僕が冒険者ギルドの扉を開けると視線が集まる。初めはフェンリルを見ているのかと思ったが、頭を触るともふもふはいなかった。アリアとお留守番をさせていたのを忘れていた。

 受付まで行くとギルドスタッフに声をかける。彼女も僕を見て、その場で固まり驚いている。どこか見てはいけないものを見たような目だ。

「あのー……」

「ラックくん生きてたんですか!?」

 どうやら本当に僕は死んだ扱いになっていたらしい。さすがに死んだと思った人が、いきなり目の前に現れたら驚いて動けなくなるのもわからなくもない。

「あのー、実は僕――」

 僕は受付嬢にダンジョンでの出来事を話すことにした。信じてもらえるかはわからないが、冒険者か僕のどちらかが嘘をついていると思われるだろう。

 現に死んだと言われた人が目の前に現れたことで、向こうの方に非があると思われるはずだ。

 受付嬢は少し悩んで、少し相談してきますと言ってどこかへ行ってしまった。

「ラック生きてんだな」

「あっ、ハンジさん!」

 声をかけてきたのはソロで活動している先輩冒険者のハンジ。時折、僕をパーティーに入れてくれる優しいAランク冒険者だ。

「すぐにギルドスタッフが悩んでいた理由はわかると思うが、なるべくならこの街を出た方が良いかもな」

「街を出る?」

 僕は何を言われているのかわからなかった。街を出ると言っても、大事な妹もいるし親から唯一もらった家がこの街にはある。

「ああ、お前に依頼した冒険者って貴族の次男だったはずだ」

 貴族と僕に何の関係があるのだろうか。そもそもあの人達に関わるつもりも全くない。

「ラック君お待たせ……その感じだとハンジさんに話は聞いたようですね」

 僕はとりあえず頷いた。受付嬢は冒険者登録をするためのステータスボードを持っていた。

「これから再び冒険者登録をしてもらいます」

「えっ? どういうことですか?」

「それは今から説明しますね」

 受付嬢の話では、僕をパーティーに誘った冒険者達は貴族を中心に集められた冒険者パーティーだった。彼らは遊びのために冒険者として活動しているらしい。

 身なりも良く、武器や装備が一級品だったのは、完全に実力ではなくお金を持っていたからだ。

 確かに戦いの隙間でも使う道具を僕に持たせていたのは疑問に感じていたが、普段はそういうものも他の人が管理しているのだろうぐらいにしか思ってなかった。

 冒険者が遊びなら細かい管理ができないのは納得がいく。きっとあの鉱石もどこかに売るというよりも、自分達が取ってきたと自慢するのだろう。

 わざわざ新しく冒険者登録をする必要性はないと思ったが、相手が貴族となればそうもいかないらしい。

 僕が生きていることを知ったら、何かしら動きだす可能性が高いとハンジは言っていた。

 言われた通りに新しく冒険者登録をすることにした。それも、居場所がバレないように名前を変えての変更だ。

 最悪暗殺されることを考えると、今のうちにラックという存在を消さないといけないのだろう。

 両親に残してもらった名前さえも捨てなければいけなくなる。それでも生きるためには選択しなければいけない。

 僕はステータスボードにゆっくりと触れる。自分の名前を変えるだけで、こんなに息苦しくなるとは思いもしなかった。

――――――――――――――――――――

[ステータス]
【名前】 リック
【種族】 人間
【制限】 限界突破
【筋力】 15
【耐久】 18
【敏捷】 43
【魔力】 50
【幸運】 68
【固有スキル】 ガチャテイム

――――――――――――――――――――

「なにこれ……」

 明らかに変化しているステータスに僕は驚いた。今まで僕のステータスは幸運以外は一桁だった。一番高い幸運でも13だったのを記憶している。

「この制限って項目知ってますか?」

 僕は頷く。受付嬢は見たことないステータス項目に驚いているようだ。

 僕も今まで自分(・・)のステータスでは見たことはなかった。

 見たことあるのはテイムしたフェンリルと過去にテイムしたゴブリンだけだ。

 きっとエリクサーを飲んだ影響で僕の体が変わってしまったようだ。ただ、これだけ強くなったら僕一人で冒険者として活動ができるかもしれない。

「今までありがとうございました」

 僕は今日からリックとして新しく生まれ変わることになる。

 あとは妹を連れて別の街に移り住まないといけないだろう。

 今の僕の事情を詳しく知っているのは、冒険者ギルドのスタッフと先輩冒険者のハンジだけだ。

 あとはギルド側で対応をしてもらえることになった。

 僕は必要なものを買い込んで、妹とフェンリルが待つ家に帰ることにした。