ラナンキュラス:花言葉「晴れやかな魅力」



授業なんて退屈なだけ。
眠たくてあくびがでるし、ノートをとるのも面倒。
早く終わればいいのに。

そう思っていた。
だけど、最近は黒板の方へ吸い寄せられるように視線がいく。

先生の低い声は、眠くならない。むしろずっと聞いていたい。
それに、ノートはいつ集められるかわからないから綺麗にとらないと。


「先生ってさ、かっこいいよね」
休み時間に友達にぼそっと溢した本音は、冗談だと思われたのか笑われた。


「えー、怖くない? いつも不機嫌じゃん」
そんなことないよ。男子と喋っているときは楽しそうだよ。

先生は晴れた日の空のように爽やかに時々笑う。

普段は淡々と喋るのに、男子がふざけてなにかを言うときだけ、反応が幼くなって教師って感じがしない。
私だって笑わせてみたいけれど、声をかけても先生は教師の顔をする。

好きなのかって聞かれたら、よくわからない。
だって私、先生のこと名前以外よく知らないし。

特別になりたいわけでも、特別になれるとも思っていない。
でも、先生のなにかが私を惹きつける。


廊下に出ると、先生は男子たちに捕まって談笑していた。
あんなふうに気さくに話せる男子たちが羨ましい。


ふざけている男子のひとりが私にぶつかりそうになると、そっと間に入って私に接触しないようにしてくれた。


「危ないだろ」
骨張った大きな手がすぐ近くに見えて、風船が破裂したみたいに心音が大きく鳴った。
私は胸元を押さえながら俯く。

あ……なんか、やばいかも。


「大丈夫?」
先生は具合が悪いと思ったのか、心配そうに私の顔を覗き込む。

頬が熱いのは体調不良なんかじゃない。

あれはきっと、はじまりの音だった。