「ははは、なんでお前が生きているんだ? 見たことある女がいると思ったら、まさかお前達貧困兄妹だったとはな」
そこには僕を囮にした貴族冒険者が立っていた。彼は僕の顔を見てニヤリと笑う。
「まぁ、お前のおかげで俺は有名公爵家のオオバッカ様と呼ばれるようになったけどな」
囮にして手に入れたミスリルの影響は、思ったよりも貴族達に衝撃を与えたのだろう。王族のパーティーなのに、ミスリル見たさに人が集まるぐらいだ。
オオバッカの視線と声にあの時の記憶が鮮明に思い出される。
あまりの恐怖にその場で崩れるように座り込んだ。体の震えで力が全く出ない。
「お兄ちゃん大丈夫?」
マリアが心配して近寄ってきた。今すぐにこの場から逃げ出したい。そう思っているのに、恐怖で僕の足は動かないようだ。
「スラム街のガキがどうやって城まで入ってきたんだ? どうせ、お前達だから姑息な手でも使ったん――」
「違う! 私達はソフィア殿下に招待されてきたのよ!」
マリアはオオバッカに楯突くように前に出た。自分の作ったドレスが否定されたと思ったのだろう。
だが、そいつは残酷非道な男だ。今すぐに離れたほうがいい。
オオバッカからは嫌な何かが溢れ出ている気がする。
「ほぉ、俺の愛するソフィアのドレスを作ったのはお前か……。でも、俺に対する言葉使いは学んでいないようだな」
「マリア逃げるんだ」
僕の声はマリアには届かなかった。オオバッカの手はマリアのドレスを掴んだ。びっくりしたマリアはその場で目を瞑っている。
貴族には逆らってはいけない。それが生きていく中で学んだことだ。
それでも歯向かわないといけない時がある。
それは大事な家族を守る時だ。
いざという時に妹を守れない兄なんて兄じゃない。
大事な家族も守れない僕に兄として名乗る資格もない。
「目障りだ」
オオバッカは腕を引き、握り拳を作る。そのままの勢いでマリアに拳を向けた。
「やめろー!」
力を入れた僕の足は大きく風を切る。いつもより速く動いた足は僕をオオバッカとマリアの間に運んでくれた。
次の瞬間、僕の頬に衝撃が走った。オオバッカの拳は僕の顔を強く殴った。
ダンジョンで受けた時と比べたら痛くもない。きっと妹を守るためなら、僕はなんでもできるのだろう。
そして、マリアが傷つけられるぐらいなら、僕はいくら殴られてもいい。
「マリアを離すんだ!」
マリアのドレスを掴んでいるオオバッカの手を強く握る。
ここで僕が逃げるわけにはいかない。
「お兄ちゃん!?」
「早く手を離せ!」
「ははは、お前のその目が気に食わねーんだよ!」
何度も何度もオオバッカの拳が体に入る。それでも僕は隙を逃さなかった。
一瞬手が離れたのを確認すると、マリアをおもいっきり突き飛ばす。
この場にいたらきっと殴られてしまう。
「誰かお兄ちゃんを助けて!」
マリアの助けを呼ぶ声が庭中に響く。ただ、会場はダンスを踊る時間なのか演奏が響いて聞こえない。
「しぶといガキだな。やっぱりあの時のように足に矢でも刺したほうが……あっ、いいものがあったな」
オオバッカは庭に置いてある鋭利なナイフをみつけた。きっと邪魔な枝を切り落とすのに使うのだろう。
「いや……お兄ちゃん逃げて!」
逃げようにもたくさん殴られて意識がぼーっとする。体がうまいこと動かないし、ふらふらして真っ直ぐ歩けない。
「おいおい、俺から逃げるなんて馬鹿なことはさせねーよ」
オオバッカは僕の髪を掴みズルズルと引きずる。必死に抵抗しようにも力が出ない。
「ははは、これで一生動けないようにしてやる!」
ナイフを持った手が僕の足に近づく。
ああ、あの時と同じだ。
また足が痛くて動かなくなる。
そう思った瞬間、いつもの元気な声が聞こえてきた。
『キュー!』
モススは目を光らせてオオバッカを睨みつけていた。
そこには僕を囮にした貴族冒険者が立っていた。彼は僕の顔を見てニヤリと笑う。
「まぁ、お前のおかげで俺は有名公爵家のオオバッカ様と呼ばれるようになったけどな」
囮にして手に入れたミスリルの影響は、思ったよりも貴族達に衝撃を与えたのだろう。王族のパーティーなのに、ミスリル見たさに人が集まるぐらいだ。
オオバッカの視線と声にあの時の記憶が鮮明に思い出される。
あまりの恐怖にその場で崩れるように座り込んだ。体の震えで力が全く出ない。
「お兄ちゃん大丈夫?」
マリアが心配して近寄ってきた。今すぐにこの場から逃げ出したい。そう思っているのに、恐怖で僕の足は動かないようだ。
「スラム街のガキがどうやって城まで入ってきたんだ? どうせ、お前達だから姑息な手でも使ったん――」
「違う! 私達はソフィア殿下に招待されてきたのよ!」
マリアはオオバッカに楯突くように前に出た。自分の作ったドレスが否定されたと思ったのだろう。
だが、そいつは残酷非道な男だ。今すぐに離れたほうがいい。
オオバッカからは嫌な何かが溢れ出ている気がする。
「ほぉ、俺の愛するソフィアのドレスを作ったのはお前か……。でも、俺に対する言葉使いは学んでいないようだな」
「マリア逃げるんだ」
僕の声はマリアには届かなかった。オオバッカの手はマリアのドレスを掴んだ。びっくりしたマリアはその場で目を瞑っている。
貴族には逆らってはいけない。それが生きていく中で学んだことだ。
それでも歯向かわないといけない時がある。
それは大事な家族を守る時だ。
いざという時に妹を守れない兄なんて兄じゃない。
大事な家族も守れない僕に兄として名乗る資格もない。
「目障りだ」
オオバッカは腕を引き、握り拳を作る。そのままの勢いでマリアに拳を向けた。
「やめろー!」
力を入れた僕の足は大きく風を切る。いつもより速く動いた足は僕をオオバッカとマリアの間に運んでくれた。
次の瞬間、僕の頬に衝撃が走った。オオバッカの拳は僕の顔を強く殴った。
ダンジョンで受けた時と比べたら痛くもない。きっと妹を守るためなら、僕はなんでもできるのだろう。
そして、マリアが傷つけられるぐらいなら、僕はいくら殴られてもいい。
「マリアを離すんだ!」
マリアのドレスを掴んでいるオオバッカの手を強く握る。
ここで僕が逃げるわけにはいかない。
「お兄ちゃん!?」
「早く手を離せ!」
「ははは、お前のその目が気に食わねーんだよ!」
何度も何度もオオバッカの拳が体に入る。それでも僕は隙を逃さなかった。
一瞬手が離れたのを確認すると、マリアをおもいっきり突き飛ばす。
この場にいたらきっと殴られてしまう。
「誰かお兄ちゃんを助けて!」
マリアの助けを呼ぶ声が庭中に響く。ただ、会場はダンスを踊る時間なのか演奏が響いて聞こえない。
「しぶといガキだな。やっぱりあの時のように足に矢でも刺したほうが……あっ、いいものがあったな」
オオバッカは庭に置いてある鋭利なナイフをみつけた。きっと邪魔な枝を切り落とすのに使うのだろう。
「いや……お兄ちゃん逃げて!」
逃げようにもたくさん殴られて意識がぼーっとする。体がうまいこと動かないし、ふらふらして真っ直ぐ歩けない。
「おいおい、俺から逃げるなんて馬鹿なことはさせねーよ」
オオバッカは僕の髪を掴みズルズルと引きずる。必死に抵抗しようにも力が出ない。
「ははは、これで一生動けないようにしてやる!」
ナイフを持った手が僕の足に近づく。
ああ、あの時と同じだ。
また足が痛くて動かなくなる。
そう思った瞬間、いつもの元気な声が聞こえてきた。
『キュー!』
モススは目を光らせてオオバッカを睨みつけていた。