兄がダンジョンに行って一週間が過ぎた頃、兄の死を冒険者ギルドから伝えられた。どうやら道中で逃げ遅れたらしく、そのまま魔物に連れ去られてしまったらしい。
すぐに探しにいくが中々見つけることができず、何も持ち帰ることができなかったと家に来た冒険者は泣いていた。
聞いた瞬間、私は今すぐにでも死んでも良いと思った。でも、どこか胸の奥底で兄はそれを望んでいないと叫ぶ私もいた。
そんな中突然兄が帰ってきた。頭には何かわからない虫を乗せていた。
白くてもふもふしている存在を兄はフェンリルと呼んでいた。
初めは名前なのかと思ったが、フェンリルと勘違いをしているらしい。昔から頼りになる兄だったが、どこか抜けており、危なっかしい人なのは変わらない。
「ねぇ、あなたってフェンリルじゃなくて虫でしょ?」
兄に置いて行かれたのが悲しくて、ずっと玄関の扉を見ていたのだろう。
私の言葉に膝の上に乗っている虫はゆっくりと振り返る。そして激しく首を横に振った。
その反応からして、明らかに言葉の理解ができていると感じた。
見た目は羽の生えた蝶に似た虫だが、フェンリルと呼ばれている存在に私は警戒する。向こうも警戒しているのか、目を何度も光らせていた。
「あなたに何かする気はないわよ。きっとお兄ちゃんを助けたのもあなたよね?」
私の言葉に頷いている。それが分かれば特に気にすることはない。兄を助けてくれる存在。その存在が現れただけでホッとする。
私も兄のために何かできることがあれば良いが、それもできない状態だ。だからこそ私はフェンリルと呼ばれる、白くてもふもふした存在に願いを託す。
「どうかお兄ちゃんを守ってあげて」
私はそこで力尽きて眠ってしまった。
♢
『はぁー、やっと寝てくれた』
突然明るい世界に来たと思ったら、いつのまにか少年の魔物としてテイムされていた。なぜか彼はオラのことをフェンリルと呼んでいる。
この立派な羽は見えるだろうか。(まぁ、飛べないけど)
この立派な脚は見えるだろうか。(まぁ、フェンリルより脚が二本多いけど)
見た目はどこからどう見てもカイコにしか見えないだろう。
『実際にオラはカイコだからなー』
オラは脚を使って頭を掻く。きっとこの世界でカイコをフェンリルと呼ぶ人は彼しかいないだろう。
そんな彼に撫でられると、今まで感じたことのない幸福感に満たされた。
いつまでも撫でてもらい。
そんな風にずっと思ってしまう。
それなのに目の前にいる彼女は彼の勘違いを正そうとする困った人だ。
彼の妹じゃなかったら、今頃状態異常を付与させて一生話せないようにしていたぞ。
オラは聖獣ではなく成虫だ。現に子どもの頃はただの幼虫だった。
うにょうにょとしたあの姿で出てきていたら、きっと二人にも嫌われていただろう。
だからそのまま勘違いしてもらうために、彼には得意分野の"状態異常付与"のスキルを使った。今は解放されているはずなのに、いまだにオラのことをフェンリルだと思っている。
彼女が兄はどこか抜けているって呟いていたことに、オラも納得してしまった。
一方彼女は全くオラのスキルが効かなかった。相手の魔力を使って付与させるスキルが効かないってことは、彼女自体の魔力がほぼないということになる。
魔力がなければ生きていけないのに、生きているということはそれだけ今生きているのがギリギリの存在なんだろう。
だから、オラの魔力を使って強制的に眠らせた。
生きている間は少しでも兄と一緒に居たいと思ったのだろう。だってオラもすぐに死んでしまうカイコだからな。彼女の気持ちは理解できる。
流石に眠らなければ、せっかくの命も早く尽きてしまうだろう。
少しだけ彼女になら撫でられるのも許してやろう。
大事な彼の妹だからな。
必死に布を引っ張り、オラは彼女の腕の中に入り込む。
オラのもふもふとした体を味わうが良い。
どこか似たもの同士のオラ達。
スヤスヤと眠る姿にオラも安心して眠たくなってきた。
彼女の寝息を聞いて安心したのか、いつのまにかオラもそのまま眠りについていた。
すぐに探しにいくが中々見つけることができず、何も持ち帰ることができなかったと家に来た冒険者は泣いていた。
聞いた瞬間、私は今すぐにでも死んでも良いと思った。でも、どこか胸の奥底で兄はそれを望んでいないと叫ぶ私もいた。
そんな中突然兄が帰ってきた。頭には何かわからない虫を乗せていた。
白くてもふもふしている存在を兄はフェンリルと呼んでいた。
初めは名前なのかと思ったが、フェンリルと勘違いをしているらしい。昔から頼りになる兄だったが、どこか抜けており、危なっかしい人なのは変わらない。
「ねぇ、あなたってフェンリルじゃなくて虫でしょ?」
兄に置いて行かれたのが悲しくて、ずっと玄関の扉を見ていたのだろう。
私の言葉に膝の上に乗っている虫はゆっくりと振り返る。そして激しく首を横に振った。
その反応からして、明らかに言葉の理解ができていると感じた。
見た目は羽の生えた蝶に似た虫だが、フェンリルと呼ばれている存在に私は警戒する。向こうも警戒しているのか、目を何度も光らせていた。
「あなたに何かする気はないわよ。きっとお兄ちゃんを助けたのもあなたよね?」
私の言葉に頷いている。それが分かれば特に気にすることはない。兄を助けてくれる存在。その存在が現れただけでホッとする。
私も兄のために何かできることがあれば良いが、それもできない状態だ。だからこそ私はフェンリルと呼ばれる、白くてもふもふした存在に願いを託す。
「どうかお兄ちゃんを守ってあげて」
私はそこで力尽きて眠ってしまった。
♢
『はぁー、やっと寝てくれた』
突然明るい世界に来たと思ったら、いつのまにか少年の魔物としてテイムされていた。なぜか彼はオラのことをフェンリルと呼んでいる。
この立派な羽は見えるだろうか。(まぁ、飛べないけど)
この立派な脚は見えるだろうか。(まぁ、フェンリルより脚が二本多いけど)
見た目はどこからどう見てもカイコにしか見えないだろう。
『実際にオラはカイコだからなー』
オラは脚を使って頭を掻く。きっとこの世界でカイコをフェンリルと呼ぶ人は彼しかいないだろう。
そんな彼に撫でられると、今まで感じたことのない幸福感に満たされた。
いつまでも撫でてもらい。
そんな風にずっと思ってしまう。
それなのに目の前にいる彼女は彼の勘違いを正そうとする困った人だ。
彼の妹じゃなかったら、今頃状態異常を付与させて一生話せないようにしていたぞ。
オラは聖獣ではなく成虫だ。現に子どもの頃はただの幼虫だった。
うにょうにょとしたあの姿で出てきていたら、きっと二人にも嫌われていただろう。
だからそのまま勘違いしてもらうために、彼には得意分野の"状態異常付与"のスキルを使った。今は解放されているはずなのに、いまだにオラのことをフェンリルだと思っている。
彼女が兄はどこか抜けているって呟いていたことに、オラも納得してしまった。
一方彼女は全くオラのスキルが効かなかった。相手の魔力を使って付与させるスキルが効かないってことは、彼女自体の魔力がほぼないということになる。
魔力がなければ生きていけないのに、生きているということはそれだけ今生きているのがギリギリの存在なんだろう。
だから、オラの魔力を使って強制的に眠らせた。
生きている間は少しでも兄と一緒に居たいと思ったのだろう。だってオラもすぐに死んでしまうカイコだからな。彼女の気持ちは理解できる。
流石に眠らなければ、せっかくの命も早く尽きてしまうだろう。
少しだけ彼女になら撫でられるのも許してやろう。
大事な彼の妹だからな。
必死に布を引っ張り、オラは彼女の腕の中に入り込む。
オラのもふもふとした体を味わうが良い。
どこか似たもの同士のオラ達。
スヤスヤと眠る姿にオラも安心して眠たくなってきた。
彼女の寝息を聞いて安心したのか、いつのまにかオラもそのまま眠りについていた。