだったなー。いつまでに仕上げるとか締め切りがあるのか......。
俺の両親は絵本作家だ。
お母さんが絵を担当して、お父さんが文を作っている。ほぼ毎日パソコンで作業していたり、時々出張に出かけたりと忙しそうだが、楽そうに仕事をしていた。
そのせいか、俺は小さい頃から絵というか芸術的なものに触れて育った。
でも、そのおかげで俺は美術の道を歩み始めた。両親ともに応援してくれている。
ありがたいことだ。
しかし、俺はもうお母さんとお父さんが作る絵本を見ていなかった。見れなかったんだ。