今日は花火大会の日。そう、夜瀬さんとの。
 俺は昨日の夜、緊張で全く寝つくことができずこの日を迎えてしまった。
 どんな格好で来るだろうか。
 どんなことを話せばいいのか。
 花火がよく見えるスポットはどこか。
 色々と考えてしまった。
 でも今は楽しみの方が勝っている...かもしれない。

 俺はお昼を食べるためにリビングへと向かった。
 ドアを開けようとしたが自動ドアみたいに勝手に開いた。
 「うあ、びっくりした......」
 「ああ、絵橙!ちょうどご飯できたよ」
 お母さんがお昼ご飯ができたため、俺を呼ぼうとしていたのだ。
 今日のお昼はそうめん。
 昨日まで考え事で胸がいっぱいだったから、そうめんはツルッと喉に通りそうでよかった。
 「絵橙、今日の花火大会行ってくるの?」
 「うん、行こうと思ってる」
 「へえー誰と行くの?」
 「普通に友達だよ」
 「ふーん」
 お母さんはニヤッとして俺を見た。
 俺はすぐに麺を啜る(すする)。
 一瞬ドキッとする。
 誰と......ってそういう質問はしてこないで欲しい。余計に恥ずかしくなる。
 「まあ、気をつけて行ってくるんだよ!帰り暗いけど大丈夫?」
 「大丈夫だよ」
  お母さんは夜出かけることをいつも心配している。俺のことをいつも気にかけてくれている。
 俺はちゃんとそのことを分かっている。


 時間を確認する。
 「18:32」
 そろそろ出た方がいいか。
 すぐ着いてしまうと思うが、待ち合わせには先に着いていた方が絶対にいい。
 靴を履く前にリビングに寄る。
 リビングではお母さんとお父さんがパソコンで作業をしていた。
 「じゃあ行ってくるね」
 「行ってらっしゃい!気をつけてね!」
 「行ってらっしゃい!楽しんでこいよー」
 「うん、行ってきます」
 外に出ると、ムアッと蒸し暑い空気が押し寄せた。
 そしてスマホのライトを付ける。

 郵便局のポストに集合って送っちゃったけど、ポストはいらなかったか。ポストがあるのは当たり前だ。目印的なのがあった方がいいと思ってそこにしたけど、夜ならポストが赤くても分からないから関係ない。
 まあ俺には昼でも関係ないけど。
 こんなどうでもいいことを考えて郵便局を目指した。
 緊張からか、自然と前へと足が進んでしまう。

 郵便局のポストに着くとまだ夜瀬さんの姿はなかった。
 よかった......これで彼女が待っていたら申し訳ない。
 「18:44」
 まだ時間には余裕があった。
 20時から花火が始まるから、それまでは海岸近くの通路で屋台がやっているからそこに行こう。屋台に行って何か買ったりした方が、賑やかな雰囲気もあって話す話題が出てきたり、自然と緊張が解けていくかもしれない。
 もうすでに俺の心臓はバクバク状態だった。
 空を見上げると、真っ黒な空に数えきれないほどの星が見えた。とても綺麗でずっと見ていたいと感じてしまう。

 すると、誰かが歩いてくる靴の音が聞こえてきた。
 「白川くん!お待たせ!ごめん、待った?」
 左を向くと彼女が小走りで駆け寄って来た。
 ふとスマホのライトを彼女に向けた。
 淡い黄色のフワッとした花柄のワンピースに髪の毛はいつもはストレートだが、今日は毛先がくるくるしていた。いつもの学校での雰囲気とは違って大人っぽく、より魅力的に見えた。
 それと同時に俺は安心した。
 彼女がもし赤い服を着ていたら黒なのか判別が付かず、また傷つけてしまうと思った。
 「俺も今来たところ。花火までまだ時間があるし屋台の方行ってみる?」
 「うん、行こう!」
 俺は待ち合わせでの決まり文句を無意識のうちに言っていた。
 ちょっと照れ臭かった。