日差しが出るとともに、ロンとニアは寝ている俺の隣で何か大騒ぎをしていた。

「にいちゃ起きて!」

「お兄ちゃん大変だよ!」

 まだ日も出たばかりで眠い俺は、そのまま抱きかかえて布団に包んだ。

 あれ、何かいつものふさふさ感はなくゴツゴツとしていた。

「お前達いつからこんなゴツゴツに――」

 俺は目を開けると、なぜか靴を抱きかかえて寝ていた。

「なんで靴!?」

「にいちゃ、空からプレゼントが降ってきたよ!」

 俺はロンが何を言っているか分からなかったが、確かに俺は誰のかわからない知らない靴を持っていた。

「これって私達がもらってもいいのかな?」

 既にニアは靴を履いて楽しそうに足踏みをしている。

 俺が証券口座で確認するとルドルフの鍛冶屋の配当が4に変わっていた。きっとこの装備達はルドルフの鍛冶屋からの配当なんだろう。

 それにしても1つしかもらえないと思っていた配当が一気に届くとは思わなかった。

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《良質な外套》
レア度 ★★★★
説明 匠の外套をモチーフに作られた良質な外套。匠シリーズよりは効果は落ちるが所有者関係なく使えるようにしたのが特徴。なるべく安全に探索できるようにと願われたこの外套は持ち主の隠密度を上げる。
持ち主 なし

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《良質な靴》
レア度 ★★★★
説明 匠の靴をモチーフに作られた良質な靴。匠シリーズよりは効果は落ちるが所有者関係なく使えるようにしたのが特徴。どれだけ歩きにくい場所でも安定して安全に動けるように願われた靴。持ち主を幸運に導いたりすると言われており、移動速度、瞬発的な移動が速くなる。
持ち主 なし

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 ルドルフの鍛冶屋はどこかで見ているのか、1つずつじゃなくて2つずつ送ってくれたのは喧嘩しないようにとの配慮だったのだろうか。

「色はこれでよかったかな?」

 外套は全て同じ色だったが、靴は青と赤の二色用意されていた。すでにニアが赤色の靴を履いているため、ロンには青色の靴を履かせる。

「オラはにいちゃと同じ色がよかった」

 朝からロンの可愛さに俺の心は撃ち抜かれている。

「こっちは同じ色だからね」

 そう言ってロンとニアに外套を着させると、たしかに存在感がわかりにくくなっていた。

「あー、えっと……」

「これ着るの嫌だ! お兄ちゃんここだよ!」

 外套を脱いだニアは俺に抱きついて怒っていた。どうやら俺は何もない壁の方に向かって話していたようだ。

「じゃあ、これは森に入る時だけにしようか」

 どうにか二人を納得させると、俺達は今日も森に向かう。

「今日は何するの?」

「まずは装備の確認からしようか」

 確認したかったのは良質な外套と靴の性能だった。鑑定から匠シリーズより効果は落ちると書いてあるが実際にどれくらいなのか確認する必要がある。

 
「お兄ちゃん大丈夫?」

「んー、難しいな」

 良質な靴は何となく歩きやすいと二人は言っていた。自分のサイズに合うだけで、歩きやすさは変わるが、元から素早い二人はさらに足が速くなったと俺から見ても感じた。

 森までの移動時間が短縮されたのがその結果だろう。普段の半分程度で森に着くことができた。

 問題は外套の方だった。まず検証の方法は単純で外套ありなしとフードを被った状態での三回に分けた。

 実際に試すのは俺とニアだ。まずは魔物を集めやすいロンに採取をしてもらい、魔物が出てくるのを待った。

 そして魔物が出てきた瞬間に、ロンには外套を着てもらい、俺とニアが魔物に近づいてどっちに反応するのかを見ていた。

 結果、魔物達はどっちも認識できなかった。フードを脱いでも同様で俺には匠シリーズと同等な気がする。

 ただ、この森自体に下位の魔物しかいないため、存在に気づかないのかもしれない。強い魔物と接触するわけにも行かないし、この二人を危険な目に合わすつもりもない。

「でもにいちゃと一緒だからオラは大丈夫だよ?」

 そして問題なのはロンだった。ロンはスキルの影響か外套を着ていても魔物が寄ってくることがあった。

 多少は外套によってスキルの効果が遮断されているのか数は減るが、フードを外したときは何も着ていないときと比べて変わらない。

 俺としては可愛いロンの顔が外で見えないことが残念だ。

 いつも装備を頼りにしているルドルフの鍛冶屋でも、できないことがあることを改めて知ることとなった。

「ブローチをここにつけたらもっとみんな一緒だね」

「うっ……」

 俺はただ考え事をしていただけなのに、二人に落ち込んでいると勘違いされたのか俺を慰めてくれていた。

 あまりの可愛さに泣いてしまうところだった。

「あはは!」
「にいちゃくすぐったいよー」

 肌に触れる柔らかい毛に癒される。

 落ち込んでいるわけではないが、優しいその気持ちを感じ二人を抱きしめた。抱き返してくれる二人の暖かさに、家族がいなかった俺の心はどこか優しい気持ちで溢れていた。





 依頼から帰った俺達は冒険者ギルドに報告しに行くことにした。

「先に私達はシャワーに浴びて準備しておくわ」

 彼女達も疲れ果てた体を清めて、俺との行為に準備をするらしい。あらから俺が荷物運びをすることになり、流石に悪いと思った彼女達も自身の荷物は自分達で持つことになった。

 それも全て新しく入ったパーティーメンバーのメルロが依頼料しか運ぶ容量が少ないからだ。

 この街へ戻るまでに白金貨数枚分はアイテムボックスに入らないと言われ、通る街で豪遊してきた。

 俺としては十人近くの女性と楽しい夜を過ごせたから、そこは見逃したがウォーレンであればそんなことはなかった。

「メルロさんおかえりなさい」

 冒険者ギルドのリーチェはポーターのメルロに話しかけていた。あのリーチェも冒険者ギルドの職員なのに俺に靡かない女だ。

 あいつ以外の受付嬢はすぐに体を授けたが、あいつだけはガードが硬かった。それは新しいメンバーのメルロも同じだ。

「メルロ、このあとパーティーで飯でも食べないか?」

「私は遠慮しておくわ。では、リーチェさんあとはよろしくね!」

 俺が声をかけたのにあいつは無視するように、冒険者ギルドから出て行った。

 俺はポケットに入れている薬を握りしめた。あいつに飲ませて、今日はパーティーメンバー全員で楽しい夜を過ごそうと思ったが無理そうだ。

「リーチェちゃんはどうだい?」

「私も仕事があるので大丈夫です」

 代わりに受付のリーチェに声をかけたが、彼女にも断られてしまった。

 やはり俺の魅力がわかるやつはあいつらしかない。そう思った俺は宿屋で体を清めて待っているあいつらの元へ帰ることにした。

「ウォーくんをあんな目に遭わせたのに反省していない時点で無理だわ。これでメルロさんのパーティー解除も終わりね」

 次の日、メルロはお金だけ冒険者ギルドに渡して、俺達勇者パーティーから脱退した。