ミモザ:花言葉 秘密の恋


ファーストフードのカウンターの席に私たちは並んで座り、参考書を開く。
だけど、一ページも捲ることなく、私は隣の彼に気を取られている。


「今年から先輩、忙しくなりますよね?」
受験生の先輩は、こうして会うことも減っていくはず。

「でも部活の引退があるから、勉強する時間は増えるかな」

そこに私との時間は入りますか?なんて言えずに、口角を上げる。


「応援してます」
当たり障りのないことしか言えない。
まだ付き合って二ヶ月。先輩がなにを言われたら嫌で、どこまで踏み込んでいいのかわからない。

本当は学校が終わったら一緒に帰ってみたい。
制服デートって憧れる。

だけど、会えるのは休みの日だけ。
付き合っていることを、先輩の部の人たちに知られてはいけないから。

恋愛禁止というわけではない。けれど付き合っていても表に出さないのが、部の暗黙のルールになっているみたいだった。

きっかけは顧問が厳しいとか、卒業した先輩たちもみんなそうだったからとか、今では曖昧なものらしい。
私にはよくわからない風習だし、せっかく付き合えたんだから彼女として隣を歩きたい。


でも、先輩が望まないことはしたくない。
面倒だなって思われたくないし、年下だからって子どもっぽいと思われたくない。

それでも時々寂しくなる。
メッセージも二日に一度くらいで、そこまで続かない。
会えたとしても、こうして勉強会みたいなデート。

先輩、私って彼女ですよね?って確認したくなる。


「引退したらさ、やっと帰れる」
「え?」
なんのことかわからず首を傾げた。

「一緒に帰りたかったから」
先輩の視線は私に向けられていて、少し遅れて言葉の意味を理解する。

「……帰りたいって思ってくれてたんですか?」
「え、嫌? 楽しみだったんだけど」

今日はいつもよりも先輩がストレートに言ってくれる気がして、頬が緩みそうになる。
一緒に帰りたかったのは私だけじゃなかったんだ。

部活のことがあるから、先輩との交際を友達にも言わずにいた。
けれど、そんな日々も先輩が引退したら終わる。

「じゃあ、こうして秘密にしているのも、あとちょっとだけですね」
私の膝の上に置いていた手に、先輩の手が伸びてくる。

カウンターの下でこっそりと重ねられた手は、繋ぐというより握っているみたいで、ちょっとだけぎこちない。
ちらりと先輩を見ると、視線は参考書に向いているのに耳は赤い。

なんでも卒なくこなす先輩のかわいいところを見つけて、私は小さく笑った。