3月5日は、雲一つない春を思わせるような暖かな陽気に包まれていた。この日にふさわしい空であった。
 俺たちはそれぞれの進路に向かい、無事に卒業式を迎えることができた。
 いよいよ担任の浜坂先生が、俺たちクラスの生徒の名前を順番に呼んでいく。しかし、浜坂先生は名簿を見ずに俺たち顔を見て呼んでいく。
 「白川絵橙」
 「はい!」
 涙を我慢しながらも、優しく背中を押すような声だった。
 思わず鼻がツンとなり、視界がぼやけた。
 しっかりと目を合わせ、名前を呼んでくれたこと。そして「これからも応援しているよ」と言うような表情が嬉しかった。
 それが嬉しかったのはたぶん、俺だけではなかったと思う。

 卒業式の式典が終わると、学校中がさらに賑わう。
 教室に向かったが、楽空の姿が見つからなかった。
 「桜さん!ら......夜瀬さんどこにいるか分かる?」
 「今日、楽空のお母さんとお父さんが日本に帰ってくるからさっき急いで帰って行っちゃったよ!呼んだほうがいい?」
 「いや、大丈夫!ありがとう!」
 彼女の何よりも大切な時間を邪魔したくはない。
 今の彼女と出会うことができたのは、彼女の興味や好きなことをずっと応援してくれていたご両親がいたからだと思う。
 「あ、桜さん!!」
 「え、なにー??」
 桜さんが廊下に出ようとした時に呼び止めた。
 「教えてほしいことがあって」
 「ん?」
 「夜瀬さんの**教えて欲しいんだ!」
 
 

 彼女へきっと、チケットを送れるように。
 サプライズの方が彼女はきっと喜びそうだから。
 自分の絵と彼女の音を重ねられる日までー。
 彼女のあの笑顔がまた見られるようにー。
 『約束の日』まで、俺は自分の世界をもっと色づけていく。