僕がもふもふしたい気持ちを抑えられなかったのは、元々公爵家の中に獣人の血が混ざっているかららしい。

 先祖返りの影響か、稀に獣人ぽさが出てくる。それが公爵とオーブナー。

 一方、一緒に帰ってきたオーブナーの兄コルックは母親に似ており、すごく綺麗な男性だ。

 その後、コルックももふもふしてくれと頼まれたが、ただの髪の毛で他の人と変わりなかった。

 コルックは可愛い弟が欲しかったと言っていた。気づいた時にはずっと僕は撫でられていた。

 あの日から公爵家は変化した。なぜか公爵達は毎日帰ってくることになった。

 僕を撫でることで仕事の効率が良くなるらしい。

 僕がモスモスすると気分がスッキリして、毎日元気に過ごせるのと似たような感じなのだろう。

 屋敷の中はさらに賑やかになった気がする。

「それでリックくん達はいつもなにをしてるんだ?」

「僕ですか? 基本はモスス達と遊んでいますよ。オーブナーさんが外に出たら危ないって言うので」

「ほぉ?」

 公爵の膝の上にいる僕は頭を撫でられていた。僕もその間にモススをモスモスしている。

 僕の言葉を聞いた公爵はオーブナーを睨んでいるようだ。

 一方、オーブナーは僕を見ている。

「いや、リックがすぐに迷子に――」

「それはオーブナーが目を離すからじゃないか?」

「くっ……」

 さらに眉間にしわを寄せて僕を見てくる。これはどうにかしてくれって言っているのだろうか。

 基本的に表情は変わらないが、一緒にいる期間が長くなってくると何を言いたいのか伝わってくる。

「オーブナーさんは僕が迷子にならないように心配しているんですよ。この間も、一緒に森に行った時は紐で縛られるのは嫌だと言ったら、ずっと僕を抱きかかえていましたよ」

 僕はオーブナーの顔を見ると、なぜか顔が赤くなっていく。

 そんなオーブナーを見て、公爵家の人達は嬉しそうに笑っていた。

 話す内容を間違えたのだろうか。

「それで今日リックくん達がよければ、一緒に城に来てもらえないか?」

 僕達ってことはマリアも含まれているのだろうか。

「マリアもですか?」

「マリアちゃんは私とちょっと予定があるのよ」

 マリアも元々ミリアムと予定があったため、せっかくだからみんなで城に行くことになったらしい。

 城ってあの城だよね?

 王子様がいる城だよね?

 僕達は急いで準備をして公爵家の人達とともに城に行くことになった。

 なぜかオーブナーは行かないと言って屋敷で留守番をしているらしい。





 大きな城を目の前にして僕は驚きを隠せない。屋敷がいくつあっても足りないほど建物は広く、きっと僕が住んでいた町よりも大きいかもしれない。

「リックくんは少し回りながら私達の仕事場に向かおうか」

 僕は公爵に手を握られながら城を探検する。色々なものが目に入ってくるが、貴族ばかりいる屋敷の中は、僕にとって危険の巣窟でしかない。

 今回、僕が来ることになったのは、Aランク冒険者の貴族が誰かを探るためでもあるらしい。

 事前に公爵家の人達にはオーブナーが事情を話している。

 貴族なら城に行き来している可能性もあり、本人がいなくても親族が働いているため、僕が公爵と関わりがある人って認識させるためでもあるらしい。

 半分以上何を言っているのかわからなかったが、大人に任せれば良いと言っていた。

「リックくん少し庭に出ようか」

 歩き疲れているのもあり、公爵は気遣って庭で少し休憩することになった。

 庭にはたくさんの花が植えられており、澄んだ空気が流れていた。どこか風や土が喜んでいるようにも感じる。

「宰相今いいですか?」

 公爵は他の貴族に呼ばれたのか、常に何か話していた。忙しそうに指示を出しているため、僕はしばらく一人で庭で待つことにした。

 初めは困っているような顔をしていたが、絶対に動かないと約束すると駆け足でどこかへ行ってしまった。

 忙しい中で僕との時間を作ってくれたのだろう。

「戻ってくるまでみんなで遊んでようか」

 僕達は庭で鞄の中にいるモススとタマ達を取り出し、毛繕いをすることにした。

 今日も毛並みが良くふわふわとしている。あまりの心地良さにモスモスが止まらない。

『おい、お主! ワシにも毛繕いをしてくれんか!』

 あの時と同じで頭に直接語りかけてきた。ついフェンリルとあった時を思い出す。きっとフェンリルが後ろにいるのだろう。

 勢いよく振り返ると、そこには少し見た目が異なったフェンリルが座っていた。