エビネ:花言葉「あなたらしく」


配られたクラス表を折りたたんで左手に持ちながら、ため息を漏らす。

最悪だ。仲のいい子たちとクラスが離れてしまった。

「休み時間になったら遊びに行くよ」と言われたものの、本当にきてくれるかわからない。それに最初だけだろうな。みんな新しいクラスに馴染んで、私の元になんてきてくれなくなる気がする。

周りの子たちに甘えていちゃいけないのはわかっているけれど、自分だけクラスが離れてしまったので憂鬱になる。
それでも新しいクラスで友達を作らなくちゃ。そう無理やりに決意をしたものの、教室に入ってから私は自分の席から動けなくなった。


「え、同じクラス〜!?」
「うちら運よくない?」
「あ、ねえねえ今度の新歓でさ〜」

元々仲がよかった子たちが楽しげに会話をしていて、更には顔見知りの子たちにどんどん声をかけていっている。それを見て、私は怖気づいてしまった。

輪に入っていく勇気が出ない。
見かけたことはあるけれど、ほとんど話したことがない子ばかりだ。
早速出遅れてしまって、これから先が思いやられる。

人見知りで打ち解けるのに時間がかかるタイプだし、社交的でもない。
声だってあまり通らないから、聞き返されることもある。

私みたいなのが、輪に入れたところで置き物みたいに存在感がない気がした。
背中になにかが触れて、振り返る。

すると、後ろの席には見覚えのある男子が座っていた。


「やっぱそうだ。知ってるやつがいてよかった〜」
ニッと歯を見せて笑ったのは、一年のときに同じクラスで一度隣になったことがある彼だった。

「俺、このクラスに知ってるやつ全然いなくてさ」
「……私も」
かき消されそうな私の声を、彼は拾ってくれたようで「だよな」と笑う。

「あ、前髪切った?」
「えっ!」
慌てて手で前髪を押さえる。昨夜少し切りすぎてしまったのだ。
最悪。やっぱり切るのをやめておくべきだった。

「似合ってる」
その一言に、頬に熱が広がる。

「お母さんからは、こけしって笑われたよ」
「こけしって!」
声を上げて笑われて、ますます恥ずかしくなっていく。

「やっぱり笑えるほど変でしょ」
「俺はかわいいと思ったけど」
お世辞なのかもしれない。けれど、そんなふうに言われたら、くすぐったくて先ほどの羞恥心とは別の感情が芽生えてくる。

それに緊張も緩んできた。まだ不安もあるけれど、このクラスでひとりでも話せる人がいる。そのことが私にとって、心強い。


「授業でさ」
「うん」
「わかんないとこあったら、聞いていい?」
彼が上目遣いで聞いてきて、私は思わず笑ってしまう。

「そんなお願い初めてされた」
「だって、こんなこと頼めるの他にいねーし」
前髪を手で隠すのをやめて、私は「いいよ」と歯を見せて笑った。

急がずに私らしく、馴染んでいきたい。
新しいクラスは、始まったばかりだから。