俺は宿屋を経営しているオーブナーだ。元々は貴族出身の騎士だったが、昔からやりたかった宿屋を経営するために騎士を引退した。

 人を守る仕事なんてそんなに興味はなかった。あるのは俺が作った料理を誰かに食べてもらうことだけだ。

 そんな俺の店に、やたら大きなカイコを頭に乗せた変わった子ども二人が泊まりたいと言って訪れた。

 カイコは魔物だったのか、強めの状態異常を付与しかけてきたが、俺の耐性スキルで抵抗した。

 身なりもボロボロだったため何か事情があるのだと感じた。

 基本的に面倒ごとには関わりたくはないが、なぜかその時は一瞬にして守りたいと思ってしまった。

 この気持ちが騎士の時に芽生えていたら、今頃騎士も続けていただろう。そんな昔のことを思い出しても、別に後悔しているわけではない。

 子ども達は初めて見た俺のことを"フェンリル"や"獣人"と言っていた。ただの毛深くて大柄な俺を見て間違えたのだろう。

 そもそも俺の姿を見て泣かないだけ、すごい子ども達だ。騎士時代は子ども達には襲われると誤解されていたのが懐かしく感じる。

 そんな子ども達に、俺は食事を無料にして泊まらせることにした。

 そもそも作っては捨てるだけの食事だ。誰も俺の激マズ料理なんて食べる者はいない。

 ここに泊まっている人達はそれを知っている。だから俺の宿屋で食べることなはない。

 俺はちゃんと注意してから、子ども達に料理を出したが彼らは今まで来た客とは違った。

 話を聞けばいつも肉もどきを食べていたようだ。肉のように栄養はあるが、肉や野菜よりもかなり安く、動物のエサに使われているような野菜だ。

 そんなものをずっと食べていたから、味覚が麻痺しているのだろうか。

 痩せて体が細いその姿は年齢よりも幼く見えた。兄が12歳で妹は9歳らしい。

 それぐらい年齢なら体つきは大人に近づいて大きくなるが、俺から見ても兄はまだ10歳にも満たない大きさだ。

 そんな二人は俺の作った料理を美味しそうに食べていた。

 皿を取られないように、必死に食べている姿を見て、俺がずっと見たいと思っていた景色だ。

 宿屋の店主になって初めて作り甲斐を感じた。

 あいつらがこの宿屋にいる間は、俺が精一杯食わしてやろう。

 まぁ、これは俺の自己満足だけどな。

「さぁ、明日は何を作ろうかな」

 子ども達が部屋に戻ると、俺は明日のメニューを考えることにした。

 そういえばあいつの頭の上に乗ってたカイコって食事を摂取するのか?

 カイコのくせに肉を勢いよく食べていたぞ……。

 いや、考えても意味はない。あいつらは俺に希望を与えてくれた客だ。

 次々と思い浮かぶメニューに俺は心が弾む。