メジストの錬金術店を後にした俺達は今日もマンドラゴラの狩りに向かった。普段からマンドラゴラを狩っている俺達にとっては遊び相手のようだ。

「今日も遊んで良い?」

「やったー!」

 二人は外套を脱ぎマンドラゴラがいると思われる川の近くに近づいた。

「マン・マン・マンドラ・ゴラゴラ・マンドラ」

「ゴラ・ゴラ・マンドラ・マンマン」

 むしろ本当にロンとニアはマンドラゴラと踊りながら遊んでいる。

「ウェーイ! マン・マン・マンドラ! 今日は川に近づくな(・・・・・・・・・)ゴラ!」

 普段と変わらない光景を見ていると、いつものマンドラゴラと変わらないようだ。

「今なんて言ったの?」

「ウェーイ! マン・マン・マンドラ! 今日は川に近づくな(・・・・・・・・・)ゴラ!」

「にいちゃ! なんかマンさんが何か言っているよ!」

 ロンに呼ばれて近づくと、マンドラゴラはいつもよりノリ良く踊っていた。

 耳を澄ませて聞いてみると、早口で歌っている内容が普段と違っていたのだ。

「ロン、ニアすぐに外套着て逃げろ」

 俺が二人に逃げるように指示した瞬間、川の中から何かが飛び出してきた。

「ギョギョ!」

 特徴的なのはその姿だった。扁平の魚顔に大きな魚眼。首の付け根と背中にはエラやヒレがついていた。

 どこからどう見ても魚の見た目をした二足歩行の半魚人が現れた。

「サハギンだ! すぐに下がれ!」

 俺はすぐに短剣を構えて、遊んでいた二人に近づいた。しかし、サハギンは俺が思ってるよりも動き出しが早かった。

 一瞬で間合いを詰めたサハギンは手に三叉槍(さんさそう)と呼ばれる3つの穂を有する槍を持っていた。

「お前の相手は俺だよ」

 外套を着るのが遅れたロンとニアは視覚認知されたのだろう。標的は確実に二人だった。

 マンドラゴラを呼ぶ予定が、サハギンを呼ぶことになるとは思いもしなかった。

 俺は姿を消していたため、サハギンにバレることなく三叉槍と二人の間に入った。

 急に攻撃が止められたことに驚いているサハギンに俺は鑑定を使った。

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《ステータス》
[名前] サハギン
[種族] 魔物
[能力値] 力C/C 魔力D/E 速度B/B
[スキル] 硬鱗(こうりん)
[状態] 空腹

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 魔物に鑑定を使うと人間同様にステータスを見ることができる。

「こんにゃろー!」

 俺は短剣で槍を弾くと、そのままサハギンの体に短剣を切りつけたが、スキルの影響か全く傷がつかない。

 俺の存在に気づかないサハギンは、とりあえず手を伸ばすと俺の外套を掴んでいた。

「ギョギョギョ!」

 逃げようにもサハギンの力が強く、俺は外套を外した。

「お兄ちゃんをいじめるな!」

 俺はその隙に距離を取ろうとしたが、瞬間にニアがスキル玉【風属性】を使った。

 魔力に依存する属性のスキル玉は魔力Cのニアでも思ったより強い衝撃波が出る。

「ギョギョ!!!!」

 サハギンはニアに飛ばされて怒っていた。硬鱗は斬撃や体技での攻撃よりも、魔法の通りが良いのだろうか。

 どこから飛んできたかわからない衝撃波よりも、サハギンは姿が見えるようになった俺を標的にした。

「こっちだってやられるわけにはいかねーんだよ」

 俺は唯一持ってる属性のスキル玉を取り出した。きっとサハギンには魔法が一番効くはずだ。

「モーリンさん助けてくれよ」

 右手にスキル玉を持つと【雷属性】のスキル玉を発動させた。

『スキル【雷属性】を吸収しました』

 また突如脳内に声が聞こえてきたがそれどころではなかった。実際にスキル玉を検証するつもりだったが実戦で検証するとは思いもしなかった。

「ギョギョ!」

 サハギンは持ち前のスピードで一気に詰め寄った。

「俺も速さには負けないんだよ」

 それでも俺には匠の靴があった。一瞬で詰め寄るのは俺の方が早いのだ。

 俺は足に力を入れるとサハギンの胸元に飛び込んだ。突然俺を見失ったサハギンは驚いていたがもう遅い。

 俺はそのまま短剣をサハギンの胸に突き刺した。雷属性の効果なのか、短剣は柔らかい肉を裂くように押し込んでいく。

「ぎゃあああ!」

 サハギンは叫びながら、体をビクビクと痙攣させてそのまま倒れた。

「にいちゃ大丈夫?」
「お兄ちゃん大丈夫?」

 ロンとニアは俺を心配して走ってきた。あのタイミングでニアのカバーがなかったら未だにどうなっていたのかわからない。

「ああ、初めてでも勝てたぞ!」

「お兄ちゃんすごいね!」
「にいちゃすごい!」

 気の利いた二人を俺は抱きしめた。

 また新たな魔物を倒した俺は、サハギンを倒した喜びを噛み締める。

「ウェーイ! マン・マン・マンドラ! 今日は川に近づくな(・・・・・・・・・)ゴラ!」

 それでもどこかマンドラゴラの言葉が引っかかり、外套を着て川に近づくとそこにはサハギンがたくさん隠れていた。

「これは近づいていたら死んでたかもな」

 匠の外套で俺の存在に気づかないサハギンは川の中で誰かが近寄るのを待っていたのだろう。

 俺達は急いでサハギンの魔石を取り出すと、メジストの錬金術店に帰ることにした。