王女の部屋には十人の兵士が配置され、ラズベルを取り囲むように監視することになった。王女はこの部屋を使えなくなったために、別の部屋に移ることになった。
部屋のことはどうでもいい。
今の懸念事項は妹の腕のことだ。
はたして妹はメタリカルド化されてしまったのであろうか。緊急にクメルを呼びつけることにした。今回こそは本当に緊急だからすぐに駆けつけるべく伝えるように、使いの兵士にはきつく申し付けた。
十五分後、クメルは息を切らしながら現れた。
開口一番、クメルは口にする。
「ファノンの右腕はメタリカルド化されています」
それを聞いたファノンはショックのあまり倒れそうになった。
それを姉のファルナが支える。
「それで、妹はどうなってしまうの? 報告にあった砦のゾンビのように自我を失って人を襲うの?」
「いえ、そんなことはないと思います」
クメルはファノンに向き直る。
「ファノン、痛いところはある?」
クメルの問いかけに、不安そうに軽く首を振りながらファノンは答える。
「い、いいえ。どこにも痛みはありません」
「手を開いたり閉じたりしてみて」
言われたとおりにファノンは手を開いたり閉じたりする。
「じゃあ、これを持ち上げてみて。右手だけで」
クメルはなるべく重そうなベッドを指し示した。どこをどう摑んでよいのか迷っていたファノンだが、とても摑んでも持ち上がらなそうな場所を彼女に握らせる。
だが、ファノンはベッドを軽々と上げてしまった。
「どういうことですの!?」
王女が目を見開いて叫んだ。当のファルナは声が出ないのか、ベッドを持ち上げたまま呆然としていた。
クメルは説明する。
脳を侵食されてメタリカルド化した場合は、そのメタリカルドの支配下に置かれ、自我というものはなくなり、命令通りに行動するしかなくなる。
ところが今のファノンは幸いにも脳を侵食されなかったために、単に腕の機能が強化された状態なのだとクメルは話した。
クメルの説明で安心したのか、ファノンは笑顔を取り戻していた。そして少し冗談めかした言い方をした。
「私――傷物にされてしまったのですね」
そのままクメルの胸の中に寄り添うように顔を寄せる。
「こうなったら一生クメルさんにお世話してもらいます。責任を取ってもらいますから」
「ちょ、ちょっとファノン」
王女はあたふたしながら言った。ファノンは姉に向かって、ちろっと舌を出しておどけてみせた。ファルナはすぐにファノンの冗談だとわかった。
場を和ませようとしたファノンの言葉であったが、クメルは真に受けてしまい、おどおどするしかなかった。
その後しばらく様子を見たが、ファノンの腕に問題は見られなかった。むしろメタリカルド化した腕に慣れるに従い、男性をも凌ぐ力を発揮する腕をファノンは気に入るようになっていた。
「これなら、魔法部隊だけではなく騎士団にも加入できそうですわね」
動揺を隠すかのようにファノンは明るく振る舞っていた。
だがそんなファノンより気になることがクメルにはあった。
気になっていたのはラズベルのことだ。
王女から聞いた話によると、ラズベルがファノンの手を握ってきたのだそうだ。そもそもなぜラズベルが動いたのか。動くだけのエネルギーがあったというのか。今のラズベルはどんな状態なのだろうか。
それでもそのことを確かめる機会がないままにアーガストが消えたという北東の洞穴への捜索が始まることになった。
◆ ◆ ◆
魔法部隊だけでなく、クメルも同行して洞穴近郊まで来ていた。クメルがここまで連れてこられたのは、アーガストを奪還した際に操縦できる人間がクメル以外にはいないからだ。
洞穴の入り口は遠目にもアーガストが通れるほどの大きさにまで抉られて広がっていた。
問題は内部がどうなっているかが分からないことだ。
斥候として二名の魔法師が決死の覚悟で洞穴内部へ潜入していた。
今は魔法部隊がやや離れた位置でその報告を待っている。
三十分ほどしてから魔法による通信が届いた。
『こちら斥候班。洞穴内部に潜入。奥深くまで穴は拡張されている模様ですが、周囲が暗闇に覆われているために、調査が難航。現在手探りで壁伝いに奥へと進んでおります』
『了解。引き続き調査を行え』
『かしこまりました』
魔法による通信は念波のようなものらしい。お互いの頭の中に言葉が流れてくるそうだが、今回は聞こえてくる音声を魔法水晶と呼ばれる装置を使って音声に変換している。
そのため、近くにいるクメルとファノンの元にも魔法通信によるやり取りが聞こえてきていた。
『こちら斥候班。一際広い空間に出た。僅かだが視界も確保できる。現在アーガストと思われる機体を視認。アーガストの周囲には魔物と思われる存在多数。距離が遠くてはっきりとはわからないが……』
ここで一旦斥候の声が途切れる。
『斥候班、どうした? 何かあったのか?』
『こちら……斥候班。二体目のアーガストを確認。その奥には……アーガストの足か? もしかしたら建造中なのかもしれん』
『こちら本部。アーガストは二体、建造中が一体、そして魔物多数、間違いないか』
『間違いない』
『アーガストを除いた魔物だけなら、我々の部隊で対処は可能か?』
『残念ながらそれは不明だ。魔物がメタリカルド化されていなかったらあるいは可能かもしれない』
『了解。斥候班、それ以上調査が困難であると判断したら即刻戻れ。調査が続行できる場合でも今から十分後に帰還を開始せよ』
『かしこまりました』
クメルはファノンと目を合わせる。
二体目のアーガストが存在する。はたしてそれは駆動できる状態なのだろうか。
城から持ち去られたアーガストは02型のメタリカルドが王国近衛長であるガルファの頭部を利用していた。
二体目のアーガストも人間の脳を利用しなければ駆動できない点はおそらく同様だろう。二体目を動かすために必要な人間の脳は用意されているのだろうか。
ふと、クメルは思い至る。
これはアーガストの弱点ではないだろうか。
つまり今、洞穴の中にいるアーガストを動作不能にする方法だ。洞穴の中を高温の気体で充満させれば、アーガスト内部の人間もその脳ごと活動を維持することはできないはずだ。
アーガストが外に出る前の今ならば対処が可能なのではないだろうか。このことを魔法部隊の総隊長へと伝える。
「なるほど、クメル殿の話ももっともかもしれん。正直魔物の数からしてこの部隊の人数では手に負えないかとも考えていたが、蒸し焼きにしてしまおうというのだな」
「はい」
「だが、その場合はおそらくアーガストは使い物にならなくなるだろう。君はそれでも構わないか」
「そんなことを言っている場合ではないかと思います。敵は二体目のアーガストを駆動させようとしており、三体目、四体目のアーガストをも複製するでしょう。これは推測でしかないのですが、そこにいるのはメタリカルド化した魔物たちで、複製するアーガストの素材として利用しているのかと思われます」
「ふむ、ならば叩けるうちに叩く。貴殿はそう言うのだな」
「はい」
そして総隊長は決断を下した。
『全部隊に伝達する。一斉に洞穴に突入。入り口を背にして逃げ場を塞ぐように陣地を展開し、アーガストおよび他の魔物に対して火炎攻撃を行う。三列隊形をとり、魔力が枯渇したものから後列と入れ替え、洞穴内部が高温に満たされたと判断したら一斉に離脱する。作戦開始は今から十五分後とする』
十五分後、魔法部隊およそ二百人が洞穴に一斉に突入した。洞穴はアーガストが通れるほどの広さだ。十人が横並びになっても問題なく突入できる。
途中でこちらの動きを察知した魔物が何体か現れたが、先頭の部隊はこれを無視して突入し、後方の部隊が対処に当たった。
ほどなくして部隊の先陣を切る者たちの視界に広大な空間が入った。二体のアーガストと複数の魔物が見えた。
部隊は統率された動きで三列隊形を取る。総隊長の合図で魔法による火炎攻撃の一斉掃射が始まった。
視界の前方が黄色い炎で包まれ、その周囲の壁が赤い炎であぶられる。
炎は赤いものより黄色いもののほうが温度が高い。つまりここにいる魔法師はより強力な火炎攻撃を行うことのできる者が集まっているということだ。
クメルは役に立たないと分かっていながらも、後方で支援を行うことになっているファノンとともにこの場へとやって来ていた。
魔法部隊とアーガストがいる辺りからは二百メートルほど離れているだろうか。これだけの距離であっても、熱せられた空気が逃げ場を求めて魔法部隊とクメルが立つ場所を襲う。
熱風に煽られ、あまりの熱さで全身から汗が噴き出す。これ以上は魔法部隊も耐えられないとなった段階で総隊長が掃射中止を指示した。
クメルと魔法部隊は急いでその場を離れた。
洞穴から出ると冷たい空気が感じられる。全身を濡らす汗のせいで急速に体温が奪われていった。
ここからでも洞穴の奥には炎が見え隠れする。その中から逃げ出そうともがきながら現れる魔物を魔法部隊が逐次倒している。それでも出てくる魔物は十体に満たない。出てくる時点で全身が焼け焦げ、こちらを攻撃してくる戦意すらない模様だった。
「やったわね」
横にいたファノンの声がクメルに投げかけられる。
「ああ、やったな」
クメルが頷く。
「ここが敵の本拠地だったのかしら」
「どうだろうな。あとでアーガストを奪ったメタリカルドの残骸を確認しなきゃな」
「全部溶けてしまったりしない?」
「溶けるだろうが、さすがに気化まではしないと思うから金属の塊が残るはずだ」
「そうなの」
クメルとファノン、そして魔法部隊の面々が安堵の息をついていた。
「私の出番はなかったわね」
微笑みかけながらファノンがクメルに顔を向けた時だった。
「何かが出てくるぞ!」
魔法師の一人が叫んだ。
「あれは、アーガストだ!」
別の魔法師が叫んだ。
クメルとファノンが洞穴に目を向ける。そこには二体のアーガストが洞穴から出ようとして、足をゆっくりと踏み出す姿があった。
部屋のことはどうでもいい。
今の懸念事項は妹の腕のことだ。
はたして妹はメタリカルド化されてしまったのであろうか。緊急にクメルを呼びつけることにした。今回こそは本当に緊急だからすぐに駆けつけるべく伝えるように、使いの兵士にはきつく申し付けた。
十五分後、クメルは息を切らしながら現れた。
開口一番、クメルは口にする。
「ファノンの右腕はメタリカルド化されています」
それを聞いたファノンはショックのあまり倒れそうになった。
それを姉のファルナが支える。
「それで、妹はどうなってしまうの? 報告にあった砦のゾンビのように自我を失って人を襲うの?」
「いえ、そんなことはないと思います」
クメルはファノンに向き直る。
「ファノン、痛いところはある?」
クメルの問いかけに、不安そうに軽く首を振りながらファノンは答える。
「い、いいえ。どこにも痛みはありません」
「手を開いたり閉じたりしてみて」
言われたとおりにファノンは手を開いたり閉じたりする。
「じゃあ、これを持ち上げてみて。右手だけで」
クメルはなるべく重そうなベッドを指し示した。どこをどう摑んでよいのか迷っていたファノンだが、とても摑んでも持ち上がらなそうな場所を彼女に握らせる。
だが、ファノンはベッドを軽々と上げてしまった。
「どういうことですの!?」
王女が目を見開いて叫んだ。当のファルナは声が出ないのか、ベッドを持ち上げたまま呆然としていた。
クメルは説明する。
脳を侵食されてメタリカルド化した場合は、そのメタリカルドの支配下に置かれ、自我というものはなくなり、命令通りに行動するしかなくなる。
ところが今のファノンは幸いにも脳を侵食されなかったために、単に腕の機能が強化された状態なのだとクメルは話した。
クメルの説明で安心したのか、ファノンは笑顔を取り戻していた。そして少し冗談めかした言い方をした。
「私――傷物にされてしまったのですね」
そのままクメルの胸の中に寄り添うように顔を寄せる。
「こうなったら一生クメルさんにお世話してもらいます。責任を取ってもらいますから」
「ちょ、ちょっとファノン」
王女はあたふたしながら言った。ファノンは姉に向かって、ちろっと舌を出しておどけてみせた。ファルナはすぐにファノンの冗談だとわかった。
場を和ませようとしたファノンの言葉であったが、クメルは真に受けてしまい、おどおどするしかなかった。
その後しばらく様子を見たが、ファノンの腕に問題は見られなかった。むしろメタリカルド化した腕に慣れるに従い、男性をも凌ぐ力を発揮する腕をファノンは気に入るようになっていた。
「これなら、魔法部隊だけではなく騎士団にも加入できそうですわね」
動揺を隠すかのようにファノンは明るく振る舞っていた。
だがそんなファノンより気になることがクメルにはあった。
気になっていたのはラズベルのことだ。
王女から聞いた話によると、ラズベルがファノンの手を握ってきたのだそうだ。そもそもなぜラズベルが動いたのか。動くだけのエネルギーがあったというのか。今のラズベルはどんな状態なのだろうか。
それでもそのことを確かめる機会がないままにアーガストが消えたという北東の洞穴への捜索が始まることになった。
◆ ◆ ◆
魔法部隊だけでなく、クメルも同行して洞穴近郊まで来ていた。クメルがここまで連れてこられたのは、アーガストを奪還した際に操縦できる人間がクメル以外にはいないからだ。
洞穴の入り口は遠目にもアーガストが通れるほどの大きさにまで抉られて広がっていた。
問題は内部がどうなっているかが分からないことだ。
斥候として二名の魔法師が決死の覚悟で洞穴内部へ潜入していた。
今は魔法部隊がやや離れた位置でその報告を待っている。
三十分ほどしてから魔法による通信が届いた。
『こちら斥候班。洞穴内部に潜入。奥深くまで穴は拡張されている模様ですが、周囲が暗闇に覆われているために、調査が難航。現在手探りで壁伝いに奥へと進んでおります』
『了解。引き続き調査を行え』
『かしこまりました』
魔法による通信は念波のようなものらしい。お互いの頭の中に言葉が流れてくるそうだが、今回は聞こえてくる音声を魔法水晶と呼ばれる装置を使って音声に変換している。
そのため、近くにいるクメルとファノンの元にも魔法通信によるやり取りが聞こえてきていた。
『こちら斥候班。一際広い空間に出た。僅かだが視界も確保できる。現在アーガストと思われる機体を視認。アーガストの周囲には魔物と思われる存在多数。距離が遠くてはっきりとはわからないが……』
ここで一旦斥候の声が途切れる。
『斥候班、どうした? 何かあったのか?』
『こちら……斥候班。二体目のアーガストを確認。その奥には……アーガストの足か? もしかしたら建造中なのかもしれん』
『こちら本部。アーガストは二体、建造中が一体、そして魔物多数、間違いないか』
『間違いない』
『アーガストを除いた魔物だけなら、我々の部隊で対処は可能か?』
『残念ながらそれは不明だ。魔物がメタリカルド化されていなかったらあるいは可能かもしれない』
『了解。斥候班、それ以上調査が困難であると判断したら即刻戻れ。調査が続行できる場合でも今から十分後に帰還を開始せよ』
『かしこまりました』
クメルはファノンと目を合わせる。
二体目のアーガストが存在する。はたしてそれは駆動できる状態なのだろうか。
城から持ち去られたアーガストは02型のメタリカルドが王国近衛長であるガルファの頭部を利用していた。
二体目のアーガストも人間の脳を利用しなければ駆動できない点はおそらく同様だろう。二体目を動かすために必要な人間の脳は用意されているのだろうか。
ふと、クメルは思い至る。
これはアーガストの弱点ではないだろうか。
つまり今、洞穴の中にいるアーガストを動作不能にする方法だ。洞穴の中を高温の気体で充満させれば、アーガスト内部の人間もその脳ごと活動を維持することはできないはずだ。
アーガストが外に出る前の今ならば対処が可能なのではないだろうか。このことを魔法部隊の総隊長へと伝える。
「なるほど、クメル殿の話ももっともかもしれん。正直魔物の数からしてこの部隊の人数では手に負えないかとも考えていたが、蒸し焼きにしてしまおうというのだな」
「はい」
「だが、その場合はおそらくアーガストは使い物にならなくなるだろう。君はそれでも構わないか」
「そんなことを言っている場合ではないかと思います。敵は二体目のアーガストを駆動させようとしており、三体目、四体目のアーガストをも複製するでしょう。これは推測でしかないのですが、そこにいるのはメタリカルド化した魔物たちで、複製するアーガストの素材として利用しているのかと思われます」
「ふむ、ならば叩けるうちに叩く。貴殿はそう言うのだな」
「はい」
そして総隊長は決断を下した。
『全部隊に伝達する。一斉に洞穴に突入。入り口を背にして逃げ場を塞ぐように陣地を展開し、アーガストおよび他の魔物に対して火炎攻撃を行う。三列隊形をとり、魔力が枯渇したものから後列と入れ替え、洞穴内部が高温に満たされたと判断したら一斉に離脱する。作戦開始は今から十五分後とする』
十五分後、魔法部隊およそ二百人が洞穴に一斉に突入した。洞穴はアーガストが通れるほどの広さだ。十人が横並びになっても問題なく突入できる。
途中でこちらの動きを察知した魔物が何体か現れたが、先頭の部隊はこれを無視して突入し、後方の部隊が対処に当たった。
ほどなくして部隊の先陣を切る者たちの視界に広大な空間が入った。二体のアーガストと複数の魔物が見えた。
部隊は統率された動きで三列隊形を取る。総隊長の合図で魔法による火炎攻撃の一斉掃射が始まった。
視界の前方が黄色い炎で包まれ、その周囲の壁が赤い炎であぶられる。
炎は赤いものより黄色いもののほうが温度が高い。つまりここにいる魔法師はより強力な火炎攻撃を行うことのできる者が集まっているということだ。
クメルは役に立たないと分かっていながらも、後方で支援を行うことになっているファノンとともにこの場へとやって来ていた。
魔法部隊とアーガストがいる辺りからは二百メートルほど離れているだろうか。これだけの距離であっても、熱せられた空気が逃げ場を求めて魔法部隊とクメルが立つ場所を襲う。
熱風に煽られ、あまりの熱さで全身から汗が噴き出す。これ以上は魔法部隊も耐えられないとなった段階で総隊長が掃射中止を指示した。
クメルと魔法部隊は急いでその場を離れた。
洞穴から出ると冷たい空気が感じられる。全身を濡らす汗のせいで急速に体温が奪われていった。
ここからでも洞穴の奥には炎が見え隠れする。その中から逃げ出そうともがきながら現れる魔物を魔法部隊が逐次倒している。それでも出てくる魔物は十体に満たない。出てくる時点で全身が焼け焦げ、こちらを攻撃してくる戦意すらない模様だった。
「やったわね」
横にいたファノンの声がクメルに投げかけられる。
「ああ、やったな」
クメルが頷く。
「ここが敵の本拠地だったのかしら」
「どうだろうな。あとでアーガストを奪ったメタリカルドの残骸を確認しなきゃな」
「全部溶けてしまったりしない?」
「溶けるだろうが、さすがに気化まではしないと思うから金属の塊が残るはずだ」
「そうなの」
クメルとファノン、そして魔法部隊の面々が安堵の息をついていた。
「私の出番はなかったわね」
微笑みかけながらファノンがクメルに顔を向けた時だった。
「何かが出てくるぞ!」
魔法師の一人が叫んだ。
「あれは、アーガストだ!」
別の魔法師が叫んだ。
クメルとファノンが洞穴に目を向ける。そこには二体のアーガストが洞穴から出ようとして、足をゆっくりと踏み出す姿があった。