改めて、今日から高校3年生が始まった。
始業式の後にその場で紙が配られ、新しいクラスが発表された。
みんなが足早に新しいクラスへと向かって行った。
教室に入ると、黒板に張り出されていた座席表に従って自分の座席に腰を下ろした。
自分の席に座り、周りの様子を見る。
去年同じクラスだった人に、一昨年同じクラスだった人。初めて同じクラスになり、申し訳ないが明確には名前が分かんない人。
やはりクラス替えというのは、小学校からもう何度もしているのに変な緊張に駆られてしまう。
新しい担任が入ってきた。
「浜坂か〜」
「浜坂先生じゃん!」
嬉しいのか嫌なのか分からないそんな声が周りから聞こえた。
「もう時間よーはい、席着いてー」
先生は、ざわついている教室をそのひと言で静かにさせた。
浜坂先生は、去年俺とは違うクラスを受け持っていた。噂で聞いたが、30代前半らしい。あと厳しいらしい。学校に通っている人なら、先生が優しいか厳しいかといった面を知りたがる。俺は別にどちらでも構わない。きっと浜坂先生は、生徒を冷静に見て相手のために厳しいことを言ってくれていると俺は勝手に感じている。
「浜坂です。今年1年、大学や就職、それぞれの進路に向かって大変な毎日かもしれないけど、先生もサポートしていくからみんなで頑張りましょう!改めてよろしくお願いします、では名前呼んでくよー」
先生は簡潔に自己紹介と挨拶をし、名簿を取り出した。
返事をするごとにみんながチラチラとその声の方を見る。
名前が呼ばれるまでは少しドキドキする。
「白川絵橙(しらかわえりと)」
「はい」
新しい担任、浜坂先生が名簿と俺の顔を照らし合わせながらそう呼んだ。
呼名が終わると先生は無駄話をせず、次のことを進める。
「じゃあプリント配ります」
プリントが配られ後ろに渡す。
後ろを向くときに窓から見える青い空と海に自然と目を奪われた。
窓から入ってくる春特有の風。
かすかに聞こえてくる波の音。
俺の学校は海の近くで窓からよく見える。
俺はこの景色が好きだ。
ぼーっとしながらプリントに目を通し、明日からの授業の説明が終わった。
みんな帰る支度をし始める。
やっと帰れる!
そう、今日は午前中で帰れるというラッキーな日だ!
俺の胸は自然と踊っていた。
「おい、絵橙」
声を掛けられ振り向くと、後ろには顔馴染みの姿があった。
「なんだよ、楓」
「今日これからどうする?」
ニヤニヤした顔を俺に見せつけながら言った。
鈴宮楓(すずみやかえで)。いわゆる幼馴染みだ。
楓とは、中学から高校と一緒に美術部に所属している。
頭がよく、面白くてみんなから好かれている。
そして5つ上の兄が美容師なこともあって髪の毛は校則ギリギリの茶髪だ。
春休みにまた染めたのか。
一見不良のように見え、おちゃらけているがとてもいい奴だ。
「今日は帰るよ」
「だよな!そうだと思ったよ、今日はなんといってもラッキーデイだからな!」
同じことを考えていた。ずっと一緒にいると、口に出さなくても考えることが同じになってくる。
俺はフッと笑った。
「ちょっと聞いてー」浜坂先生が教卓の前に立った。
「今日は始業式だったし帰りの挨拶はいいや!各自帰りの支度が終わった人から帰っていいんだけど、まだ他のクラス終わってなくて、うちのクラスだけ早めに終わったらしいから静かに帰ってね。じゃあまた明日元気にねー」
「はーい」
クラス中がざわつく。このざわつきはいい方のものだ。
「おい、ラッキーだな!帰ろーぜ!」
「おう!」
すると、
「浜坂先生意外といいじゃん!」
「こんな早く帰れるなんて思ってなかった!」
周りから浜坂先生を評価する声が聞こえてきた。
俺も、浜坂先生は時間にもっと厳しい先生かと思っていたから驚いた。
浜坂先生のこういうところが生徒に好かれるのだと思った。