僕が家に帰る頃にはアリアとフェンリルは同じベッドの中で丸まって寝ていた。お互いに暖をとっていたのだろう。

 一緒に寝ているということは、フェンリルもだいぶアリアに馴れたのだろう。

 僕も一緒にもふもふを味わいたいと、つい思ってしまう。

 声をかけると眠たそうに起きてきた。

「お兄ちゃんおかえり」

『キュ!』

「ただいま! 今日はお祝いをしようか!」

 急なお祝いにアリアは首を傾げる。隣にいるフェンリルも同じように傾けていた。

「お兄ちゃん突然どうしたの?」

 今日は僕達の家で食べる最後のご飯になるだろう。僕が生きていると、貴族の冒険者に知られると証拠隠滅のために殺されてしまうかもしれない。

「アリア……僕名前を変えることになったよ。今日からリックだ」

 僕は冒険者でギルドであったこと、貴族の冒険者に命を狙われている可能性があることを伝えた。

 そして、家を出ないといけないことを――。

 笑って話していたはずなのに、自然と涙が出てきてしまう。

 両親が残した家も名前も無くなってしまう。

 僕の元にあるのは、大事な妹のアリアと新しい家族のフェンリルだけだ。

 そんな僕を慰めるようにアリアは涙を拭う。フェンリルも心配になったのか、僕の頭の上によじ登り、ぽんぽんと叩いている。

「あっ、そうだ! お兄ちゃんが名前を変えたらなら私も変えればいいんだ!」

「えっ?」

 アリアの言っていることが僕にはわからなかった。別に冒険者に狙われているわけではない。

 それなら両親からもらった名前を変える必要はないのだ。

「だってこのフェンリルもまだ名前がないでしょ? なら今日からみんなの名前が変わる日で良いよね」

 アリアの優しい気持ちが僕の心を暖かくしてくれる。僕の目からは涙が止まらない。

「お兄ちゃんがラックからリックになったなら、私はアリアからマリアにしようかな」

 そんな妹の言葉に僕は頷く。マリアならそんなに前の名前とも変わらない。

「じゃあ、あとはフェンリルだけどもふもふしてるから似た名前がいいよね?」

 もふもふに似た名前――。

「モフオとか?」

 僕の提案に頭の上のフェンリルが、さっきよりも強く叩いてきた。どうやらモフオは嫌らしい。

 ひょっとして女の子なのかもしれない。

「それならモフミ――」

 頭の上での猛反撃は止まらない。段々と叩かれすぎて、音楽を奏でているように感じてしまう。

「もふもふ……も……もさもさ……もすもす……モススはどう?」

 フェンリルの反対の音楽はどうやら止まったようだ。明らかに僕よりもセンスがあるアリアいや……マリアの名前が気に入ったのだろう。

「じゃあ、今日から僕はリック!」

「私はマリア!」

『キュ、キュキュ!(オラはモスス!)』

 僕達は誓いを立てるように名前を呼ぶ。もう前の僕には戻れないということだ。

 二人も自身に言い聞かせているのだろう。

「あっ、お兄ちゃんお祝いって何するの?」

「えーっと、とりあえずお肉を買って――」

「お兄ちゃん……それ野菜だよ?」

 お肉は高いから普段買っているお肉に似た野菜を買ってきてしまったようだ。

 お金はフェンリルやダンジョン内で手に入れられるため、たくさんあるのに習慣は抜けないらしい。

「ふふふ、やっぱりお兄ちゃんらしいね」

『キュキュ!』

 名前が変わっても変わらない僕達の関係。

 心優しいマリアと愛らしいモスス。

 やっと強くなった僕はどんなことがあっても二人を大事に守るよ。

 僕は改めて家族の大切さに気付かされた。

 今日から僕達家族は新しい家族となった。