「へえー、そんなことがあったのか......。大丈夫だよ絵橙!気にするな!絵橙には俺がいるから安心しろ!」 
 昨日の出来事をお昼休みに楓に話した。
 楓は、俺が昨日のことを心配そうに話していたのを感じてくれたのか、持っていたおにぎりを置いて話を聞いてくれていた。
 楓に話したらなんとなく大丈夫な気がしてきた。
 やっぱり楓には助けられてばかりだ。
 楓がおにぎりを美味しそうに頬張っている姿を見て、俺は少し安心してお弁当を食べ始めた。


 食べ終わり、休憩がてらスマホをいじっていた。
 そろそろ授業が始まるころ俺たちは自分たちの教室へと急いだ。
 楓は軽くなったお弁当の袋を持って、俺の前を颯爽と走った。
 「次なんの授業だっけー?」
 「え......?」
 ハアハア...ハアハア...。
 「あー数学か!」
 楓は運動部でもないのに運動神経がよく、足も速い。しかも走りながら話せるという余裕。
 食べた後なのにこいつやばいな。
 俺は走るのに精一杯だった。


 教室に駆け込むと楓は時計を見た。
 「お!間に合った!あと3分もあるじゃん、ラッキー!」
 俺は走り疲れて声が出なかった。
 すぐに自分の席に着き、座って水筒を飲む。
 「やばい!わたし今日当番だったんじゃん!!黒板消さないと!」
 後ろの方から焦った声が聞こえた。
 「今日は桜さんが当番かー」
 楓が後ろからぼそっと言った。
 「美凪!わたしも手伝うよ!」
 「ありがとう楽空!!感謝!!」
 あれが桜さんか。
 桜美凪(さくらみなぎ)。
 夜瀬さんとは違い、茶色く、運動部と思わせるようなショートヘア。芸能人かと思うような大きな目が特徴的だ。
 「はーい席つけー」
 「はーい!」
 「はーい!」
 次の数学の先生が入ってきたため、2人は慌てて黒板を消し、同時に返事をして自分の席へと戻って行った。
 夜瀬さんと桜さん。
 2人は背の高さが一緒くらいだった。
 それに同じ部活のこともあってか、息ぴったりの動きをしていた。
 俺と楓が同じことを考えるように、一緒いると動きまで似てくるのか......。
 でも俺は、楓のような変な動きはしない......。いや、したくはない、そう思った。