それから彼女とは、たまに月曜日に会うようになった。
 楓は月曜日、帰りの挨拶をすると基本的に誰よりも早く教室を出ていく。
 「絵橙またな!」という声が後ろから消えていくように聞こえる。
 その後に彼女が来て、適当に空いている教室を見つけては話していた。
 彼女は俺にたくさんの話をした。
 そして時に質問をした。
 俺の絵から浮かぶ色と音のこと。
 今日の空や海のこと。
 好きな空のこと。
 ピアノのこと。
 お互いの好きな食べ物のこと。
 進路のこと。
 夢のこと。
 そして好きな色のこと。

 好きな色。
 この質問には『群青色』と答えた。
 もちろん俺は嘘をついた。
 群青色は好きではなく、好きにならなければいけない色。
 本当は何色を好きかなんて分からない。
 俺は色覚障害を隠すため、たくさんの色に溢れた世界を群青色の世界に塗り替えた。
 そう、俺の好きな色は群青色。
 好きな色、というのはいつか本当に分かる日は来るのだろうか。 
 「夜瀬さんの好きな色は?」
 「んーー、秘密!」
 彼女は、その質問だけそっぽを向いてそう答えた。
 秘密ってなんだ?

 彼女は明るい姿もありながら、大人のような落ち着いた姿もある。その人の雰囲気というのを見ると、好きな色というのは意外にも分かる時がある。
 んー......中々思いつかなかった。
 彼女は一体何色が好きなんだ?
 やはり、この答えだけは分からなかった。