オーブナーに王都へ行くことを伝えると、準備が早速始まった。王都までは僕達だけで移動するかと思ったが、ロンリーコンとショタッコンも一緒に行くことになった。
馬車の準備や荷物の用意をしようと思ったが、全て大人達が準備してくれることになった。大人達はなぜかニヤニヤとしていたが、そんなに王都へ行くのが楽しみなんだろうか。
やることがなくなった僕達は、お世話になった宿屋の掃除をすることにした。
それを伝えるとオーブナーはどこかへ行ってしまった。しばらくすると掃除道具を手に戻ってきた。
なぜかオーブナーの目は赤く染まり鼻をすすっていた。
「ほらよ!」
少しぶっきらぼうに掃除道具を渡してきた。先に掃除をしてきて目が痒くなったのだろう。
僕も自分の家が汚い時はよく目も痒くなったし、くしゃみが止まらなかった。
掃除道具を受け取って部屋に戻る。早速掃除の始まりだ。
「マリアは糸の整理と売るやつをまとめておいてね」
「売り物を汚しちゃいけないもんね」
マリアは大きな布に糸とハンカチーフをまとめていく。
その間に僕はベッドの周囲を掃除する予定だ。
僕は掃除道具を手に取り、ベッドの下に入れようとしたら、突然モススに髪の毛を強く引っ張られた。
「そんなに引っ張られたらハゲちゃうよ?」
『キュ!』
モススが必死に何かを伝えたいのか、ずっと引っ張ってくるのだ。
「今は掃除の時間だから邪魔したらダメだよ?」
モススの体をモスモスすると、気持ちよさそうな顔をしていた。その瞬間、モススの力が抜けることを僕は知っている。
力が抜けたタイミングでモススを毛玉に預ける。
「少しモススと遊んであげてね」
最近毛玉は増毛期なのか、以前よりも体が大きくなっている。モススより一回り大きいため、モススと戯れ合うにもちょうど良さそうだ。
僕の言いつけを守って毛玉はモススがこっちに近づいて来ないように、体を張って止めていた。
『キュー!』
モススが必死に何かを叫んでいるが、僕はお構いなくベッドのしたに掃除道具を入れた。
「あれ? 何かあるぞ」
僕はベッドの下に手を入れて引っ張ると、モススと同じ大きさのウニョウニョとした物体が出てきた。
脚がたくさんあり、僕を見ると嬉しそうに体にまとわりついてきた。
「ぎぃやああああ!」
見たこともない物体につい大きな声を出してしまった。
あまりにも気持ち悪い見た目と動きにだんだんと血の気が引いてくる。
しかも、それは一体だけではなく何体もベッドの下に潜んでいたのだ。
体にウニョウニョとまとわりついて、僕を抱きしめていく。
ああ、意識がぼーっとしてきたよ。
部屋を出て作業をしていたマリアは僕の声を聞いて駆けつけてくれた。
「マリア助け……て……」
マリアに助けを求めるがすでに遅かった。
僕はその場で意識を失ってしまった。
♢
糸の整理をしていると、突然兄の叫び声が聞こえてきた。今宿屋の中にいるのは私達だけだ。
急いで部屋に戻ると、兄の体の周りにはモススの子ども達が体にまとわりついていた。
子ども達とモススは心配そうな顔で私を見ている。
兄はモススのことをフェンリルと言っていたが、私は前からモススがカイコだと知っている。
この間、モススが繭玉を持ってきたためどこかで子どもが生まれて、大きくなったんだと思っていた。
だが、繭玉を渡された兄は気づいていないのか、未だにフェンリルと言っていた。
兄は昔から天然だったけど、ここまで天然だとは思いもしなかった。
「モススはお兄ちゃんに子どものことを伝えてなかったの?」
『キュ……』
どこか寂しそうにモススは頷いていた。確かに自分の子ども見て、叫ばれたら親として悲しいだろう。
兄は薬草を与えてモススが元気になっていると思っているが、実際は薬草を食べて元気になっていたのはモススの子ども達だ。
そんなモススの子ども達は、大きくなると繭玉になる。
普通だとそのままカイコになるはずが、なぜか繭玉だけ残して綺麗な丸い石になってしまう。
モススはその石を大事そうに抱え込むと、石は消えてモススは前のように元気になる。
どういう仕組みかはわからないが、モススはその石で長生きしているのだと直感で思った。
そもそもカイコは普通であれば数日しか生きられないはず。
カイコのモススは兄が連れてきてから、すでに一月以上は経っている。
あの丸い石がモススの命を繋ぎ止めているのだろう。
私が毛玉を手放せないのと似たような感じだ。
そんな毛玉も本当は毛玉ではないはず。私もこんな丸い生き物は見たこともないからね。
兄の周りには不思議な物達ばかり集まるのはなんでだろうか。
最近は不思議な人間も引き寄せている。
「王都に行く時は見つからないように、大きなカバンに入れないとだめだね」
兄が無理なら私がモススの子ども達の面倒を見ないといけない。
その代わりにハンカチーフに使う糸をモススにもらえるか確認すると、店の後ろからコロコロと繭玉を転がしてきた。
必死に子どもの存在を隠すために、繭玉を隠していたのだろう。
思ったよりもその数は多かったが、たくさんのハンカチーフが作れるなら問題はない。
これで値段が安くなるなら、私達が目立つことはなくなるからね。
私は兄が起きる前にベッドの下を掃除する。モススの子どもは聞き分けの良い子ばかりで、説明すると頷いてベッドの下に帰って行った。
いつかはあの子達も兄に好かれるといいな。
馬車の準備や荷物の用意をしようと思ったが、全て大人達が準備してくれることになった。大人達はなぜかニヤニヤとしていたが、そんなに王都へ行くのが楽しみなんだろうか。
やることがなくなった僕達は、お世話になった宿屋の掃除をすることにした。
それを伝えるとオーブナーはどこかへ行ってしまった。しばらくすると掃除道具を手に戻ってきた。
なぜかオーブナーの目は赤く染まり鼻をすすっていた。
「ほらよ!」
少しぶっきらぼうに掃除道具を渡してきた。先に掃除をしてきて目が痒くなったのだろう。
僕も自分の家が汚い時はよく目も痒くなったし、くしゃみが止まらなかった。
掃除道具を受け取って部屋に戻る。早速掃除の始まりだ。
「マリアは糸の整理と売るやつをまとめておいてね」
「売り物を汚しちゃいけないもんね」
マリアは大きな布に糸とハンカチーフをまとめていく。
その間に僕はベッドの周囲を掃除する予定だ。
僕は掃除道具を手に取り、ベッドの下に入れようとしたら、突然モススに髪の毛を強く引っ張られた。
「そんなに引っ張られたらハゲちゃうよ?」
『キュ!』
モススが必死に何かを伝えたいのか、ずっと引っ張ってくるのだ。
「今は掃除の時間だから邪魔したらダメだよ?」
モススの体をモスモスすると、気持ちよさそうな顔をしていた。その瞬間、モススの力が抜けることを僕は知っている。
力が抜けたタイミングでモススを毛玉に預ける。
「少しモススと遊んであげてね」
最近毛玉は増毛期なのか、以前よりも体が大きくなっている。モススより一回り大きいため、モススと戯れ合うにもちょうど良さそうだ。
僕の言いつけを守って毛玉はモススがこっちに近づいて来ないように、体を張って止めていた。
『キュー!』
モススが必死に何かを叫んでいるが、僕はお構いなくベッドのしたに掃除道具を入れた。
「あれ? 何かあるぞ」
僕はベッドの下に手を入れて引っ張ると、モススと同じ大きさのウニョウニョとした物体が出てきた。
脚がたくさんあり、僕を見ると嬉しそうに体にまとわりついてきた。
「ぎぃやああああ!」
見たこともない物体につい大きな声を出してしまった。
あまりにも気持ち悪い見た目と動きにだんだんと血の気が引いてくる。
しかも、それは一体だけではなく何体もベッドの下に潜んでいたのだ。
体にウニョウニョとまとわりついて、僕を抱きしめていく。
ああ、意識がぼーっとしてきたよ。
部屋を出て作業をしていたマリアは僕の声を聞いて駆けつけてくれた。
「マリア助け……て……」
マリアに助けを求めるがすでに遅かった。
僕はその場で意識を失ってしまった。
♢
糸の整理をしていると、突然兄の叫び声が聞こえてきた。今宿屋の中にいるのは私達だけだ。
急いで部屋に戻ると、兄の体の周りにはモススの子ども達が体にまとわりついていた。
子ども達とモススは心配そうな顔で私を見ている。
兄はモススのことをフェンリルと言っていたが、私は前からモススがカイコだと知っている。
この間、モススが繭玉を持ってきたためどこかで子どもが生まれて、大きくなったんだと思っていた。
だが、繭玉を渡された兄は気づいていないのか、未だにフェンリルと言っていた。
兄は昔から天然だったけど、ここまで天然だとは思いもしなかった。
「モススはお兄ちゃんに子どものことを伝えてなかったの?」
『キュ……』
どこか寂しそうにモススは頷いていた。確かに自分の子ども見て、叫ばれたら親として悲しいだろう。
兄は薬草を与えてモススが元気になっていると思っているが、実際は薬草を食べて元気になっていたのはモススの子ども達だ。
そんなモススの子ども達は、大きくなると繭玉になる。
普通だとそのままカイコになるはずが、なぜか繭玉だけ残して綺麗な丸い石になってしまう。
モススはその石を大事そうに抱え込むと、石は消えてモススは前のように元気になる。
どういう仕組みかはわからないが、モススはその石で長生きしているのだと直感で思った。
そもそもカイコは普通であれば数日しか生きられないはず。
カイコのモススは兄が連れてきてから、すでに一月以上は経っている。
あの丸い石がモススの命を繋ぎ止めているのだろう。
私が毛玉を手放せないのと似たような感じだ。
そんな毛玉も本当は毛玉ではないはず。私もこんな丸い生き物は見たこともないからね。
兄の周りには不思議な物達ばかり集まるのはなんでだろうか。
最近は不思議な人間も引き寄せている。
「王都に行く時は見つからないように、大きなカバンに入れないとだめだね」
兄が無理なら私がモススの子ども達の面倒を見ないといけない。
その代わりにハンカチーフに使う糸をモススにもらえるか確認すると、店の後ろからコロコロと繭玉を転がしてきた。
必死に子どもの存在を隠すために、繭玉を隠していたのだろう。
思ったよりもその数は多かったが、たくさんのハンカチーフが作れるなら問題はない。
これで値段が安くなるなら、私達が目立つことはなくなるからね。
私は兄が起きる前にベッドの下を掃除する。モススの子どもは聞き分けの良い子ばかりで、説明すると頷いてベッドの下に帰って行った。
いつかはあの子達も兄に好かれるといいな。