僕は事前に聞いていた森に着いた。歩いて三十分程度と聞いていたが、体感的には二時間はかかった気がする。

 きっと三十分って言っていたのは、大人の体で歩いたらってことなんだろう。

 道がわからなくなっても、時折モススが軌道修正してくれたから合っているはずだ。

「森って思ったよりも暗いんだね」

『キュー』

 モススも同じことを思っているのだろう。話で聞いていた森よりもどこか暗い。動物がいる気もないし、静かな空気が漂うだけだ。そんな中、僕達は薬草採取を始めた。

「これは回復ポーションの材料で、こっちは魔力ポーションの材料だね」

 薬草採取を始めてから気づいたのは、モススが薬草マスターということだ。

 モススの指示通り動けば、すぐに薬草が見つかるのだ。モススの目が森の中に入ってから光っていたのは、薬草を探していたのだろう。

 少し薬草が輝いている気もするが、きっとモススの目と同じで、森の中が暗いから光って見えているのかもしれない。

 そもそも薬草を初めて見る僕にとっては、光るのかどうかもわからない。

「モススまたあそこに――」

 僕は奥の方で光っている薬草を見つけて走り出した。だが、頭の上にいるモススは一生懸命髪の毛を引っ張っていた。

「んっ?」

『キュキュキュ!』

 あまりにも髪の毛を引っ張るため、視線を上げると、そこには大きく口を開けて、よだれを垂らした大きなコボルトがいた。

 街に来た時に会ったコボルトよりも体が数倍も大きく、同じコボルトには見えない。

 僕はその場で転がるように避ける。いつもより早く動ける体にびっくりだ。

 視線を元のいたところに戻すと、薬草を食べているコボルトがいた。どうやらコボルトの主食は薬草のようだ。

「君達のご飯を勝手に食べ――」

『キュキュ!』

 コボルトは僕を襲うのを諦めていなかった。周囲を見渡し、僕達を見つけると走って追いかけてきた。

 ああ、僕の鞄に薬草がいっぱい入っていたことを忘れていた。

 逃げろという合図なのか、モススはさっきより強く僕の髪の毛を引っ張る。本当に髪の毛が抜け落ちて、ハゲになりそうだ。

 12歳で髪の毛がなくなった男なんて結婚できるのだろうか。最悪そのままモススを頭の上に置いたら、隠せるのかもしれない。

 そんなことを思っている間も僕はコボルトから逃げ続けた。

「グアアアアアアアアア!」

 二足歩行で高速に手足を動かして追いかけてくるが、どうやら僕には追いつけないらしい。いつのまにか僕は足も速くなったようだ。

 後ろを振り返ってもコボルトがいないことを確認すると、ゆっくりと立ち止まる。

 たくさん走ったのになぜか疲れていないことに驚く。

 エリクサーを飲んでから少しずつ体が変化しているように感じる。

 限界突破がどこまで突破しているのだろうか。
 
『キュキュ!』

 モススに髪の毛を引っ張られて顔を上げる。

 毎回顔をあげて欲しい時に髪の毛を引っ張るのは何かあるのだろうか。

「次はどうした……えっ、ここはどこ?」

 気づいた時には知らない集落の中心に僕は立っていた。