手を洗い終わり、教室に入ろうとしたが俺は足をとめた。
「あの......何か用?」
俺の絵の前に立っている女の子に声を掛けた。
クラリネット......?
片手にクラリネット?を持ち、黒く長い髪の毛を一つに結んであり、すらっとした子だった。
この子どっかで......。
「この絵素敵だよね!思わず見入っちゃった」
彼女は、二重まぶたを押し上げるように目を輝かせながら俺を見て言った。
目が合う。
「......白川くんだよね?たまにこうやって部活の時、学校の中歩き回ってると絵を見ちゃうんだよね。特に白川くんの青が特徴的な絵。その中でもわたし空の絵が好き。いつもさ今日はどんなのかなって気になっちゃって、勝手にごめんね」
彼女は手を合わせながら謝るようにそう言った。
「いや、ありがとう!そんなことを言ってもらえて嬉しいよ」
素直に俺は嬉しかった。思わず顔が綻んでいたであろう。
でも、俺の絵を美術部以外の人が見てるなんて知らなかった。
あっ!思い出した。始業式の日の朝に俺とぶつかった子だ。それでたしか......今日のお昼の時に楓が言ってた同じクラスの吹奏楽部の人か。
その2人のうちのどっちの名前だろう。
「......白川くん、私の名前知ってる?」
うっ。
申し訳ないけど分からなかった。いや、迷った。
夜瀬さんか、いや桜さんか。
どっちだ?
さすがに本人に向かって知らない、と答えるのは失礼だろうか。
「知らないなら知らないで大丈夫だよ!初めて同じクラスになったんだもん......でもわたしは白川くんって名前知ってたけどね!」
「すいません!ごめん、知らないです!」
俺はその言葉しか出なかった。
しかし彼女の方を見ると気にしなくていいと言わんばかりの屈託のない笑顔があった。