夏休みが明けて、普段の学校生活へと戻った。
 今年の夏は、いつもよりも充実していた気がした。
 一見、9月は秋のような感じがするが、実際は気温が高く、太陽が眩しく鬱陶しくさえ感じた。
 9月の中旬にもなると進路の話が教室で飛び交うようになってきた。
 「絵橙!」と楓が後ろから小さな声で俺を呼んだ。
 「橘さん推薦もらったんだって」
 「へえー凄いな」
 そういうのを聞くと態度には出さないが、心の中ではやっぱり焦る。
 合格か......。俺も勉強と絵、頑張らないと。
 そう思っていた時、左後ろ、つまり楓の隣の席の山本が、
 「凄いよなー、俺なんて夏休み宿題終わらせるのに必死だったから受験勉強全然やってないわーやばいー」
 「お前はもうちょっと勉強しろ!」
 楓はそう言って笑いながら山本にグーパンチをした。すると、
 「あれ、楓なんか焼けた?なんか前より黒くね?」
 山本が楓の腕を掴みながら言った。
 「夏といったら海水浴だろ!夏休みは空いてる日はほぼ海に行ってたなー、どう?かっこいいだろ!」
 筋肉を見せるかのような決めポーズをして楓は言った。
 「お前こそちゃんと勉強したのかよ!」
 次は山本が楓にグーパンチをする。すると、
 「俺は塾に行ってるからやってんだよ、俺はスーパーマンだから泳げるし勉強もできちゃうんだな!」
 そう言って山本の肩に手を置く。
 「スーパーマンなら次の授業の支度くらいしとけよ!」
 「お、しまった!」
 「フッ」
 そう言うと、楓は自分のロッカーへと走っていった。
 2人のやりとりに思わず笑ってしまった。

 楓は夏休み、海に行っている写真を送ってきた。画面越しでもその暑さが伝わってきそうだった。
 そして描いた絵も楓は送ってきた。その中に海の絵も何枚かあった。楓は、勉強も絵も好きなことも器用にこなしていた。
 その裏ではきっとたくさん努力してるんだろうな。
 俺は、楓が急いでロッカーから持ってきた付箋だらけの教科書を見てそう思った。
 俺も頑張らないと。
 そう思わせてくれる友達がいるって幸せだな、と改めて感じた。

 
 帰りの会が終わった。
 「絵橙ー」
 俺を呼ぶ声が後ろから聞こえた。
 「今日部活する?俺、講評会の作品はもう描けたし、今日は帰って家でスケッチとかエスキースしようかなって思ってるんだけど......絵橙はどうする?」
 俺も一応講評会の作品は描けていた。しかし、今日は絵が描きたい気分だった。
 「俺は今日やってくよ」
 「分かった!じゃあまた来週なー、気をつけて帰れよ!」
 「うん、ありがとう!」
 
 楓と別れた後、俺は道具を取りに美術室へと向かった。