「怪我はないか? コーディ」

「ええ、何とか」

 私は微笑みながら頷いた。
 すると、様子を窺っていたオリバーとエマがこちらに駆け寄ってくる。

「コーデリア様!」

 エマは涙を流しながら私に抱きついてきた。

「コーデリア様……ご無事で何よりです」

 オリバーも、そう言って涙ぐみながら笑顔を見せる。
 私は思わず涙が零れそうになるのを堪えながら微笑み返すと、改めて勝利を噛みしめた。

(あとは、ビクトリアからエマさんにかけた呪いの解き方を聞き出すだけね)

 そんなことを考えながら、気を失っているビクトリアのほうを見やる。
 一先ず、異界の門を閉じることには成功した。あとは、エマにかかった呪いを解いてあげられるかどうかだ。
 無事に任務を終え、鉱山の外に出ると、ケイン、ウィル、ダグラスの三人が出迎えてくれた。

「皆さん、ご無事でしたか!」

 ダグラスが胸を撫で下ろしている横で、ケインとウィルも少し興奮気味に声を上げる。

「お怪我はありませんか?」

「ええ、大丈夫です。無事、異界の門を閉じることに成功しました」

 私はにっこりと微笑む。ダグラスはそんな私の様子に違和感を覚えたのか、僅かに首を傾げた。

「それは良かったです! でも、その……もしかして、中で何かあったんですか?」

 そう聞かれたので、私は簡単に経緯を説明することにした。

「なるほど……そんなことがあったんですね。それにしても、よくその状況から形勢逆転できましたね」

 ダグラスは驚きながらも、感心したように頷く。
 私は苦笑すると、後ろにいるジェイドたちに視線を向けた。

「皆さんのお陰です。皆さんがいたからこそ、あの魔物に勝てたんですよ。私一人だったら、きっと勝てなかったと思います」

 そう返すと、ダグラスは納得した様子で「なるほど」と頷いた。

「……皆様、本当にお疲れ様でした!」

 ダグラスは労りの言葉をかけてくれる。そして、私たちに向かって敬礼をした。
 私たちは顔を見合わせると、喜びを分かち合うように微笑む。
 街に戻ると──いつの間にか雪が止み、雲間から太陽が顔を覗かせていた。辺りは一気に明るくなり、積もった雪に日差しが反射してキラキラと輝いている。
 久々に目にした明るい景色に見惚れていると、不意に隣にいるジェイドに名前を呼ばれた。

「コーディ。その……さっきの話だが」

「はい……?」

 何のことだろうかと首を傾げていると、彼は照れ臭そうに視線を逸らす。

「……いや、その……君も、俺のことを好きだと言ってくれていた件なんだが……あれは、言葉通りに受け取っていいのか?」

 確かにそんなことを言ったような気がする。
 途端に、あの時の自分の発言に対する羞恥心が蘇ってきた。

「え!? ほ、本当……ですよ」

 しどろもどろになりつつもそう答えれば、ジェイドは言葉に詰まりながらも「そ、そうか……」と呟く。

「ということは……つまり、両思いということだな」

「ええと……そうなりますね……」

 何と言ったらいいかわからず、私は困ったように笑うことしかできなかった。
 ふと、ジェイドと視線が絡み合う。その途端、彼は私の肩を掴んだ。そして、不意に首筋に口づけを落とされる。
 ──突然のことに、私は硬直してしまった。

「……え?」

 しばらくの間、そうやって固まったまま動けずにいた。私は動揺と気恥ずかしさを誤魔化すように、空を仰いでみる。
 けれど、流石に何か言わなければと思い、ふと視線を落とした瞬間。ジェイドの柔らかい髪が頬を掠めた。──そう、彼は人の姿に戻っていたのだ。
 そのことも相まって、一気に頬が紅潮していくのを感じる。

「ジェ、ジェイド様……」

 声をかけると、ジェイドは我に返ったように慌てて私から離れた。

「も、申し訳ない……! 両思いだと知って、嬉しくてつい……」

 耳の付け根まで真っ赤に染まった彼を見て、思わず吹き出してしまう。

「ふふっ……あは、あははっ! ジェイド様ったら、顔が真っ赤ですよ!」

 そんな私を見て、彼は困ったように眉尻を下げながらも、やがて一緒になって笑い出す。

「ところで、お気づきですか? ……いつの間にか、元の姿に戻っていますよ」

 その言葉に、ジェイドは今気づいたという様子で目を丸くした。

「え……!? ああ、本当だ!」

 ジェイドは信じられない、といった様子で何度も確かめるように念入りに自分の顔や髪を触ってみせる。

「フランツさんが言っていた通り、異界の門を閉じて瘴気が消えたらちゃんと元の姿に戻れましたね」

 私がそう言うと、ジェイドはようやく嬉しさが込み上げてきたのか満面の笑みで私を見据えた。

「ああ。本当に良かった。ようやく、元の姿に戻れたんだな……」

 ジェイドは実感したようにそう言った。
 再び、空を見上げてみる。今までは街に瘴気が充満していたから、こんなに清々しい気持ちで空を見上げることは一度もなかった。澄み渡る青さが目に染みる。

「そういえば、どうして唇じゃなくて首筋にキスしたんですか?」

 からかうように、そう問い掛ける。
 すると──ジェイドは急に真顔になったかと思えば、私の腰を抱いて自分の方に引き寄せた。

「……なんだ? 唇のほうが良かったのか?」

 そう言いながら、ジェイドはもう一方の手を私の頬に添える。
 どこか余裕のある台詞を吐かれた瞬間、心臓が跳ねるのを感じた。
 妖艶とすら感じるほどの熱のこもった眼差しに見つめられ、体が動かなくなってしまう。

「い、いえ……私には刺激が強すぎるので、唇にするのはもう少し待っていただけるとありがたいです……!」

 視線を逸らしつつもそう答えると、ジェイドは可笑しそうに笑う。

「なんだ、それは。……わかった、もう少しだけ待つよ」

 ジェイドはそう言うと、私の頭を優しく撫でてくれたのだった。