今日の放課後は、月の最後の金曜日。
講評会の日だ。
久しぶりに部員が美術室に集まる。
俺と楓は大して急ぐ必要はないが、美術室へと走った。
美術室に入るとまだ誰もいなかった。
「まだ早かったかー。ま、準備しようぜ!」
「ああ」
俺たちは準備を始めた。
一応イーゼルを四つ並べて、椅子は7か...いや、先生を入れて8か。
部員が少ないせいか、いつも先生の分を忘れてしまう。今日は大丈夫だ。
特に運動部かもしれないが、部活というのはよく後輩が進んで手伝ったり、何もかも準備をする、というのが暗黙のルールになっていると思う。
しかし俺たちの部活ではそこまで気にしていない。
気づいたらやる。
このくらいがちょうどいいと俺は感じている。
「ちわーす!」
「こんにちは!」
「お久しぶりです!」
振り返ると2年生の部員3人が入ってきた。
楓が歩み寄る。
「おう!久しぶりだな!!ちゃんとやってたか〜?」
楓が、2年生の3人のうちの1人の男子部員、宮本くんの肩に手を回して言った。いわゆるウザ絡みだ。
「やってきましたよ!楓先輩こそやったんですか〜?」
「やったわ!!」
そんな2人が月1で繰り広げる絡みを、俺と坂崎さんと深見さんは笑いながら見ていた。ガチャッ。
「こんにちは!」
「失礼します!」
「おう!久しぶり!!」
楓が入り口から聞こえてきた声に振り返って言った。
「久しぶり!荷物ここに置きな」
「ありがとうございます!」
「ありがとうございます!」
まだ緊張感が残っている1年生部員の岡部くんと西村さんに俺も声を掛けた。
「よーし全員揃ったことだし、作品前に置いてくぞー」
「はーい!」
「はい!」
この美術部の部長は楓だ。
部長とは思えないくらいの緩い声掛けとマイペース。
なぜか自然とついていき、隣に並びたくなるような背中だ。
どの部活でも部長やリーダーという立場的には上になる者は嫌われる、などとよく言う。
しかし楓は、自分が持つコミュニケーション力とユニークさ、そして絵の才能。そういった自分にしかない持ち物を、楓は気づかぬうちに落としている。
その落とし物を俺は知っている。
それが楓の魅力である。
自分の作品を持ってくると、適当な順番で並べていく。
『絵には、順位や年齢、上手さはない。自分の作品かどうかだ』
それを教えてくれたのは顧問の大川先生である。
この言葉は新入生が入部する度、1番最初に言っている。
俺も今年で3回目。この言葉は不思議と忘れられない。
そして紙に題名と名前を書いて作品の隣に置いておく。
作品が誰のか分かればいいのだ。
先生が来る前にみんなの作品を流し目で見る。
『空の出口』 鈴宮楓
『カタチ』 深見凛
『嬉しさ』 西村流加
『果実の集まり』 坂崎明日香
『それぞれの暮らし』 宮本渚
『わずかな風景』 岡部天陽
『青と白い鳥』 白川絵橙
「絵橙、岡部くんの絵は夕焼けの空だよ」
「分かった、ありがとう」
楓が耳元でそっと教えてくれた。
空であることと、青い空ではないことは分かっていたが、いつの時間帯の空であるかまでは正確には分からなかった。
「お、今日もみんな揃ってるね。始めるかい」
みんなで声の主の方へと振り返る。
大川先生が来て、俺たちの部活は始まった。