俺は今日も薬草採取をするために森の前まで来ている。その前に80Gも使って装備を購入し、残りは25Gになっていた。

「これだけ装備が揃っていたら死ぬことはないだろう」

 魔物に襲われないのが基本だが、何かあった時のために装備を整えておく必要があった。

 俺は昨日と同様で森の中には入らずに、外から回り込むと昨日と同じ場所に着いた。

「昨日あれだけ取ったのに生えてくるのか」

 今日も人は誰もおらず、薬草は昨日と同じぐらい生えている。

 今回は匠の短剣を使った場合と使わない場合を比較することにした。そのためリーチェに頼んで、袋を2つ用意してもらった。

「やっぱりこの短剣だから光ってたのか?」

 短剣で薬草を採取すると切った瞬間に光の粒子が飛び散っていたが、手で切り取ると光ることはなかった。

 この光の粒子が短剣の幸運と何か関係しているのだろうか。

 俺は早めに薬草を刈り終えると、次は毒消し草を探した。

 リーチェからもあまり日が入らない森の奥深くに生えていることが多いと聞いていたが、薬草と同様で条件があると俺は思っている。

 俺は日が入らない(・・・・・・)ってことは毒消し草と薬草は真逆の生息地域となり、日陰に群生していることが多く、見つけにくいのではないかと考えた。

 その考えは見事に当たり、木の下にある茂みの奥から毒消し草が出てきたのだ。

 見た目はギザギザした葉で特徴的だが、上に茂みがあるためぱっと見は気づかない。

「これも短剣で切ったら」

 毒消し草を短剣で刈り取った。すると薬草の時と同様に光の粒子が飛び散る。

 その後も毒消し草を手で切り取るのと短剣で刈り取るのを交互に行うと、やはり俺の考えは合っていたようだ。

 茂みにある毒消し草を集中して刈り取っていた俺はやつらの存在を忘れていた。

「グギギッ!」

 気づいた時には遅かった。俺の後ろには何か棍棒のような物を持ったゴブリンが立っていた。

 駆け出し冒険者の一つ目の難関である、下位魔物の討伐対象のゴブリンだ。

 急いで体の向きを変えるが、勢いよく振り向いてしまったため体全体が茂みに引っかかっていた。

 防御するすべのない俺はゴブリンに叩かれ続けた。

 必死に逃げようとすればするほど足は引っかかり、体勢が整えられないのだ。

 防具をつけていても痛いものは痛いし、恐怖で頭が混乱している。

「これで終わりって……」

 俺の人生は何もなく終わるのか。一生幸せなことがなく人生が終わるのか。

「いや、俺はあいつに復讐するまでは死なねーよ!」

 俺は勢いよく短剣を振り回すとそのまま茂みを刈り取り、その勢いのまま俺はゴブリンとぶつかった。

 短剣はゴブリンの胸に刺さり、光の粒子を撒き散らしながら後ろに倒れていく。

 初めて魔物を殺す感触に俺の手は震えている。いや、これは喜んでいるのだろうか。俺は頭が混乱して何も考えられないでいた。

「やったのか」

 少しずつ冷静になった俺は痛みを堪えながら体を起こすとゴブリンに近づいた。どうやらゴブリンはその場で息絶えていた。

「やった……やったぞ!」

 俺は嬉しさのあまり喜んでいると何者かが近づいてくる足音が聞こえた。再び短剣を構えると人が出てきた。

「ヒロトが逃すから悪いんだよ?」

「そんなこと言ったって……」

 森の中から出てきたのはこの間俺に声をかけてきた年下の冒険者だった。

「先輩がゴブリンを倒したんですか?」

 直感で俺はこいつらの狩りに巻き込まれた人だと気づいた。そもそもゴブリンが森の奥から出てくることがないからだ。

「私達のせいですみません。ほら、ヒロトも謝っ――」

「弱いこいつが悪いんだろ? 転移者の俺らと違いスキルが1つしかないんだろ? しかもポーターとか……」

 年下の冒険者は何を言っているのかわからなかった。そもそもスキルが1つしかないのは当たり前のことだ。

「本当にヒロトは性格が悪いんだから! マヒロもヒロトを止めてよね」

「弱肉強食の世界だから弱いやつが悪い。まぁ、生きててよかったね」

 そう言ってヒロトとマヒロと呼ばれていた男達は森の奥に戻って行った。

「私の友達がすみませんでした。念のために回復魔法だけかけておきますね」

 少女は俺に回復魔法をかけると2人を追って行ってしまった。回復魔法1回だけでも値段は高いはずだが、彼女はお金を受け取ることもなかった。

 なぜ、あんないい子が一緒にパーティーを組んでいるのか疑問に思ったが理由は色々あるのだろう。

 しばらくすると回復魔法が効いたのかゴブリンに攻撃された痛みは消えた。

「これからは気をつけないといけないな」

 まさか森の手前でゴブリンに遭遇するとは思いもしなかった。実際は逃げてきたゴブリンだが、魔物と遭遇することもあるのだ。

 俺はゴブリンの元へ近づき短剣を引き抜いた。その時もわずかに光の粒子が飛び散っている。

「ゴブリンの魔石は胸の辺りに……」

 俺はそのまま短剣を胸に差し込み、魔石があると思われるところまで短剣で肉を剥いだ。

「ああ、どういうことだ?」

 そこには普段見かける魔石とは違う、輝く魔石がゴブリンの体の中に入っていた。