図書室にいくとソフィアは本をたくさん用意して待っていた。待っていたソフィアは心配したのか、図書室内を行ったり来たりしている。

 僕を見つけると急いで駆けつけた。

「あっ、リックくんどこ行ってたの?」

「図書室の場所がわからなくて……。あと、文字も読めないのでこれも読めなかったです」

 少年に手紙を見せるとそこには図書室の行き方が書いてあったらしい。文字が読めない僕には始めから図書室に行くのは無理だった。

「あー、それは私の伝達ミスね。ミスール公爵家に頼んだ私のせいだわ」

 そんな僕に王族の令嬢であるソフィアは頭を下げていた。

 基本的に家庭教師をつける年齢の頃には、自分達で文字の書き読みを教えておくのが貴族としての礼儀になる。そこからは全て教育担当である家庭教師に任せるらしい。

 どうやら僕達は勉強を教えてもらうまでには達してなかったのだ。それがわかれば後はマリアを連れてきて文字の読み書きから始めることが決まった。

「ソフィアさんって魔力喰いって知ってますか?」

 本を片付けているソフィアに僕はマリアの魔力喰いについて聞くことにした。

 王族であるソフィアなら知っているかもしれない。

「魔力喰い? んー、似たような病気は知っているけど魔力喰いは知らないかな?」

 ソフィアでも魔力喰いのことは知らないらしい。ただ、似たような病気はいくつも存在し、この間10歳になった王子は"先天性スキル症"という病気だったらしい。

 スキルが発現するのは魔力がしっかり蓄えられるようになってからだと言われている。そのため、魔力が元から少ない子どもの時からスキルを持っていると、子どものうちに死んでしまう。

 王子が生きていたのもすごく稀らしい。

「まぁ、こんな暗い話はやめて庭に行きましょうか!」

 ソフィアは僕の表情を見て、庭に遊びに行くのを提案してくれた。

 マリアの病気を治すには再びダンジョンに行くことになるだろう。それまでにはちゃんと強くなって、いつかエリクサーを持ってこよう。

「あっ、ワシさーん!」

 庭に出るとワシはゴロゴロと日向ぼっこしていた。

「昼寝をしている!?」

 ソフィアの様子だとワシがゴロゴロしているのは珍しいのだろう。あまり姿を見せないと聞いてはいるが、城に来た時に毎回その姿を目にしている。

 僕はワシに飛びつくように抱きついた。今日も毛並みが艶やかで気持ち良い。

『小僧か。今日も遊びにきたのか?』

「今日は勉強しに来たんだよ」

『ワシは昼寝をするから邪魔をするんではないぞ』

 そのままワシは僕を抱きかかえるようにして眠りにつく。どうやら僕はワシの胸の中で動けないようだ。

「はぁー、僕も少し寝ようかな」

「えっ? リックくんまで寝ちゃうの?」

 あくびが出てきた僕はそのままワシの胸の中で昼寝をすることにした。

 もちろんもふもふすることは忘れない。





「あんなところで何をしているんだ?」

 外の様子を見ると娘であるソフィアが庭でソワソワしていた。その目の先には少年と聖獣が抱き合って寝ている。

 あの少年はこの間サゲスーム公爵家のオオバッカと問題になった子だろう。

 彼は聖獣と呼ばれる王家の守り神と友達のように接していた。

 "聖獣を操るテイマー"

 その存在は物語だけかと思ったが、実際に存在するようだ。

 古書ではどんな生き物に愛される人がこの世を変えると言われていた。

 荒れ果てた地は自然豊かに、凶暴化した魔物は落ち着き、ドラゴンがひれ伏す。

 彼が本当にそんな存在になるのだろうか。

 破天荒のソフィアがどこからか連れてきた時はびっくりしたが、今はその聖獣と楽しそうに遊ぶ者が現れるとはな。

「ははは、転がされているぞ」

 聖獣の寝相の悪さに少年は転がされていた。

 何度も転がされているところを見ると、聖獣がおもちゃで遊ぶ猫のように見える。

「あなたこんな道の真ん中でどうしたの?」

「ああ、あれを見ていてな」

 王妃である妻もその姿を見て微笑んでいた。

 彼はきっと"聖なるテイマー"ではなくて、"笑顔を運ぶテイマー"なんだろう。