「スパイダーって猫のことを言うんだね」

「ネコ……だと?」

 オーブナーに剣を向けられても、僕がもふもふとしていたら逃げることもなく、その場で丸まってゴロゴロと鳴いている。

「ほら、ゴロゴロと言っているよ」

 オーブナーがゆっくりと近づくと、猫は存在に気づき遠くへ逃げてしまった。猫って知らない人が来ると逃げる習性があるからな。

「オーブナーさんが驚かして逃げちゃったよ」

「あっ……すまない」

 僕が怒るとオーブナーはおどおどとしている。再び猫に近づくと、オーブナーには警戒しているものの僕には近づいてきて体を擦り付けている。

 やはり犬も可愛いが、猫も気ままで可愛い。

 今後この野良猫と触れ合う機会がないと思い、僕はさらにもふもふとしていく。

 ゴロゴロと地響きのように低い声が鳴り響くと、猫の体は輝き出した。

 あれ……?

 猫って光る生き物だったのか?

「リック!?」

 あまりの眩しさに目を閉じる。その瞬間、体が持ち上げられた。

 目を開けると木の後ろに身を潜めていた。

 どうやら心配になってオーブナーが僕を抱えて、木のところまで逃げてきたのだろう。

「大丈夫か?」

「僕は大丈夫だけど、猫は大丈夫かな?」

 ゆっくりと木の後ろから猫がいたところを見ると、もう姿は消えていた。

 その場にあるのは黄土色に輝く大きなコイン。

 なぜかガチャコインが猫がいた場所に落ちていたのだ。

 突然いなくなった猫に悲しい気持ちになってくる。

 別れの挨拶もできないまま、どこかに行ってしまった。

「これはなんだ?」

「これがガチャコインです。この間の謎の大きいやつを呼び出すのに必要で」

「ああ、例の毛玉を吐き出したやつか」

 それだけ聞いたら謎の大きな物体も猫のような気もしてきた。猫もよくオエオエとして毛玉を吐き出していた。

 僕はガチャコインを鞄に入れると、オーブナーに手を繋がれる。

「リックは手を繋いでおかないとすぐにどっかいくからな」

「もう12歳だからそんな心配しなくても――」

「お前はすぐにどこかへ行くからダメだ」

 頑なにオーブナーは拒否をして手を離さないようだ。

「オーブナーさんの手って大きいですね」

 久しぶりに大きな手に握られると、小さい頃に父と手を繋いで買い物に行っていたのを思い出す。

「そうか?」

「うん! 大きくてゴツゴツしてて、頑張っている手です!」

 鍋を振っていることが多いからか、手には潰れたマメがたくさんあった。毎日僕達の料理を作るのも大変なんだろう。

 どこかオーブナーは恥ずかしそうに照れていた。

「おーい、リックは見つかったか?」

 遠くからロンリーコンの声も聞こえてきた。僕が手を振ると、わずかに見えていたのだろう。笑いながら近寄ってきた。

「お前達手を繋いでどうしたんだ?」

「リックはすぐに迷子になるからな」

「んっ……それって僕が悪いんですか?」

 僕はちゃんと薬草を採取していただけだ。全て僕のせいにされたら納得できない。

「あー、俺達もちゃんと見てなかったからな。これで迷子になることもないだろう」

 反対の手をロンリーコンが握ってきた。これで僕の両手は塞がってしまった。

「糸は見つかったから帰るぞ」

 どうやら糸が見つかったところで、僕がいないことに気づいたらしい。ロンリーコンが遅れたのは糸を回収していたかららしい。

「これでマリアも喜ぶね」

「ああ、そうだな」

 僕は再び迷子にならないように、手を繋ぎながら帰ることにした。二人とも背が高いからか、少し足が浮いていた。

 決して嬉しくて浮いていたわけではない。僕はもう12歳だからね。

 帰った後にショタッコンが泣き叫びながら、僕と手を繋ぎたいと言ったのはここだけの秘密だ。