ロンリーコン達と合流した僕は王都に戻ることにした。倒れたショタッコンはロンリーコンが運んでいる。

「それでゴブリンはなぜ良い香りになったんだ?」

 やはり鼻が慣れたのではなく、ゴブゥ自体の匂いが変わったのだろう。

 土や水で体を洗っても変化はなかった。可能性としては果実を食べたことだ。

 食べた物によって匂いが変わるのだろうか。

 一度何が食べられるかも確認しないといけない。

「おい、あいつが持ってる奴って……」

「いやいや、あんなにでかいのがいるはずないだろ」

 王都に入る時もたくさんの注目を浴びていたが、入ってからもそれは変わらない。なぜか僕を見てコソコソと話している人ばかり。

 冒険者ギルドに着いてもそれは変わらなかった。みんな一斉に警戒して離れていく。

「あのー、依頼報告に来ました」

 受付嬢も僕を見ると無言で遠ざかっていく。どちらかといえば、僕ではなくゴブゥを見ている。

「ああ、ゴブゥはここでも嫌われているのか」

「あー、それは仕方ないよな」

 僕は優しくゴブゥを撫でると気持ち良さそうに顔をスリスリしていた。その姿を見て冒険者ギルド内は、さらに距離を置いている。

 一部では悲鳴が上がるほどだ。

『キュキュ!』

 そんなゴブゥに嫉妬しているのか、モススもモスモスを強要してくる。僕達の家族は本当に甘えん坊のようだ。

「あのーロンリーコンさんは大丈夫なんですか?」

 受付嬢はゴブゥに指を差している。そんなにゴブリンって恐れられる存在なんだろうか。

「こいつは臭くないから大丈夫だ」

 ゆっくりと受付嬢が僕に近づいてくると、大きく息をした。

「あれ……なんかイチンゴの匂いがするわ」

「リックが言うには食べた物で匂いが変わるらしいわ。俺にもさっぱりわからん」

 ちなみに僕も原理はさっぱりわからない。そして、さっき食べた果実はイチンゴと言うらしい。少し甘酸っぱい果実だった。

 やっと依頼報告ができると思い、薬草を鞄から取り出していく。今回もたくさん薬草を持ってきた。

「あのー、リックくん?」

「はい」

「これどれも依頼の薬草と違うけど大丈夫?」

「へっ!?」

 どうやら僕が持ってきた薬草は本来採取する薬草とは違うらしい。途中でSランク冒険者の二人が言っていた薬草を取り出すと、そっちが依頼の薬草として回収された。

「僕って薬草もまともに採取できないんですね」

 どうやら僕は薬草採取の才能もないようだ。出した薬草を鞄に戻していくと腕を掴まれた。それも全く腕を動かせないほどだ。

「むしろすごいです! 依頼としては募集されていないので受理できませんが、その薬草を売ってください。お願いします!」

 あまりにも頼まれたため、半分は売ることにした。たくさん持っていても、毛玉のご飯にしか使えないからな。

 今回の依頼で僕はDランク冒険者になった。次のランクに上がるには試験が必要になるため、だいぶ後になるだろう。

 ギルドでやることを終えた僕は公爵家に帰ることにした。

 そんな僕達にロンリーコンは、ゴブゥを鞄に入れて帰った方が良いと提案してきた。

 みんなを驚かせないようにするためらしい。確かに王都内に入る時や冒険者ギルドに来た時の反応を見ると正しい選択だろう。

 改めてゴブリンが嫌われていることにどこか胸が痛くなる。

「いつかゴブリンが好かれる時代が来ると良いね」

 ゴブゥは理解しているのか、頷いて鞄の中に入って行った。本当に僕の家族は頭が良くてお利口だ。

「では、また今度きますね」

 ロンリーコンにお礼を伝えると、公爵家に向かって歩き出した。

「あのー、リックくんってカメムシとゴブリンを間違えていますか? しかもあんな大きさのカメムシを見たの生まれて初めてですよ?」

「ああ、俺も見た時は驚いたぞ。本人はゴブリンだと思っているらしいから、気づくまでは黙っててくれないか」

「子どもの時の経験って大事ですもんね。それにしてもイチンゴの匂いを嗅いだら食べたくなったわ」

 その日、イチンゴを買いに行く冒険者が増えたとか……。