僕は鞄に入っているモスス達を撫でながらみんなが戻って来るのを待っていた。少しモスモスするだけで気分は晴れてくる。

 さっきまでの緊張をモスモスで緩和した。

 オーブナーはさっきから何かを考えているのか、静かに難しい顔をしていた。話しかける雰囲気にもならないほどだ。

「お待たせ!」

 声がする方に目を向けると、綺麗なドレスに身を包んだ女の子がいた。貴族の令嬢が誰かと間違えて声をかけたのだろうか。

「えーっと……」

「私を忘れたの?」

 今の僕も格好だけはどこかの貴族みたいだからね。間違えても仕方ない。

 僕は今まで貴族の友達なんていたことがない。そもそも生きていくのに精一杯で、友達がいたことない。

 マリアは妹だし、オーブナーは兄みたいな存在だ。

 可能性としてはシスターコンとショタッコンだが、二人は見た目を変える魔法でも使えたのだろうか。

「ふふふ、マリアちゃんがあまりにも綺麗になったから気付かないのよ」

「マリ……ア?」

 僕の言葉に令嬢は頷いている。どうやら目の前にいる令嬢はマリアのようだ。

 全く別人って言っていいほど見た目が変わっていた。顔も生き生きとしている。

「お兄ちゃん私のこと忘れたと思ったよ」

「だっていつも可愛いマリアがどこかの令嬢みたいになっているから……ね?」

 僕が鞄にいるモススに声をかけると、みんな頷いていた。

「仕方ないから今日は許してあげる! 私の作ったドレスでびっくりさせる日だからね!」

 マリアはドレスを王族の使用人に渡し、着方を教えるところまでを説明してきたらしい。

 二人が戻ってきたということは、もうそろそろパーティーが始まるのだろう。

「わぁ!」

 急に部屋が暗くなると、パーティー会場は静まり返る。

「今から王族が入って来るぞ」

 戸惑う僕にオーブナーが小声で説明してくれた。

 少しずつ一本の道筋のように灯りがつく。火属性魔法と闇属性魔法を使った演出だ。

 ちなみにこの魔法を操作しているのは、魔法師団らしく高度な操作が必要になるらしい。

 基本的に王族は目立つ演出をして、パーティー会場に入ってくるのが慣わしだ。騎士団と共に街や城の安全を守る仕事以外にも、魔法師団は様々な仕事をしているらしい。

「えっ……あのドレスなに……」

 その中で一際輝いているドレスを着ている人がいた。周囲の女性達からは驚きの声が鳴り止まない。

 でも、このドレスの凄さはこのあとだろう本当の姿は光に照らされて気づく。

 灯りが全部ついたタイミングで、会場はさらに盛り上がっていた。

 ドレスはさらに輝きを放つ。

 色々な色がある中で、純白のドレスの輝きは誰もが息を呑むほどだ。それは隣にいる王族の人達も同じだろう。

 それぐらいドレスの輝きが違う。他のドレスが霞んで見えるほどだ。

「まるで宝石そのものだな」

 何が宝石かはわからないが、きっと綺麗に輝くものなんだろう。

 次第に目が慣れて来るとドレスを着た人物に驚いた。

「デンカさんですね」

 ワシ・セイジュウをもふもふしている時に会ったデンカがドレスを着ていた。彼女の見た目がドレスをさらに引き立てる。

「リックくんは殿下達を知っているの?」

「この間城に行った時にセイジュウさんをもふもふしていたら会いましたよ?」

 僕の言葉に公爵家の人達は目を合わせていた。そんなに会ったらまずい人だったのか?

 もし、本当にダメなら今頃僕はここにいないはず。

「リックくんっていつか大物になりそうだね」

 コルックは僕を優しく撫でる。もふもふするのも心地良いが、されるのもいつの間にか好きになっていた。

 どうやら何かやらかしたわけではないようだ。

「いつかコルックさんよりも大きくなるからね?」

「くっ……リックくんはどんな姿でも可愛いよ。でもオーブナーみたいにはならないでね?」

「おい、実の弟に失礼じゃないか?」

「事実を言ったまでだよ」

 それでも仲が良いのは変わらない。王族達が全員揃うと静かになる。

「この度、孫のエリックが10歳になった。皆の者、誕生日パーティーに駆けつけてくれてありがとう」

 きっと今話している人がこの国の王様なんだろう。今後関わることもないため、僕が外を見ているとワシが歩いていた。

 また後で、もふもふしに行こうかと考えていたら、いつの間にか王族の挨拶は終わっていた。