周囲の視線がオオバッカに集まり、屈辱と共に蔑む声が聞こえてきた。

「これは違う……噴水の水だ」

 言い訳をしているのだろう。だが、実際のところ噴水は僕の後ろ、さらに遠いところにある。

 いや、そもそも股が噴水なのかもしれない。考えれば考えるほど笑ってしまう。

「あの糞ガキが笑いやがって! サゲスーム公爵家をバカにして――」

「バカにするのもいい加減にしなさい!」

 近くにいたはずのソフィアがいつのまにかオオバッカの目の前にいた。オーブナーも突然現れたことに驚いている。

「あなたがさっきから言っているリックくんは聖獣に認められた子どもよ! それにその妹のマリアは王族である私の庇護下にあるのよ!」

 集まってきた貴族達はざわざわとしていた。そのほとんどが僕達についてのことだろう。

『ワシに認められた小僧に何かしたら、即噛み殺してやるからな!』

 相変わらずワシの言葉は暴力的だ。そして、僕はいつのまにか認められたらしい。

 ソフィアの言っていることが正しいと答えるようにワシは大きな声で遠吠えする。

「ソフィア殿下これはどうされましたか?」

 騒ぎに駆けつけた城の警備隊がソフィアの元へ来た。

「サゲスーム公爵家のオオバッカが、大事な人達を傷つけたわ。すぐに牢屋に入れて話を聞きなさい」

「はっ!」

 警備隊はオオバッカに魔法を唱えると、拘束されそのまま強制的に運ばれていく。あまりにも一瞬にして解決したため、僕は体の力が抜ける。

――モフン

 僕はそのまま崩れ落ちると、ワシの上に倒れていた。急いで駆け寄ってきたのだろう。

「あー、もふもふ癒される」

『そんなにワシのことが好きか』

 このもふもふも好きだな。

 意識が朦朧となりながらも、僕はワシをもふもふし続けた。

『キュ!』

『力もない聖虫にはまだまだこやつを守る力はないようだな』

 モススとワシは何か話していたようだ。





 目が醒めた時にはいつも寝ているベッドの上にいた。隣には涙を流しているマリアも寝ている。どうやらたくさん心配をかけたようだ。

「マリアは無事でよかった」

「何が無事でよかっただ!」

「へっ!?」

 振り返るとオーブナーが僕の頬を引っ張っていた。その顔は怒っているのか、悲しんでいるのか分からない。見たこともない表情をしている。

「妹を守るならまずはしっかり自分を守るところからだ。自分自身を大事にできないやつは、誰も守ることができないぞ」

 オーブナーは僕に家族を守ることも大事だが、自分のことも大事にしろと言いたいのだろう。どこかぶっきらぼうなオーブナーは普段と変わらないところに安心する。

「ふへへへ、今日は助けに来てくれてありがとうございます」

 優しく微笑むと、オーブナーは眉間にしわを寄せた。今は何を考えているのだろう。

「お前は朝までしっかり休め」

 突然僕の目を手で隠した。視界が暗くなったからか、すぐに眠りについた。

「結局俺は何も守れなかったってことか。リックもソフィアも……」

 その日オーブナーは改めて決意した。人生をかけて再び大事な人達を守っていくことを……。