春紫菀:花言葉「追想の愛」



ふと懐かしい香りがして、記憶の箱が開く。

振り返ると、そこにいたのは知らない人で、ただ彼がつけていた香水と同じ香りだっただけ。

なにしてるんだろうって、ため息が漏れる。


再会は望んでいない。だって会ったら、なんて言えばいいのかわからないから。

きっと笑顔がぎこちなくなる気がする。
付き合っていたときはいくらでも共通の話題が溢れてきたのに、今では無理やり探さないと見当たらない。


彼のことを思い出しても胸が高鳴ることはないし、別れた傷も癒えている。
だけど、記憶に消しゴムでもかけない限り彼と過ごした日々を忘れることはない。

彼と別れた日、さよならを言うのは寂しくて、またねというのは違う気がした。
だからあのとき、「元気でね」と告げた。

別れたあとは、友達の前では円満に別れたと言って普通にしていたけれど、夜になると毎日のように泣いていた。
本当はちょっと恨んだこともあったんだ。



あの頃は一緒に幸せになりたいと思っていた。
でも今は彼の幸せを願っている。


そしてどうか、二度と会うことがありませんように。
大切だからこそ、私たちの道はもう交わらない方がいい。

思い出を再び記憶の中に仕舞い込んで、私は前を向いて歩き出す。



たぶんこれが、私なりの不恰好な愛なのかもしれない。