私たちは一旦邸に戻り、それぞれ準備をすることにした。
自室に戻ると、魔除けの香水やポーション、護身用のナイフなど必要なアイテムを鞄に詰め込んでいく。
「よし、準備完了っと」
準備を終えて部屋を出ると、なぜかジェイドが壁を背にして立っていた。
「ジェイド様?」
私が声をかけると、彼はゆっくりとこちらに視線を向けた。
「……すまないが、俺も同行させてもらえないだろうか」
「え……?」
突然の申し出に戸惑っていると、ジェイドは言葉を続けた。
「アランから事情を聞いたんだ」
どうやら、アランは念のため私を連れて行ってもいいかジェイドに許可を貰いに行ったらしい。
「ええと……はい」
私が頷くと、ジェイドはさらに言葉を続けた。
「許可を出したはいいが、やはり心配でな」
そう言って、ジェイドは苦笑する。
メルカ鉱山でのこともあるし、彼の心配ももっともだろう。
「というわけで、今回は俺も付いていこうと思う」
「え? で、でも……大丈夫なんですか? 今は街の復興作業の指揮を執っているんですよね?」
私がそう尋ねると、ジェイドは頷いた。
「ああ。だが、復興作業は順調に進んでいるし、しばらくの間は俺がいなくても問題ない」
「そうなんですね。……分かりました! よろしくお願いします!」
一先ず、私はジェイドの言葉に甘えることにする。
(それにしても……最近のジェイド様、随分と過保護になったような……)
以前はここまで過保護ではなかったはずなのだが。最近、やたらと気にかけてくれるのだ。
「では、早速行こうか」
ジェイドはそう言うと、私の手を取った。そして、そのまま玄関ホールへと向かう。
そんな彼を見て、私は狼狽しつつも尋ねた。
「え? あ、あの……手を繋ぐ必要はあるんですか?」
すると、ジェイドは不思議そうに首を傾げる。
「……駄目なのか?」
(うっ……そんな捨てられた子犬みたいな目で見られると困るわ……。いや、犬じゃなくて熊なんだけど)
などと心の中で突っ込みつつ、私は首を横に振った。
「いえ、駄目ではないです……」
私がそう言うと、ジェイドは嬉しそうに微笑んだ。
(駄目だ……やっぱり、意識してしまう……)
私は顔を上気させながらも、ジェイドと共に邸を出た。
邸を出ると、既に馬車が待機していた。御者台には、アランが座っている。
「待たせたな、アラン」
ジェイドが声をかけると、彼はこちらを振り返った。
「いえ、大丈夫ですよ」
どうやら、アランには既に話を通してあるらしい。
「では、出発しましょうか」
アランはそう言うと、手綱を振って馬を走らせた。
目的地に着くまでの間、私たちは他愛もない会話をしながら時間を潰していた。
ラスター鉱山に到着するのは正午過ぎになりそうなので、馬車の中でサラが昼食として持たせてくれたサンドイッチを食べることにした。
「ジェイド様、どうぞ」
私はサンドイッチを一つ摘まむと、それをジェイドに差し出す。
だが、ジェイドは目を見開いたまま固まっている。
「……?」
私が首を傾げると、ジェイドはハッと我に返ったように小さく咳払いした。そして、躊躇いがちに口を開く。
「ええと……つまり、このまま食べていいということか?」
ジェイドがそう尋ねてきたので、私は頷く。
それを見たジェイドはゆっくりと口を開いて、私の差し出すサンドイッチを口に含んだ。
(なんだか、餌付けをしている気分になるわ……)
そんなことを思いつつも、私はジェイドにサンドイッチを食べさせながら微笑む。
「美味しいですか?」
私が尋ねると、ジェイドはこくりと頷く。
普段は冷静沈着で大人っぽいけれど、こういう時はとても可愛らしく見える。
「ああ、美味しい」
もぐもぐと口を動かしていたジェイドが、満面の笑みを浮かべながら言った。
「それにしても、あれだな……こういう食べ方をすると、その……まるで、本物の夫婦みたいだな」
「え……?」
私はジェイドの言葉を聞いて、私は思わずサンドイッチを落としそうになった。
(た、確かに……!)
よく考えてみれば、サンドイッチを手に持って食べさせるなんて、まるで新婚夫婦のようではないか。
「あ、その……別に、そんなつもりじゃ……!」
私は狼狽しながら弁明する。
すると、ジェイドはくつくつと笑った。でも、その笑顔が少し寂しそうに見えたのは気のせいだろうか。
「分かっている。冗談だ」
「もう! ジェイド様ったら、ひどいですよ!」
私が頬を膨らませると、ジェイドは「すまない」と言って苦笑した。
私たちがそんなやり取りをしていると、横からレオンが「ワンワン!」と吠えた。
『ジェイドだけずるい! 僕も! 僕も食べさせてよ!』
ふと椅子の上に乗っているノートに目をやると、ペンがそう書き綴っていた。
どうやら、レオンもサンドイッチが食べたいようだ。
「レオンも食べたいの?」
私が尋ねると、レオンは嬉しそうに「ワン!」と吠えた。
私は苦笑しつつも、サンドイッチを一つ摘まむとそれをレオンに差し出した。
『やった! コーデリア、大好き!』
「はいはい」
私は適当に相槌を打ちながら、レオンがサンドイッチを食べる様子を眺める。
(なんだか、こうしていると親子みたいね)
そんなことを考えているうちに、馬車はラスター鉱山に到着したのだった。
私たちは、ラスター鉱山の入り口で馬車を降りる。
この鉱山の開発は途中で止まっているため、現在はごく一部の人間しか立ち入っていない。そのためか、辺りは静まり返っている。
(なんだか不気味ね……)
私はそう思いながらも、魔除けの香水を体に振りかける。
そして、タリスマンをぎゅっと握りしめた。
「では、入りましょうか」
私がそう言うと、ジェイド、アラン、レオンの三人はそれぞれ頷いた。
そのまま、鉱山の中へと足を踏み入れる。中は薄暗く、ジメジメとしていた。
(なんだか、空気が重い……)
私は思わず顔を顰めた。
しばらく歩き続けていると、やがて開けた場所に出る。
「どう? レオン。この辺りに、天紅結晶はありそう?」
私は歩きながらレオンに問いかける。
「クンクン……ワンッ!」
ノートを見てみれば、『こっちだよ!』と書いてあった。レオンは吠えながらも奥へと進んでいく。
やがて、レオンは一点を見つめながら立ち止まった。その視線の先にあったのは、一際大きな岩石だった。
「あれか?」
ジェイドが尋ねると、レオンは「ワン!」と鳴きながら首を縦に振った。
「よし、早速採取しよう」
私たちはその大きな岩石に近づくと、天紅結晶を採掘することにした。
まずは、ツルハシを使って岩石を掘り進める。
岩石は硬く中々に手強かったが、無心になって岩を掘り続けること数十分。ようやく、目的の天紅結晶を採取できた。
「うわぁ、綺麗……」
半透明の赤い結晶を見つめて、私は感嘆の声を上げる。
それは、まるでルビーのような美しさだった。
「これが天紅結晶か……原石を見るのは初めてだ」
ジェイドがまじまじと天紅結晶を見つめる。
「コーデリア様。この鉱石の質はどうでしょう?」
「ええと……ちょっと待ってくださいね」
私は採取したばかりの天紅結晶を鑑定してみることにした。
意識を集中させ、石から感じる波動を読み取ると、自然と頭の中に情報が浮かび上がってくる。
「そうですね……まずまずといった所でしょうか。でも、これなら問題なく使えますよ」
私は笑顔で答えた。
次の瞬間──ふと、背後に冷たい視線を感じて思わず振り返る。
そこには、魔物たちの姿があった。その数、三体。そのどれもが、強烈な敵意を私たちに向けてくる。
「コーディ、君は下がっていろ」
「はい……!」
私がそう返すと、続いてアランも前に出る。
「ご安心ください、コーデリア様。すぐに片付けます」
二人は私を守るように立ち塞がると、それぞれ武器を構えた。
自室に戻ると、魔除けの香水やポーション、護身用のナイフなど必要なアイテムを鞄に詰め込んでいく。
「よし、準備完了っと」
準備を終えて部屋を出ると、なぜかジェイドが壁を背にして立っていた。
「ジェイド様?」
私が声をかけると、彼はゆっくりとこちらに視線を向けた。
「……すまないが、俺も同行させてもらえないだろうか」
「え……?」
突然の申し出に戸惑っていると、ジェイドは言葉を続けた。
「アランから事情を聞いたんだ」
どうやら、アランは念のため私を連れて行ってもいいかジェイドに許可を貰いに行ったらしい。
「ええと……はい」
私が頷くと、ジェイドはさらに言葉を続けた。
「許可を出したはいいが、やはり心配でな」
そう言って、ジェイドは苦笑する。
メルカ鉱山でのこともあるし、彼の心配ももっともだろう。
「というわけで、今回は俺も付いていこうと思う」
「え? で、でも……大丈夫なんですか? 今は街の復興作業の指揮を執っているんですよね?」
私がそう尋ねると、ジェイドは頷いた。
「ああ。だが、復興作業は順調に進んでいるし、しばらくの間は俺がいなくても問題ない」
「そうなんですね。……分かりました! よろしくお願いします!」
一先ず、私はジェイドの言葉に甘えることにする。
(それにしても……最近のジェイド様、随分と過保護になったような……)
以前はここまで過保護ではなかったはずなのだが。最近、やたらと気にかけてくれるのだ。
「では、早速行こうか」
ジェイドはそう言うと、私の手を取った。そして、そのまま玄関ホールへと向かう。
そんな彼を見て、私は狼狽しつつも尋ねた。
「え? あ、あの……手を繋ぐ必要はあるんですか?」
すると、ジェイドは不思議そうに首を傾げる。
「……駄目なのか?」
(うっ……そんな捨てられた子犬みたいな目で見られると困るわ……。いや、犬じゃなくて熊なんだけど)
などと心の中で突っ込みつつ、私は首を横に振った。
「いえ、駄目ではないです……」
私がそう言うと、ジェイドは嬉しそうに微笑んだ。
(駄目だ……やっぱり、意識してしまう……)
私は顔を上気させながらも、ジェイドと共に邸を出た。
邸を出ると、既に馬車が待機していた。御者台には、アランが座っている。
「待たせたな、アラン」
ジェイドが声をかけると、彼はこちらを振り返った。
「いえ、大丈夫ですよ」
どうやら、アランには既に話を通してあるらしい。
「では、出発しましょうか」
アランはそう言うと、手綱を振って馬を走らせた。
目的地に着くまでの間、私たちは他愛もない会話をしながら時間を潰していた。
ラスター鉱山に到着するのは正午過ぎになりそうなので、馬車の中でサラが昼食として持たせてくれたサンドイッチを食べることにした。
「ジェイド様、どうぞ」
私はサンドイッチを一つ摘まむと、それをジェイドに差し出す。
だが、ジェイドは目を見開いたまま固まっている。
「……?」
私が首を傾げると、ジェイドはハッと我に返ったように小さく咳払いした。そして、躊躇いがちに口を開く。
「ええと……つまり、このまま食べていいということか?」
ジェイドがそう尋ねてきたので、私は頷く。
それを見たジェイドはゆっくりと口を開いて、私の差し出すサンドイッチを口に含んだ。
(なんだか、餌付けをしている気分になるわ……)
そんなことを思いつつも、私はジェイドにサンドイッチを食べさせながら微笑む。
「美味しいですか?」
私が尋ねると、ジェイドはこくりと頷く。
普段は冷静沈着で大人っぽいけれど、こういう時はとても可愛らしく見える。
「ああ、美味しい」
もぐもぐと口を動かしていたジェイドが、満面の笑みを浮かべながら言った。
「それにしても、あれだな……こういう食べ方をすると、その……まるで、本物の夫婦みたいだな」
「え……?」
私はジェイドの言葉を聞いて、私は思わずサンドイッチを落としそうになった。
(た、確かに……!)
よく考えてみれば、サンドイッチを手に持って食べさせるなんて、まるで新婚夫婦のようではないか。
「あ、その……別に、そんなつもりじゃ……!」
私は狼狽しながら弁明する。
すると、ジェイドはくつくつと笑った。でも、その笑顔が少し寂しそうに見えたのは気のせいだろうか。
「分かっている。冗談だ」
「もう! ジェイド様ったら、ひどいですよ!」
私が頬を膨らませると、ジェイドは「すまない」と言って苦笑した。
私たちがそんなやり取りをしていると、横からレオンが「ワンワン!」と吠えた。
『ジェイドだけずるい! 僕も! 僕も食べさせてよ!』
ふと椅子の上に乗っているノートに目をやると、ペンがそう書き綴っていた。
どうやら、レオンもサンドイッチが食べたいようだ。
「レオンも食べたいの?」
私が尋ねると、レオンは嬉しそうに「ワン!」と吠えた。
私は苦笑しつつも、サンドイッチを一つ摘まむとそれをレオンに差し出した。
『やった! コーデリア、大好き!』
「はいはい」
私は適当に相槌を打ちながら、レオンがサンドイッチを食べる様子を眺める。
(なんだか、こうしていると親子みたいね)
そんなことを考えているうちに、馬車はラスター鉱山に到着したのだった。
私たちは、ラスター鉱山の入り口で馬車を降りる。
この鉱山の開発は途中で止まっているため、現在はごく一部の人間しか立ち入っていない。そのためか、辺りは静まり返っている。
(なんだか不気味ね……)
私はそう思いながらも、魔除けの香水を体に振りかける。
そして、タリスマンをぎゅっと握りしめた。
「では、入りましょうか」
私がそう言うと、ジェイド、アラン、レオンの三人はそれぞれ頷いた。
そのまま、鉱山の中へと足を踏み入れる。中は薄暗く、ジメジメとしていた。
(なんだか、空気が重い……)
私は思わず顔を顰めた。
しばらく歩き続けていると、やがて開けた場所に出る。
「どう? レオン。この辺りに、天紅結晶はありそう?」
私は歩きながらレオンに問いかける。
「クンクン……ワンッ!」
ノートを見てみれば、『こっちだよ!』と書いてあった。レオンは吠えながらも奥へと進んでいく。
やがて、レオンは一点を見つめながら立ち止まった。その視線の先にあったのは、一際大きな岩石だった。
「あれか?」
ジェイドが尋ねると、レオンは「ワン!」と鳴きながら首を縦に振った。
「よし、早速採取しよう」
私たちはその大きな岩石に近づくと、天紅結晶を採掘することにした。
まずは、ツルハシを使って岩石を掘り進める。
岩石は硬く中々に手強かったが、無心になって岩を掘り続けること数十分。ようやく、目的の天紅結晶を採取できた。
「うわぁ、綺麗……」
半透明の赤い結晶を見つめて、私は感嘆の声を上げる。
それは、まるでルビーのような美しさだった。
「これが天紅結晶か……原石を見るのは初めてだ」
ジェイドがまじまじと天紅結晶を見つめる。
「コーデリア様。この鉱石の質はどうでしょう?」
「ええと……ちょっと待ってくださいね」
私は採取したばかりの天紅結晶を鑑定してみることにした。
意識を集中させ、石から感じる波動を読み取ると、自然と頭の中に情報が浮かび上がってくる。
「そうですね……まずまずといった所でしょうか。でも、これなら問題なく使えますよ」
私は笑顔で答えた。
次の瞬間──ふと、背後に冷たい視線を感じて思わず振り返る。
そこには、魔物たちの姿があった。その数、三体。そのどれもが、強烈な敵意を私たちに向けてくる。
「コーディ、君は下がっていろ」
「はい……!」
私がそう返すと、続いてアランも前に出る。
「ご安心ください、コーデリア様。すぐに片付けます」
二人は私を守るように立ち塞がると、それぞれ武器を構えた。