「わーすごいね!人がいっぱい!」
 彼女は目を大きく輝かせながら言った。
 多くの屋台からは白い光が付いていたから、俺はスマホのライトを消した。
 「夜瀬さん何か食べる?」
 「んーどうしよっかなー......あ!かき氷食べたいかも!」
 彼女は右手の人差し指を上に指して、俺の方を向いて言った。
 「いいね、かき氷!じゃあ探そうか!」

 俺たちはかき氷が売っている屋台を探した。
 どの屋台も賑わっていて、目移りしそうだ。
 たまにはこういうワイワイしたところも悪くない。
 すると、1つの屋台に「氷」の文字が見えた。
 「あ、夜瀬さんあったよ!......あれ?」
 隣には彼女の姿がなかった。
 やばい、かき氷を探すのに夢中で気づかなかった。でも手を繋ぐのはさすがに付き合ってもないのにできないよな......。
 「白川くん!」
 後ろから俺の名前を呼ぶ声が聞こえた。
 彼女は、人の間を部活の椅子を華麗に避けるかのように通り抜ける。
 「夜瀬さんごめん!前しか見てなかった、大丈夫だった?」
 彼女はなぜか手を後ろにしながらこっちへ来た。
 「大丈夫!わたしこそごめんね!部活が忙しいとこうゆうの行く機会ないから、周りの屋台ゆっくり見ちゃってたの。それに......じゃーん!今、誰も並んでなかったから綿菓子買っちゃった!」
 彼女は無邪気な笑顔で綿菓子の袋を見せながら俺に言った。
 俺も思わず笑顔になった。
 彼女のたまに出る天真爛漫な姿が好きだなと感じた。
 「荷物にならない?大丈夫?」
 彼女は目と口を同時に開いた。
 「確かに!今からかき氷買うのに!帰りに買えばよかったかなー......でも、今誰も並んでなかったしラッキーだったから大丈夫!あ、何味にしよっかなー」
 それもそうかと思った。
 彼女はすでに綿菓子よりもかき氷に夢中になった。
 コロコロ変わる彼女の表情が、俺の緊張を自然と溶かしていた。
 俺もさっそく味を見る。
 「コーラなんてあるんだ、珍しいね」
 「え、コーラなんてないよー!いちごにブルーハワイ、レモンに抹茶、練乳いちご!あ、レインボーなんかあるよ!」
 「あー、ごめん!なんか見間違えてた!へえー、レインボーなんかあるんだ」
 俺は笑って誤魔化した。
 文字を見ずに絵の方を見ていた。
 みんなが見ているいちごの鮮やかなピンク色がコーラのように俺には見えるため、つい言ってしまった。
 彼女の方を見ると、どうやら何味にするか迷っているらしく、俺の間違いにはあまり気にしてなかった。
 よかった、もうちょっと気をつけないと。
 「わたしレインボーにしようかな!白川くんは?」
 やばい、焦って決めてなかった。
 「んー、えーっと......ブルーハワイにしようかな」
 彼女がこっちを見た。ちょっとドキッとする。そして、
 「だと思った!ブルーハワイ綺麗な水色だもんね!」
 「うん、そうそう」
 彼女の言葉に合わせてそう言った。

 俺は正直どの味でもよかったし、どの色でもまあ別に大丈夫だった。なんとなくいつも青系の色を選んでいるからブルーハワイにした。彼女と同じくレインボーにしようか迷ったが、俺には『茶色』『水色』『黄色』に見えるため、この絶妙な色の組み合わせを食べたいとは思わなかった。
 彼女は隣の屋台に売っている、多分いろんな色でピカピカ光っているであろうおもちゃを見ていた。
 「えっと、レインボーとブルーハワイをお願いします」
 「はーいじゃあ600円ねー」
 「はーい」
 ここは俺が払うべきだから、彼女がおもちゃを見ている間に払っておこう。
 「あ、ごめん白川くん。いくらだった?」
 「いいよ、俺が今日誘ったんだから。夜瀬さんは綿菓子落とさないように持っときな」
 「フフッ、白川くん面白いね、ありがとう!」
 何か面白いことでも言っただろうか。
 彼女を見ると笑いながら大きな綿菓子の袋を大事そうに抱きかかえていた。
 「夜瀬さん今何時か分かる?」
 俺はかき氷を両手で持っていたため、スマホが出せなかった。
 「えっとねー、19時38分だよ!もう少しで花火始まるね!」
 「じゃあ急いで移動しようか!あの......さ夜瀬さん、悪いんだけど転ぶと危ないからスマホのライト付けててもらってもいいかな?」
 「うんいいよ!」
 彼女は何も聞かず付けてくれた。
 まあさすがに暗くなってきたから怪しまれなかった。