翌日。
 私はメルカ鉱山で採取してきた魔蛍石を机の上に並べると、早速ランプの製作に取り掛かった。
 研磨をしながら魔力を適量流し込んだ石をランタンの中へとセットすると、徐々にそれは光を放ち始める。

「よし、うまくできた」

 テストをするため照明を消し、完成したランプをサイドテーブルの上に置くと、魔蛍石が放つ強い光が室内を照らし出した。

(あとは、これを量産するだけね)

 ほっと安堵の息を吐いていると、突然部屋の扉がノックされた。

「はい、どうぞ」

 返事をした直後、部屋に入ってきたのはジェイドだった。
 しかも、彼は人間の姿に戻っていた。

(あれ……? ついこの間、戻っていなかったっけ……)

 確か、彼が元の姿に戻れるのは月に数回だったはずだ。
 今月はやけに頻度が高いなと思い首を傾げていると、ジェイドはその疑問を払拭するように口を開いた。

「どうやら、今月は体の調子が良いらしい。ひどい時は月に一度、元の姿に戻れればいい方だったんだが」

「なるほど……体調によって、元の姿に戻れる頻度が左右されるんですね」

「ああ、そうらしい」

 ジェイドはそう言って微苦笑すると、私の隣に腰掛けた。

(あれ……?)

 ふとした瞬間にジェイドが近くに来ると、私は何故かドキドキしてしまう。
 これは一体、どういうことなのだろう? そんなことを考えていると、ジェイドが尋ねてくる。

「早速、ランプを作ってみたのか。どうだ? うまくいきそうか?」

「はい。あとは、これを量産するだけです。ただ、一個作るのに結構な魔力を消費するので……それなりに、時間が掛かるかもしれませんが」

「ふむ、そうか。それなら、俺も手伝おう」

「え……? ジェイド様が?」

 驚いて聞き返すと、彼はこくりと頷いた。

「ああ。一人でやるよりも効率的だと思うぞ」

 確かに彼の言う通りだ。二人で協力すれば、予定よりも早く作業が終わるかもしれない。
 それに、ジェイドが手伝ってくれると言うのなら尚さら心強い。

(でも……)

 私はちらりとジェイドの横顔を盗み見た。

「でも、その……ジェイド様はとても高い魔力をお持ちなので、もしかしたら調節が難しいかもしれません」

 私がそこまで言うと、ジェイドは「あぁ」と何かに気づいた様子で頷いた。

「なるほど、そういうことか。確か、魔力を流し込みすぎるとかえって発光が弱くなってしまうんだったな。でも、心配はいらない。調節なら、ちゃんと出来るさ」

 ジェイドはそう言って微笑む。
 確かに、普通の人なら調節が難しいかもしれないが……よく考えたら、彼は王家からも一目置かれている存在だ。
 石に流し込む魔力を調節することなど、造作もないだろう。

「それじゃあ……お願いしてもいいですか?」

 ジェイドの申し出を受け入れると、私は自身が持っている石に魔力を流し込むことに専念する。
 こうして、私たちは協力してランプ作りを始めたのだった。

「ふう……大分、進みましたね」

 額に汗を滲ませながら呟くと、ジェイドは頷いた。

「ああ。この分だと、今週中には目標達成できそうだな」

 ふと、時計に目をやるといつの間にか午前零時を過ぎていた。
 そろそろ眠らなければ、明日の作業に響くかもしれない。

「じゃあ、私……そろそろ寝ますね」

 そう言って立ち上がると――

「それにしても、君の目は本当に綺麗だな。窓から差し込む月明かりに照らされて、まるでエメラルドのように輝いている」

 ジェイドは私の目をまじまじと見ると、感嘆したように呟いた。

「え!? この目が、ですか……?」

 思わず、目を瞬かせてしまう。
 実家にいた頃は、この目の色のせいで気味が悪いとよく家族から罵られたものだ。
 それなのに、まさか綺麗なんて言葉をかけてもらえる日が来ようとは夢にも思わなかった。

「ああ。コーディは、その目のせいで苦労したこともあったようだが……とても魅力的な色だと思う」

 ジェイドはそう言って柔らかく微笑んだ。
 その笑顔を見た途端――また、胸がトクンと大きな音を立てる。

「……そ、そんなこと初めて言われました」

「それだけじゃない」

 そう呟くと、ジェイドは突然椅子から立ち上がった。
 そして、私の前に立ったかと思えば、徐ろに髪をすくい手からサラサラと零した。
 まるで壊れ物を扱うかのような丁寧なその手つきに、胸の鼓動が加速していく。
 その触れ方が擽ったくも甘い痺れをもたらし──体の中で燻っている熱がじわり、じわりと上がっていくのを感じる。
 私は突然の事態に頭が追いつかず、そのまま固まってしまった。

「この黒髪も、本当に綺麗だ」

「そ、そんな……煽てすぎですよ!」

 ハッと我に返り、慌てて声を上げる。

(分かってる……きっと、ジェイド様は私を哀れんで褒めてくださっているんだわ)

 私は、昔から自分の目と髪の色が大嫌いだった。
 今まで、この目と髪のせいでどれだけ罵られて生きてきたことか……。

「いや、俺は思ってもいないことを口にはしないよ」

 ジェイドがそう言った刹那、互いの視線がぶつかった。
 必死に目をそらそうとするが、なぜか彼の青い瞳に吸い寄せられ、視線を外すことができない。
 どれくらいの時間、そうして見つめ合っていたのだろう。
 永遠にも感じるその時間は、ジェイドが「あっ」と小さく声を上げたことで終わりを告げた。

「す、すまない! その……あまりにも綺麗だったから、つい髪を触ってしまった。……少し、夜風に当たってくる。君は気にせず、もう寝るといい」

 そう言って、彼は足早に部屋から出ていった。
 取り残された私は、その場に呆然と立ち尽くす。

(これって……もしかして……)

 私は、自分の胸にそっと手を当てた。

(この感情を、人はきっと――)

 私は熱くなった自身の頬を両手で押さえて、大きく息を吐き出した。
 ──結局、その日の夜は中々寝付くことができなくて、私は何度も何度も寝返りを打ったのだった。