「私達はリックくん達に運命のように巡り会っているわ。それはあなた達家族も同じでしょ?」

 僕の周りには大事な家族がいる。

 あのままダンジョンの中で死にそうになった時に、一緒に乗り越えたモスス。

 マリアに魔力を与え続けて助けてくれる毛玉。

 マリアに夢を与えたタマ達。

 そして僕の初めてのパートナーで再び巡り会うことになったゴブゥ。

 誰もが欠けてはいけない大事な家族達だ。

 あの時に会ったフェンリルから僕の運命はガラリと変わった。

「そんなあなた達のように、みんなが幸せに巡り会えるように助けるものを"ラックガーデン"で売る予定よ」

 アリミアは小さな瓶を取り出した。その瓶の蓋を取って軽く手首につける。

「それって香水か?」

 オーブナーは瓶のことを知っているのだろう。手首につけた瞬間に良い匂いが部屋に広がる。

 甘酸っぱいイチンゴの香りと何かの花の匂いが組み合わさり、自然の中にいるようだ。

 あまりにも良い匂いで深く息を吸い込みたくなる。

「そうよ。香水って悪い物を追い払うためにあるわよね? ただ、それだけじゃ勿体無いでしょ?」

「追い払う……んー、ひょっとして良い匂いに寄って行くってことですか?」

「マリアちゃん正解よ! これは香水の概念を変える物よ」

 僕はいまいち何を言われているのかわからないが、オーブナーやソフィアは驚いていた。それほどすごい出来事なんだろう。

「それにこれを作ったのはゴブゥよ」

「嫌われ者が好かれる者に変わるのか」

 もし、ゴブゥが本当にみんなから好かれる存在になるのなら僕としても嬉しい。王都に入った時にゴブゥに嫌な視線を向けられているのは、僕もすぐに気づいた。

 そんなゴブゥが好かれるようになる。そう思うだけで僕は嬉しくなった。

「ゴブゥ良くやったな!」

 僕はゴブゥの頭を撫でると嬉しそうに手足を動かしている。

 僕達が作る"アリアガーデン"と"ラックガーデン"。

 考えただけでも待ち遠しい。

「でも、その前にやることがあるわよ?」

「やることですか?」

 ソフィアはお店を開く前にやることがあると言っていた。何か大事なことを忘れていたのだろうか。

 僕とマリアは二人で顔を見合わせる。マリアもわからないようだ。

「もう、そのために私がいるようなものなんだからね!」

「あっ、勉強ですか?」

「そうよ! 二人にはまず文字の読み書きから始めて、お店で使える貴族との対応の仕方や一般の人との違いを教えていくわね」

 この間の少年も文字が読み書きできるようになるだけで、本が読めるから世界が広がると言っていた。

 今後、僕もお店を任されることになれば必要になってくるだろう。

「ふふふ、二人はやる気になったようね」

「普通は勉強嫌いな子が多いのに本当にえらいわね。どっかの誰かさんとは大違いよ」

「おいおい、俺を見るなよ!」

 今日も公爵家の人達はいつもの笑顔で溢れていた。