土日を挟んだ翌週の放課後。
俺たちは月曜日の放課後は、部活をしないことにしている。
いわゆるオフ、ということだ。
月曜日は2人とも土日を挟んだせいなのか、その放課後は筆に力が入らず、集中も続かない。そう、やる気があまり出ない。
そのことを2人とも感じ、分かってからは、月曜日は部活をしない。そう自然となっていた。
今日は疲れたから家に帰ったら寝よう!
俺は廊下を歩きながらそう思った。
そう思っていた時、
〈ラレレーレミレミラファ#ミレー・・・〉
音が聞こえ、通りがかった教室を見ると、
「え?夜瀬さん?」
「え?白川くん?」
しまった。
俺は思わず声に出してしまった。
集中して吹いていたのに邪魔をしてしまった。
俺は急いで、
「ごめん邪魔して!じゃあ」
俺は彼女にそう言って、足を動かした。
すると、
「待って!!ちょっと話さない?」
彼女は右手でクラリネットを持ちながら、左手で俺を呼び止めた。
「お願い!!!」
彼女の必死そうな顔に、俺は強制的に頷いていた。
俺は仕方なく隣に座った。
って、ん?あれ?俺はふと思った。
「今日って吹奏楽部、部活ないんじゃないの?今日月曜日じゃん!」
この学校の吹奏楽部は月曜日は休み、ということになっている。
この学校に来た時からそうだ。
だから月曜日は基本的に学校中に吹奏楽部の音は響いていない。
すると、彼女はクラリネットを軽く持ち上げて、
「自主練してるんだー。私と美凪の3年生2人で、私は吹く方の楽器だから、私がみんなを引っ張っていかないと!もっと上手くならなきゃ」
彼女はそう吐き捨てるように言った。
「そうなんだ。俺、あんまり音楽に詳しいわけじゃないんだけどその楽器クラリネット......だよね?......もしかしてそれ自分のなの?」
俺は思わず彼女に聞いていた。
「そう!クラリネット!よく知ってるね!そうそう、自分のだよ!触ってみる?」
彼女は笑いながら俺に聞いた。
いやまてまてまて、こんなピカピカで高そうなの俺には触れない。いや、触っちゃいけないと思った。
しかし彼女はすでに、俺の近くにクラリネットを持ってきていた。
俺はそれに答え、ゆっくりとクラリネットに手を伸ばし、ピカピカとしているような気がする金属部分を触って押した。
〈カチカチ、カチカチ〉
金属部分に触ると、押すごとに小さな音がした。
そして黒い筒の部分にはいくつもの穴が空いていて、金属部分だけではなく、押すところがたくさんあった。
「どう?触ってみた感想は?」
彼女は覗き込むようにそう聞いてきた。
俺は反射的に目線を逸らして言う。
「俺には到底扱うことができないなって思った」
俺は触ってみて率直に思ったことを口にした。
夜瀬さんの方を見ると、目を丸くして俺を見ていた。
......ん?なんか変なこと言ったかな......。
ほんの少しの沈黙の後、彼女はフッと笑った。
「何それ!演奏するのを想像したんだ!まあたしかに私も最初は難しくて心折れてたよー」
彼女はクラリネットの穴の位置に指を置き、ピアノを弾いているかのように〈カチカチ、パコパコ〉と動かして笑いながら言った。
そして彼女は何か閃いたかのように目を見開いた。
「あ、ねえねえ!私さ、白川くんともっと仲良くなりたいからちょっと聞いてみたいことあるんだけどいいかな?」
聞く......?
なんだろう......。
一瞬、氷の矢が胸を刺したかのようにドキッとした。
「いいけど......」
何を聞かれるのかビクビクしながら俺はそう答えた。