城に帰ってからマリアは一生懸命ドレスに使う布を作っていた。だが、何かが違うのか糸を編んでは解いてを繰り返している。

 そんな中、タマとタマタマが糸を持ってきた。どうやら糸が出せるようになったらしい。

「これって本当に渡してもいいのかな?」

 モススからもらった謎の白い物体とは異なり、丈夫なタマ達の糸。どこか色が薄く、光に照らすと輝いて見えるのが特徴的だ。

 ただ、悩んでいるこのタイミングで渡してもいいのかと迷ってしまう。

「お兄ちゃんこれどうしたの!?」

 どうしようか迷っているとマリアが声をかけてきた。マリアの周りでうろうろ歩いていたら気づくのも仕方ない。

 この際、渡してから判断してもらっても良いのだろう。

 新しい糸を渡すと驚いた表情をしていた。

「タマとタマタマが糸を出せるようになったらしいよ」

 二体とも手を上げてアピールしている。その可愛い姿に僕もついもふもふしてしまう。

 マリアは糸を受け取ると、二種類の糸を絡めるようにまとめていく。まずはハンカチーフを作って、どんな感じの生地になるか確認するようだ。

 その間、僕はタマ達をもふもふする。それにしてもうちの猫は毛玉ではなくて、糸を吐くとは思いもしなかった。

「わぁ、お兄ちゃんこれすごいよ」

 マリアは作ったハンカチーフを太陽に透かしていた。

 純白に輝くハンカチーフは、いつも見ているものより輝きが増している。

「私が探していたのはこういうやつだったの! タマ達ありがとう!」

 タマ達はお礼を言われて嬉しいのか、手を伸ばして背中をポリポリ掻いている。

 さっきまで僕にもふもふされて喜んでいたのに、すぐにマリアに寄っていくと少し悲しい。

『キュ!』

 そんな僕を励まそうとしているのか、モススは体をスリスリしてきた。

 僕は顔をモススにスリスリしていく。

 あー、モスモス最高!

 このままモスモスして今日を過ごしても良いのかもしれない。

 僕の元から離れたタマ達はマリアの隣で一緒に生地を作り出した。小さいタマ達だからこそ器用に編み込んでいけるのだろう。

 ハンカチーフの容量で編んでいき、徐々に大きくして生地を作っていく。

「これも本当にあげるのか?」

『キュ!』

 マリア達を見てモススも何か手伝いたいのか、部屋の隅から綺麗な石を数個持ってきた。

 白く輝く小さな石。

 モススは毎回どこから持ってくるのだろうか。

「モススがこれも使って欲しいって」

 僕はモススからもらった石をマリアに渡すと驚いていた。

「これはモススに必要な石じゃ――」

『キュキュ!』

 マリアはモススに返そうとするが、モススは受け取る気がないようだ。どこか僕だけ仲間外れにされているようだ。

 タマ達は必死に生地を作って、モススは白い球を渡す。毛玉はマリアの膝の上で魔力を供給する。

 僕はただただ見ているだけだ。

 少し落ち込んでいた僕の足元にコロコロと毛玉が転がってきた。その後、毛玉はなぜか短杖のところへ向かった。

 手が空いている僕に毛繕いをして欲しいのだろうか。

 僕は短杖に魔力を込めるが、毛玉はコロコロとずっと転がっていく。どうやら毛繕いをして欲しいわけではないらしい。

 毛玉はモススやタマのように感情が伝わりにくい。

 それでも必死に何かを伝えようとしていた。

「ひょっとしてしたらさっきの白い石が関係しているんじゃない?」

 ずっと毛玉と一緒にいるマリアは何が言いたいのかわかっているようだ。

 伝えたいことが合っているのか、転がらずにピタリと止まった。

「白い石と糸を使うのか……まさか短杖で石に穴をあけるってことか!?」

 僕の言葉に反応して毛玉は飛び跳ねている。どうやら正解したようだ。

「確かに穴が開けば糸を通すことができるね。お兄ちゃんは全て穴を開けてね」

 僕はマリアから白い石を受け取ると、短杖に魔力をたくさん込めて白い石に少しずつ刺していく。

 石は柔らかいのか、すぐに短杖で穴が開いた。

 きっと毛玉が僕だけ仲間外れにしないようにしたのだろう。

 優しい家族達に僕の心が温まる。

 もう少し家族の言いたいことが伝わるように仲良くならないといけないな。

 改めて家族とコミュニケーションを取るために、たくさんもふもふする時間を作ることにした。