花菱草:花言葉「成功」



当たれ当たれ当たれ。祈るようにスマホに届いたライブの当落通知を開く。
けれど、結果は落選だった。

ここ一年で急激に人気が出たため、ライブの倍率は高くなって、当選しにくくなってしまった。推していたアイドルの人気が出ることは嬉しいけれど、寂しい気持ちもある。

ライブに行くために貯めたバイト代は残ったものの、心にはぽっかりと穴が空いてしまった。


昨夜彼らが生配信していたとき「会えるのを楽しみにしている」と話していたのを思い出して、余計に気分が沈んでいく。私は今回も会えない。

画面の向こう側にいるアイドルは、私ひとりには笑いかけてくれない。
ファン全員に同じだけの愛をくれる。それは平等で、けれど時に虚しくて寂しい。

だけど身近な人に恋をしていても、報われないことだってある。



たとえば、昼休みに校庭でサッカーをしている先輩。
学年も違うし、話したこともない。
画面の中のアイドルと同じで、私が一方的に認知している。


でもアイドルと違ってできることがある。先輩を呼び出して告白をすること。
告白はできても、それまでの過程が私には難しい。
仲良くなるには、どうしたらいいんだろう。

クラスの男子たちは、動画を見て、それの真似をしてゲラゲラと笑っている。
ああいう男子となら、気軽に話せるのに。

先輩を前にすると、ライブでアイドルを見るときよりも緊張してしまう。

じっと窓から校庭を眺めながら、こっち見てと願ってみる。
そんなエスパーみたいな力はないし、先輩は友達とのサッカーに夢中だ。

先輩がボールを蹴ろうとしたときだった、スカッと外してしまい、周りの人たちから笑いが起こる。
恥ずかしそうにしながら、先輩は辺りを見回す。すると、窓の外から見ていた私に気づいて目が合った。


どきりと、心臓が跳ねる。
そして、人差し指を口の前に持っていく。内緒にしてと言われた気がして、私はこくこくと首を縦に振る。

照れくさそうに笑った先輩に、心臓が射抜かれた。



初めて目が合って、初めて私を見てもらえた。

先輩は私の顔なんてすぐに忘れてしまうかもしれないけれど。



それでも報われないと思っていた片想いが、少しだけ動いた気がして、その場に座り込む。


あーもー、好き!