道具を持って空いている教室を探す。
今日はなぜか教室に残っている人が多く、俺は4階まで来た。
お、ここにしよう。
ラッキーなことに左奥の教室が空いていた。
誰もいないかを再度確認して教室へと入る。
俺は、窓際の1番後ろの席に座った。
「ふうー」1人になると自然とため息が出る。
俺はこの数日間、夜瀬さんといつ夕焼けの空を見ようかということと、色覚障害ということを彼女は受け入れてくれるのかという心配で、頭の中がいっぱいだった。でも、彼女なら受け入れてくれるだろうという気持ちもあった。
しかし、まだ俺の絵の具セットには赤色、橙色は入っていない。その色を使って描くのを躊躇っていた(ためらっていた)。
でも、今日は描きたい絵があった。
今日の授業中、外に目をやると綺麗な白い鳥が空に向かって羽ばたいていた。
俺は広げてあったノートにスケッチをした。そして、今日の放課後の部活で描こうと思い、そのページをノートから切り離してポケットに入れておいた。
ポケットを漁る。
お、あった。
ポケットから出すと少しグシャグシャになっていた。
俺は机の上に広げてシワを伸ばした。その時、
「白川くん!ここだったんだ!......探しちゃったよ」
「え......夜瀬さん?」
夜瀬さんはクラリネット片手に肩で大きく息をしながら言った。
走ってきたのか。......でもなんでこんなところまで探しに来てくれたのか。
「今日はさ、空いてる教室見つからなくてここにしたんだけど、夜瀬さん大丈夫?」
彼女は学校中を探し回ったらしく、額には少しだけ汗がかいていて前髪が乱れていた。
「大丈夫、大丈夫!ちょっと座るね」
彼女はクラリネットを机に置いて俺の隣に座った。ポケットからハンカチを取り出して汗を拭い、指で前髪をサッととかした。
「今日はどうしたの?」
今日は金曜日だ。夜瀬さんも部活中なはず。
「今休憩中なんだけどね。あのことで白川くんに聞きたいことがあって、それで考えたら今聞きたくなっちゃって!まだ帰ってなくてよかったよー」
彼女はほっとした顔で言った。
あのことって一緒に夕焼けの空を見ることだろうか......。多分そうだよな、今聞かれたら焦るな......。
「夕焼けいつ一緒に見に行く?!」
聞かれることはなんとなく分かっていたが、彼女は直球に聞いてきた。
俺は固唾を飲み、動揺を隠して答える。
「んーどうしようか。部活がない月曜日がいいよね」
「そうだね!月曜日がいいかも、白川くんは大丈夫?」
いや、まて。今日は金曜日だからすぐに月曜日がきてしまう。それはちょっと早すぎる。再来週なら心の準備ができるはずだ。
「来週の月曜日じゃなくて、再来週の月曜日でもいいかな?あ......あの、来週の月曜日はこの絵の続きを描きたいなーなんて思ってて」
俺は咄嗟に鳥が描いてある、ある程度シワがなくなった紙を夜瀬さんに見せて言った。
「わー凄い鳥だ!鉛筆で描いてあるのにめっちゃ上手!綺麗......」
目を丸く光らせながら絵を見ている。
彼女はもはや描いた鳥に夢中だった。
「あ、あの......再来週の月曜日でいいかな?」
俺は再びそう聞いた。
「あ、ごめんごめん。えーっと、ちょっと待ってね」
彼女はポケットからスマホを取り出した。
多分その日が大丈夫かという予定を見てくれている。
すると彼女の顔が上がり、
「再来週は9月27日の月曜日、大丈夫だよ!」
「そっかよかった、ありがとう」
すると、彼女は空を向いた。
「また夕焼けの空を白川くんと見ることができて嬉しいな〜、白川くんから中々言ってくれないし連絡こないからもう忘れちゃってるのかと思ったよ」
俺の方見て軽く睨んだ。
夏休みの間も連絡するの迷ってたし、意気地のないやつだと思われてるに違いない。
「ごめんごめん、いつ言おうか考えてたんだ。本当ごめん!!」
彼女には意気地のないやつだと思われたくないから必死で謝った。
すると彼女は俺の方を見てクスクスと笑い始めた。
「あ、冗談だよ!そんな必死に謝らないでよ〜、白川くんって素直で面白いよね!そういうとこ好きだなー」
「......え」
彼女と目が合ったが2人とも咄嗟に違う方を向いた。
隣を見ると、いつもは白い彼女の耳がほのかに茶色っぽく色づいていた。
好きって言ったか......?恋愛的なのじゃなくて性格がってことだよな......?
「あ!」彼女はそう言って立ち上がった。
「じゃあそろそろ休憩終わるから部活行かないと!じゃあ再来週の月曜日の帰り、教室にいるね!またね!」
彼女はクラリネットを抱えて急いで教室を出て行った。
俺の心臓は今にも飛び出してきそうだった。
好き......。
俺は彼女と出会ってから今まで、彼女の無邪気なところや大人っぽいところ。努力家で好きなものには一途なところ。音楽を心から楽しみ、俺の色に重ねてくれたこと。
すべての新しく知る一面に、自然と惹かれていた。
俺と同じ思いかは分からないが、俺は彼女のすべてを好きになっていた。
だから本当の自分を見せたい。
知ってもらいたいと思ってしまった。
彼女が、俺の群青の世界を照らしてくれていると感じてしまった。