梅桃:花言葉「輝き」



レジの前に立って、私は春限定と書かれた梅ソーダのペットボトルを差し出す。

「お、きた」
「どーも」
バイト中の彼に「おつかれさま」って本当は言いたかったのに、素っ気ない挨拶をしてしまった。

髪、変じゃないかな。服装ちょっとラフすぎた?でも、あんまりオシャレしすぎても変な気がするし……でもメイクはもう少しちゃんとするべきだったかも。そんなことを頭の中で考えながら、平然を装う。


「あ、これ俺も気になってたやつ」
「もしかして、広告のやつ見た?」
「そー、それ見て美味そうだなって思ってた」

こんなたわいのない会話ですら、私にとっては宝石みたいに貴重でキラキラと輝いている時間。
たまたま家の近くのコンビニで彼がバイトをし始めて、会いにくる口実のために私はジュースやお菓子を買う。


「ちょうど今日もくるかなーって思ってたとこだった」
……やっぱりよくくるなと思われているみたいだ。

「新作気になってたから。それで買いにきただけ! 一度くらい飲んでみたかったし」

必死に言い訳をする私の姿は、きっとものすっごく可愛げがない。

だけど、気持ちがバレてしまうのだけは嫌だった。
せっかく築いた友達関係が崩れてほしくない。

「感想楽しみにしてる」
「え」
「俺も気になるから、あとで教えて?」
「……うん」

そんな眩しい笑顔で言われたら、余計に好きになってしまう。

嫌だな。これ以上好きになったら、私はどうしたらいいんだろう。
コンビニに通って、少し会話をするくらいじゃ、足りなくなる。

お会計を済ませて、コンビニを出ようとしたときだった。


「じゃあ、またな」
「……またね」
彼に軽く手を振る。

今日も会えて会話ができたこと、そしてあとでメッセージを送る約束もした。
それだけで、私の心はふわりと宙に浮いて夢心地になる。


帰り道、ペットボトルのキャップを捻り、ひと口飲んでみた。
梅の甘酸っぱい味と炭酸の爽快感が広がる。

夕日に染まる景色がいつもより輝いて見えた。