僕はマリア達と王城に来ている。今日は前王妃で亡き王様の夫人と会うことになった。いつも王城の離れにある温室庭園にいることが多いらしい。

 温室庭園はしっかり管理されているものの、花は咲いておらず、ただ草が生えているような状態だ。

 その中央に一人で椅子に座り、草木を眺めている女性がいた。

「前王妃様、ご機嫌麗しゅうございますか?」

 ソフィアがカーテシーをして挨拶すると、続けて僕達も頭を下げる。この女性こそが、バーバラ前王妃だ。

「そんなに畏まらなくていいわよ。ソフィアらしくないわ」

 優しく微笑む女性はどこか温かみを感じる。彼女は優しい人なんだろう。

「バーバラおばちゃん久しぶりだね」

「こんなところに来る人はあまりいないからね」

 バーバラ前王妃は外れの城で、使用人達と生活している。本人が貴族の生活に疲れたという理由らしい。

「あなた達は?」

「僕はリックです」
「私はマリアです」

 挨拶をすると手招きしてくれた。ソフィアの顔を見ると、彼女も笑っている。

 僕達は近づくと優しく頭を撫でられた。温かいのは表情だけではなく、手もポカポカとしていた。

「こんなに何もないところでつまらないでしょ?」

「実は前国王……おじいちゃんの遺品の中で探し欲しいものがあるって言われて来たのよ」

 今回は前王妃へのプレゼントということで、内緒にしている。遺品の中から前国王の香りを探して、似た匂いで再現するつもりだ。

 中々難しいことではあるが、何かのきっかけがあればできるのではないかと思っている。

「あら、それなら好きなもの持って行っていいわよ。あっても私では整理できないものね」

 僕達はお礼を伝えて、前国王が使っていた部屋に行くことにした。

「おぉー、この人が元国王様ですか?」

 部屋にある肖像画は威厳はあるものの、明るい笑顔が特徴的だった。

「ええ、元国王様は冒険者もしていてとても強かったのよ。すぐに剣を持って飛び出していくからおばちゃんも苦労したのよ」

 魔物が王都周辺に出てきたら、自ら戦いに行くし、近くの村が盗賊に襲われたなら、騎士を連れて支援に行くぐらいだ。

 その影響か貴族達より平民街にいる人達に好かれていたらしい。

 どこか貴族ぽくない庶民溢れるような人なんだろう。

 僕達は部屋に入ると、元国王の遺品を確認していく。特に匂いがついているものもなく、衣服や貴金属、その他も匂いの違いがわからない。

『キュキュキュ!』

 そんな中、モススは匂いを嗅いで何かに気づいたのだろう。必死に僕の髪の毛を引っ張ってあるところに連れて行こうとする。

 突然の行動に心配になったソフィアとマリアも付いてきていた。

「モススどうしたんだ?」

『キュキュ!』

 モススに引っ張られてついたところはバーバラ前王妃がいた温室庭園だった。

 モススはずっと花が咲いていない草を指さしている。

「これから同じ匂いがするってことかな?」

『キュ!』

 どうやら合っているらしい。モススには匂いを嗅ぎ分ける能力があるのかもしれない。

 そんな僕達にバーバラ前王妃は気づいて声を掛けてきた。

「もう探し物は終わったのかしら?」

「あっ、終わりました!」

「そう。少し私は疲れたのでお休みになりますね。また、よかったら遊びに来てちょうだいね」

 そう言ってバーバラ前王妃は温室庭園から出て行った。その姿は本当に疲れているように見える。

「リックくんどこに行ったのー?」

「お兄ちゃんー?」

 ソフィアとマリアが探しに来たのだろう。僕は温室庭園から出て手を振ると気づいたようだ。

 あまりの速さに二人とも付いて来れなかったようだ。

「それで急いでどうしたの?」

「モススが温室庭園の花と前国王様の匂いが似ているって!」

 その言葉を聞いてソフィアは驚いていた。僕達はその場でゴブゥに頼んで前国王の匂いを調合することにした。

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