オラの日課は毛繕いから朝が始まる。大事なリックのためにしっかりと毛並みを整え、太陽の下でヌクヌクと体を温める。

『あー、今日もリックにたくさんもふもふしてもらおう』

 太陽の匂いがして、ポカポカな気持ちになればリックはオラをたくさんもふもふしてくれる。

 ベッドの上でクルクルとまわり、体がぶつかった。リックに目覚めの挨拶をしようと思ったら、そこにはマリアがいた。

 周囲を見渡すと、リックはすでに起きたのかいなくなっていた。

『ありゃりゃ? リックはどこだ?』

 ベッドの下を覗いてもいない。トイレを覗いても変なおじさんしかいなかった。

『まさか魔物に誘拐でもされたのか!?』

 オラはバタバタと急いで羽を動かす。ただ、オラの羽は飛ぶために生えているわけではない。

 バタバタするとどこか速く走れるような気がするのだ。

 そんなオラは最近リックが他の魔物に懐かれすぎてイライラしていた。その度に髪の毛を引っ張ったり、頭を叩いてもリックは気づきもしない。

 むしろリックは勘違いをして、オラを撫でてくれる。

 リックに撫でられると、体の力が抜けてイライラしていたのを忘れてしまうオラがいる。

 この間はオラと森に採取へ行った時は、コボルト達に懐かれて追いかけられていた。

 リックはコボルトが薬草を食べたくて、狙っていると勘違いしていたが、そもそもコボルトは肉食で人間を食べる。

 オラのスキルで状態異常を付与したが、大きなコボルトには効かなかった。

 初めはリックを食べるために狙っていると思ったら、オラからリックを奪うためだった。

 最後はコボルトもリックに撫でられ昇天していたが、ちゃんとリックにも危機意識を高めてもらう必要がある。

 リックのもふもふには耐性がないと一瞬でやられてしまうが、もふもふできる魔物じゃないと今頃リックは生きていないかもしれない。

 だから、これからはオラがリックに何が危ないのかを教えるつもりだ。

 時折匂いを嗅ぎながら、顔をスリスリとしてくるリック。オラにとっては、これが生きている中で一番のご褒美でしかない。

 そんなリックは自分の強さにまだ気づいていない。

 魔物をもふもふしたら、ガチャコインが手に入ることを――。

 ただ、絶対オラからは言う気もさらさらない。

『ぬぁ、なんだあの魔物は!』

 やっとリックを見つけたと思ったら、頭の上に何か新しい魔物を乗せていた。

 あそこはオラの居場所だ!

 何もわからない新人が悠々とした顔で居座ってムカつく。

 いや、あいつはどこに顔があるんだ?

 毛で埋もれて毛玉にしか見えないぞ。

 オラは羽をバタバタと羽ばたかせてリックの元まで走った。

『そこはオラの大事な場所だああああ!』

 オラは脚を地面に叩きつけて、リックに魔物が危険なことを教える。

 それでもリックはオラに微笑みかける。

 くっ……オラはあの優しい顔が好きだ。だけど、それと今の状況は違う。

 謎の毛玉を後ろ脚でバシバシと蹴り落とすと、毛玉は無言で落ちていく。

 オラが消えるまで誰にもリックを渡す気はない。

 オラがリックの一番の相棒だ!

 ここの特等席も誰にも渡さないぞ!

 そして、リックよ。

 もうちょっと危機意識を持ちなさい!

 オラはその後もリックの頭もポカポカと叩いた。

 決してもふもふしてもらいたいからではないからな!




 さっきまでそんなことを思っていたが、いつの間にかリックは取られてしまった。

 オラはリックに体を短杖で毛繕いをしてもらっていた。体を綺麗に保つにはこの毛繕いは必要だ。

 その間、毛玉はリックの頭の上に乗っている。

『おい、新人!』

『拙者に何か様でござるか?』

 何も返って来なかったから話せないと思っていたが、どうやら新人にも口がついているらしい。

『そこはオラの特等席だぞ!』

 オラは状態異常を新人に付与するが、なぜかそれを吸収して跳ね返してくる。もふもふボディの魔力がどんどんと吸収されていく。

『拙者は不幸体質でござる。あまり拙者に魔法は使わない方が良いでござるよ』

 新人は色々なものを吸収する体らしい。しかも、吸収したものを跳ね返すため、自身のことを不幸体質と言っていた。

 それなら尚更、そんなやつをリックの頭の上に乗せるわけにはいかない。

 乗せるわけにはいかないのに……この心地良さには負けてしまう。

 オラの体も前よりもピカピカになり、毛の一本一本の艶も格段に変わった。

 リックにあの短杖を与えた魔女には感謝しかない。やつもリックの才能と能力に気づいたのだろう。

「次は毛玉の番だな」

 今度は毛玉を頭から降ろすと、オラがリックの頭に乗る番だ。

 新人の癖に頭の上に乗るだけでは足りないっていうのか。まさかの毛繕いまでしてもらうつもりらしい。

 しかも、新人は不幸体質なんだぞ!

 そんなやつに大事なリックが毛繕いなんかして、不幸になったらどうするんだ。

 オラは必死に髪の毛を引っ張って、辞めるように言ってもリックは聞こうとしない。

 そのまま毛玉に毛繕いを始めてしまった。

 ああ、オラだけのリックの毛繕いが……。

『うぉ!? なんじゃこら。拙者のマリモとしてのプライドが……。これはあかん! 飲み込まれてしまう!』

 毛玉は気持ち良いのか何かと必死に戦っていた。リックのもふもふと毛繕いは昇天しても良いと思うほどだからな。

「あれ? なんか毛玉に魔力を吸い取られている気がするぞ」

 途中でリックは気づいたのか手を止めていた。

 ほらほら、不幸体質だから毛繕いをするなって言ったのに無視したからそうなったんだ。

 オラは毛玉を蹴り飛ばすと、勢いよくマリアの膝の上に飛んでいく。

 それをマリアは優しく抱きしめると驚いた顔をしていた。

「お兄ちゃん、私毛玉さんに触れると魔力が回復するみたい」

「えっ? そうなのか?」

 急いで毛玉に触れてみるが、リックにはわからないらしい。オラも触れてみたが、特に魔力が感じられる気もしない。

『拙者に触れるではない! 不幸体質が移ってしまう!』

 毛玉は少し怒っていたが、マリアは心地良いのかそのまま抱きしめていた。

 マリアとマリモ。

 名前が似たマリマリコンビで良い仲になるのだろう。

 大事なリックの妹の命が少しでも続くようなら、新人を歓迎してやろう。

 その前に大事なことだから、もう一度言わせてもらおう。

『リックの頭の上はオラの居場所だ!』

 オラは再びリックの頭の上に戻ることにした。ここは誰にも譲る気はないぞ。