真っ白な体に黒色の模様。僕の知っているフェンリルとは、どこか違うようだ。モススも同じフェンリルだが黒い模様はない。
「フェンリル?」
『お主、ワシをフェンリルと一緒にするな!』
どうやら目の前にいるフェンリルはワシという名前らしい。それでももふもふとしているのは変わらない。
僕は飛びつこうとしたら、その場でバランスを崩してしまった。
このままでは頭から倒れていくだろう。咄嗟に頭を守るために手で守る。
――プニィ
感じたこともない柔らかさに、僕はスリスリと頬をくっつける。
あれ?
城の床ってこんなに柔らかかったのか?
プニプニとした感触に、目を向けるとそれはワシの手だった。
「ワシさんの手はプニプニですね」
『ワシをあんな鳥と一緒にするな! ワシは聖獣だ!』
「セイジュウ? ワシさん……セイジュウさん?」
ワシはセイジュウってことは、ワシ・セイジュウって名前なんだろうか。見た目に合ったかっこいい名前をしている。
『それでワシにも毛繕いをしてくれんか?』
その場でゆっくりと座ると、背中を僕に向けてきた。これはもふもふしても良いってことなんだろうか。
僕はゆっくりと手を添える。
『クッ……』
手をそのままお尻に向かって撫でるように動かした。
『グウオオオオ』
喉を鳴らしながらワシは気持ちよさそうにしていた。何度も何度も手を動かすと、いつのまにか寝転んでお腹を見せてくる。
どことなく猫と同じ動きをするのは、何か関係があるのだろうか。その後もお腹に顔をスリスリして息を大きく吸ったり、もふもふ楽しんでいると誰かが歩いてきていた。
「聖獣がこんなに懐くのも珍しいわね」
金髪に青い瞳の綺麗な女性が不思議そうな顔で見ている。
「ワシさんが毛繕いして欲しいって言ってたんです」
「ワシさん? 毛繕い?」
僕の言葉を聞いて、さらに不思議そうな顔をしている。ただ、考えてもわからないと思ったのか隣に座ってきた。
その間ももふもふするのを止めない。手を離すとワシの手で押さえつけられて、手を引けないのだ。
「あなたは怖くないの?」
怖いってワシのことを言っているのだろうか。こんなにもふもふして可愛いのに……。
今もグルグルと喉を鳴らして寝転んでいる。
その間も女性は呟くように話していた。
「人って成長すると怖いものばかりになるのよ。あの時に私が少しでも気持ちを伝えていたら、今と違ったのかもね」
何か言えないことがあったのだろうか。僕もダンジョンで会ったフェンリルにお礼を伝えていない。
「今からでも遅くないですよ」
「えっ?」
「僕も伝えたいと思った時に言えずに後悔したばかりです。今も必死にそれを伝えるために探していますし」
あの時はどうしたらいいのかもわからなかった。それに気づいた時にはフェンリルはどこかへ消えていた。
いつももふもふさせてくれたお礼を伝える前にいなくなってしまう。
だから、ずっとお礼が言えないのは僕も変わらない。
「お姉さんは伝えなくてこれから後悔はしませんか?」
「私は――」
「自分の気持ちに正直にならないと、会えなくなってからでは遅いですよ。ほら、今も後悔している顔をしていますよ?」
僕は窓に映る姿を指差す。優しく微笑んでいても、辛く後悔している顔は隠せていない。
「殿下! どこにいますか!」
遠くから誰かを探す声が聞こえてきた。
「ここにいます」
隣に座っていた女性は立ち上がり、呼ばれた方に向かっていく。彼女はデンカという名前の人なんだろう。
彼女について行くようにワシも帰って行く。たくさんもふもふできたから僕も満足だ。
「ワシさんありがとう!」
ワシにお礼を伝えると、彼女は途中で振り返った。
「ふふ、私に元気をくれてありがとう。もふもふの王子様!」
どこか吹っ切れたのか、彼女は満面な笑みを浮かべていた。やっぱり綺麗な女性は笑顔が一番似合う。
「おっ、リックくんちゃんと待っていたか?」
彼女達がいなくなるとすぐに公爵が帰ってきた。留守番していた僕は再び城の中を探検することにした。
「フェンリル?」
『お主、ワシをフェンリルと一緒にするな!』
どうやら目の前にいるフェンリルはワシという名前らしい。それでももふもふとしているのは変わらない。
僕は飛びつこうとしたら、その場でバランスを崩してしまった。
このままでは頭から倒れていくだろう。咄嗟に頭を守るために手で守る。
――プニィ
感じたこともない柔らかさに、僕はスリスリと頬をくっつける。
あれ?
城の床ってこんなに柔らかかったのか?
プニプニとした感触に、目を向けるとそれはワシの手だった。
「ワシさんの手はプニプニですね」
『ワシをあんな鳥と一緒にするな! ワシは聖獣だ!』
「セイジュウ? ワシさん……セイジュウさん?」
ワシはセイジュウってことは、ワシ・セイジュウって名前なんだろうか。見た目に合ったかっこいい名前をしている。
『それでワシにも毛繕いをしてくれんか?』
その場でゆっくりと座ると、背中を僕に向けてきた。これはもふもふしても良いってことなんだろうか。
僕はゆっくりと手を添える。
『クッ……』
手をそのままお尻に向かって撫でるように動かした。
『グウオオオオ』
喉を鳴らしながらワシは気持ちよさそうにしていた。何度も何度も手を動かすと、いつのまにか寝転んでお腹を見せてくる。
どことなく猫と同じ動きをするのは、何か関係があるのだろうか。その後もお腹に顔をスリスリして息を大きく吸ったり、もふもふ楽しんでいると誰かが歩いてきていた。
「聖獣がこんなに懐くのも珍しいわね」
金髪に青い瞳の綺麗な女性が不思議そうな顔で見ている。
「ワシさんが毛繕いして欲しいって言ってたんです」
「ワシさん? 毛繕い?」
僕の言葉を聞いて、さらに不思議そうな顔をしている。ただ、考えてもわからないと思ったのか隣に座ってきた。
その間ももふもふするのを止めない。手を離すとワシの手で押さえつけられて、手を引けないのだ。
「あなたは怖くないの?」
怖いってワシのことを言っているのだろうか。こんなにもふもふして可愛いのに……。
今もグルグルと喉を鳴らして寝転んでいる。
その間も女性は呟くように話していた。
「人って成長すると怖いものばかりになるのよ。あの時に私が少しでも気持ちを伝えていたら、今と違ったのかもね」
何か言えないことがあったのだろうか。僕もダンジョンで会ったフェンリルにお礼を伝えていない。
「今からでも遅くないですよ」
「えっ?」
「僕も伝えたいと思った時に言えずに後悔したばかりです。今も必死にそれを伝えるために探していますし」
あの時はどうしたらいいのかもわからなかった。それに気づいた時にはフェンリルはどこかへ消えていた。
いつももふもふさせてくれたお礼を伝える前にいなくなってしまう。
だから、ずっとお礼が言えないのは僕も変わらない。
「お姉さんは伝えなくてこれから後悔はしませんか?」
「私は――」
「自分の気持ちに正直にならないと、会えなくなってからでは遅いですよ。ほら、今も後悔している顔をしていますよ?」
僕は窓に映る姿を指差す。優しく微笑んでいても、辛く後悔している顔は隠せていない。
「殿下! どこにいますか!」
遠くから誰かを探す声が聞こえてきた。
「ここにいます」
隣に座っていた女性は立ち上がり、呼ばれた方に向かっていく。彼女はデンカという名前の人なんだろう。
彼女について行くようにワシも帰って行く。たくさんもふもふできたから僕も満足だ。
「ワシさんありがとう!」
ワシにお礼を伝えると、彼女は途中で振り返った。
「ふふ、私に元気をくれてありがとう。もふもふの王子様!」
どこか吹っ切れたのか、彼女は満面な笑みを浮かべていた。やっぱり綺麗な女性は笑顔が一番似合う。
「おっ、リックくんちゃんと待っていたか?」
彼女達がいなくなるとすぐに公爵が帰ってきた。留守番していた僕は再び城の中を探検することにした。