木五倍子:花言葉 待ち合わせ



「まだ他のやつらきてないの?」

ぎこちなく私は頷く。

彼とこうしてふたりきりになるのは初めてで、言葉が上手くでてこない。



「電車遅れてんだってさ」

彼がスマホの画面を私に見せてくる。どうやら私たち以外のメンバーは電車の遅延によってまだ到着しないようだった。



「そういえばさ、これ見た?」

無言にならないように気にしてくれているのか、彼が話題を振ってくれる。

けれど、私は「うん」とか「そうなんだ」と、短くてつまらない相槌ばかりを返してしまう。


新しいクラスになって、偶然席が近くなった六人で遊ぶことになった。それだけの関係。
私たちは他のメンバーがいれば話すけれど、ふたりで話すのは今日が初めてだった。



気を遣わせたくない。
だけど、無言は気まずい。


「あのさ——」
彼が私の目の前に立つ。


「先にふたりでぶらついてよ」
突然のことに戸惑いながらも頷くと、彼は笑った。

どこ行きたい?と聞きながら、私の名前を彼が呼ぶ。それは周りにつけられたあだ名で、まさか彼に呼ばれるとは思わなかった。


どきっと、心臓が跳ねる。

他の人に呼ばれても、なんとも思わないのに。嬉しくて頬が緩みそうになった。


隣を見ると、笑顔で話しかけてくれる彼の姿。

学校よりも距離が近くて、あまり声が大きくない私の言葉を丁寧に掬い上げて返してくれる。



みんなが到着するまでの僅かな時間が、私にとってこの先忘れないものになりそうな春の予感がした。