彼女の演奏会に行ってから2週間が経っていた。
美術の大学への受験に向けて枚数を重ねていた。もちろん勉強もちゃんとやっていた。
そして8月もそろそろ終わりが近づいていた。
外を見ると、思わず汗が出そうな暑さが目に見え、いかにもアスファルトから陽炎(かげろう)が立っていそうだった。
時計を見た。
「15:10」
今日はお昼くらいに起きて、今はベットの上でスマホを見ながらダラダラしていた。
俺は壁に貼ってあるカレンダーを見る。
今週の日曜日、毎年恒例の地元の花火大会がある。
花火は、色覚障害と分かってから楓としか見に行ったことはなかった。別に花火だからといって避けていたわけではない。ただ単に、楓とは小さい頃からこういうイベントには一緒に行っていたから、なんとなく行くようになっていた。
でもなぜか今の俺は、花火を誰かと見たい気持ちになっていた。もちろん夜瀬さんと。
花火は光や色だけではなく、音でも十分に夏を感じられる。
今日こそ夜瀬さんに連絡してみようかな......いや、俺が彼女を花火大会なんか誘っていいのか?
俺はこの数日間、夜瀬さんに連絡をするかしないか迷いに迷ってまだしていなかった。
俺から連絡するって言ったのに、まだ連絡をしていないなんてとんでもない臆病なやつじゃないか。
よし、するだけしてみよう。
俺はこの日、意を決して連絡することを決意した。
緊張して文字を打つ手が震える。
落ち着け。
〈♪夜瀬さん久しぶり。元気?連絡遅くなってごめん。突然なんだけど、夜瀬さん8月22日の日曜日って空いてる?もしよかったらでいいんだけど一緒に地元の花火大会行かない?無理なら全然断ってくれて大丈夫だから!〉
変じゃない......よな......?
何度も文面を見直した。
「送信!」
打って送るだけでも緊張して心臓が飛び出してきそうだった。
スマホの通知を何度も確認する。
「まだかー、一緒に行ってくれるかなー」
俺は送ってからそのことで頭がいっぱいで、絵なんて到底描けなかった。
夜ご飯を食べてお風呂に入っても彼女からの返信は来ず、時計を見ると「21:12」
〈♪ピロン〉(通知が来た音)
「え?!」
俺は、充電中のスマホを充電器から外して通知を見る。
「夜瀬さんだ!」
うわー、いざとなると見るのちょっと緊張するし怖いな。いや、見よう!
俺は恐る恐る開いた。
《♪久しぶり、元気だよ!返信遅くなっちゃってごめんね!連日部活で、今日も遅くまで練習あったもんで!わたしも花火大会行きたかったの!その日は部活ないからいけるよ!》
よし、やったあ!!
俺は思わずガッツポーズをした。
こんな姿は夜瀬さんに見せたくないと思う。
軽やかになった指先でメッセージを送る。
〈♪本当に?!ありがとう!じゃあ19:00に学校近くの郵便局のポストのところに集合でいいかな?〉
《♪いいよ!楽しみにしてるね》
俺は思わずベットにダイブした。
楽しみにしてるね......ってこれは俺とじゃなくて、花火が......だよな?
彼女とまた色んなことを話したい。
そしていつか、俺は彼女に、俺の見えている世界について話せる日は来るのだろうか。
そんな日は来て欲しいがそれと同時に、まだ言うのは怖いと思ってしまった。