なんか忘れているような......あっ!
片付けを終えた俺は、一旦教室へと寄った。
お弁当の袋を机に掛けたままだったことに気がついた。さすがに持って帰るのを忘れるのは、お母さんに申し訳なかった。
誰1人出会さない廊下を早足で進んだ。
教室に向かうと、やはりもう誰もいなかった。
静まり返っている教室に聞こえてくるのは、吹奏楽部の音と、外からかすかに聞こえてくる運動部の掛け声だった。
俺は自分の席へと向かう。
お、あった。よかった。
無事にお弁当の袋を鞄に入れた。
「白川くん、どうしたの?」
声が聞こえた前のドアの方を振り向くと、そこには担任の浜坂先生がいた。
「お弁当の袋を持って帰るの忘れていたんで取りに来ました」
「そうなの、気をつけて帰りなさいね」
「はい、ありがとうございます」
俺はそそくさとドアの方に向かった。
「白川くん」
「はい」
出ようとしたところでまた声を掛けられた。
必要最低限しか浜坂先生とは話さないため、こうやって話しかけられるのは緊張した。
「進路はどう?勉強と絵」
「勉強も頑張ってやってるつもりですし、絵の方も力を入れてます」
「うんうん、無理せず頑張るんだよ。白川くんは頑張るからね。でも、最近の白川くんなんか楽しそうだよ」
「え......」
俺は驚いた。楽しそうな顔をしていたのか?
先生というのは生徒のことを必要以上に見ていることを知った。
「最近は絵の方が前よりも好きになった気がするんです。あんまり理由は言えないですけど......」
こんな曖昧な答えを口にした。
いくら担任の先生でも絵のことについて話すのは恥ずかしかった。
すると、
「先生は絵について分からないけど、好きなことに越したことはないね。まだ受験まで日はあるから絵については大川先生、勉強についてはわたしに何でも相談するんだよ。美大の受験は他の人よりも続くからね。一緒に頑張ろう、体調にも気をつけて!じゃあ気をつけて帰るんだよ白川くん」
「はい!ありがとうございます!さようならー」
「はい、さようなら」
俺は浜坂先生に一礼をして教室を出た。
「頑張って」ではなく、「一緒に頑張ろう」。
この言葉は似ているようでまったく違う。頑張ることには変わりないが、最後まで一緒に頑張ってくれる人がいるのは心強いと感じた。