======== この物語はあくまでもフィクションです =========
============== 主な登場人物 ================
大文字伝子((だいもんじでんこ))・・・主人公。翻訳家。EITOアンバサダー。
大文字(高遠)学・・・伝子の、大学翻訳部の3年後輩。伝子の婿養子。小説家。
愛宕寛治・・・伝子の中学の書道部の後輩。丸髷警察署の生活安全課刑事。階級は警部補。
愛宕(白藤)みちる・・・愛宕の妻。巡査部長。
久保田(渡辺)あつこ警視・・・みちるの警察学校の同期。みちるより4つ年上。久保田警部補と結婚した。
久保田誠警部補・・・愛宕の元相棒。警視庁刑事。
橘なぎさ一佐・・・陸自隊員。叔父は副総監と小学校同級生。
金森和子空曹長・・・空自からのEITO出向。
増田はるか3等海尉・・・海自からのEITO出向。
大町恵津子一曹・・・陸自からのEITO出向。
田坂ちえみ一曹・・・陸自からのEITO出向。
馬越友理奈二曹・・・空自からのEITO出向。
浜田なお三曹・・・空自からのEITO出向。
副島はるか・・・伝子の小学校の書道部の先輩。EITO準隊員。
日向さやか(ひなたさやか)一佐・・・伝子の替え玉もつとめる。空自からのEITO出向。
安藤詩三曹・・・海自からのEITO出向。
斉藤理事官・・・EITO司令官。EITO創設者の1人。
新町あかり巡査・・・みちるの後輩。丸髷署勤務。EITOに出向。
結城たまき警部・・・警視庁捜査一課の刑事。EITOに出向。
物部一朗太・・・伝子の大学の翻訳部の副部長。故人となった蘇我義経の親友。
依田俊介・・・伝子の大学の翻訳部の後輩。高遠学と同学年。あだ名は「ヨーダ」。名付けたのは伝子。宅配便ドライバーだったが、やすらぎほのかホテル東京社長秘書だった慶子と結婚。やすらぎほのかホテル東京支配人となる。
福本英二・・・伝子の大学の翻訳部の後輩。高遠学と同学年。大学は中退して演劇の道に進む。
南原龍之介・・・伝子の高校のコーラス部の後輩。高校の国語教師。
江南(えなみ)美由紀警部補・・・元警察犬チーム班長
飯星満里奈・・・元陸自看護官。プロレス技が得意。
稲森花純一曹・・・海自からの出向。投げ縄を得意とする。
青山たかし・・・久保田警部補の後任で愛宕の上司だったが、警察を退職後に、EITOに就職。
筒井隆昭・・・伝子の大学時代の同級生。伝子と一時付き合っていた。警視庁副総監直属の警部。警視庁からEITO出向。
草薙あきら・・・EITOの警察官チーム。特別事務官。ホワイトハッカーの異名を持つ。
河野事務官・・・EITOの警視庁担当事務官。
筒井隆昭・・・伝子の大学時代の同級生。伝子と一時付き合っていた。警視庁副総監直属の警部。EITOに出向。
久保田嘉三管理官・・・警視庁管理官。久保田警部補の叔父。
橋爪警部補・・・島之内署、高速エリア署を経て、丸髷署に。生活安全課所属。愛宕の相棒。
本田幸之助・・・福本の元劇団仲間。
みゆき出版社編集長山村・・・伝子と高遠が原稿を収めている、出版社の編集長。
藤井康子・・・伝子マンションの隣に住む。元料理教室経営者。
大文字綾子・・・伝子の母。介護士をしている。

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==EITOとは、Emergency Information Against Terrorism Organizationを指す==
==エマージェンシーガールズとは、女性だけのEITO本部の精鋭部隊である。==

午後1時。伝子のマンション。
PCルームにスマホからの大きな笑い声がこだました。
「そりゃあ、慣れてなきゃ、びっくり、だよな。」と物部が笑いながら言い、「おねえさま。殺さないで下さい、って敵の方がびっくりだよ。」と、依田が言った。
「そんなこと言ったって、誰から聞いたの?」福本が尋ねると、「警視。殺さないでって言ったのは、みちるちゃん。」高遠は応えた。
「それで、飯星さんは病気だと思った訳だ。」と福本が言った。
「前に、池上先生に相談したことがあるんだ。そしたら、一時的なものだから、放っとけばいい、て。無意識に手加減している筈だって。ホントに殺意あるなら、大抵は何らかの武器持つだろう?あれはきっと、自分を鼓舞しているんだよ。」
高遠の言葉に、「でもなあ、高遠。大学の部室で、俺がそのキーワード言った時、本当に殺意を感じたぞ。おまえたちが止めてくれていなかったら、俺はとっくに昇天していた。」物部が笑いながら、言った。
「子供の頃からかな?」と福本が言うと、「お義母さんに聞いたよ。ガキ大将3人倒して、みんな病院送り。全治3ヶ月、だったって。」と高遠は応えた。
「そう言えば、大文字、今日はいないのか?」「ホバーバイクの訓練に行ってますよ。」
「先輩なら、1時間もあれば充分使いこなせるでしょ。」と、依田がまた2人の会話に割り込んだ。
「いけない。もう休憩終わりだ。じゃ、またな。」
依田は、今はホテルの支配人だ。いつしか依田の休憩時間に合わせるようになっていた。
「敵がどんどん現れて、EITOもどんどん変わっていくなあ。」
Linenの集合会議は終った。
午後3時。高遠は夢を見ていた。
その夢とは・・・。
「エマージェンシーガール1号!」「エマージェンシーガール2号!」「エマージェンシーガール3号!」「エマージェンシーガール4号!」「エマージェンシーガール5号!」
「5人揃って、EITOガールズ!!」
「1号!フライングニーアタックだ!!」となぎさが叫ぶ。
「オッケー!」伝子が10メートル離れた所まで走って止まる。なぎさとあかりが2メートル離れた所まで移動する。
あつことみちるは両腕をクロスする。なぎさとあかりが、同じように手をクロスして、しゃがむ。
伝子は、なぎさとあかりが作った手を踏み、ジャンプして(ワン!)、あつことみちるの作った手を、更にジャンプする(ツー!)。そして、敵の両肩に正座スタイルでジャンプ、座る。(スリー!!)
敵は、仰向けになったまま、泡を吹いた。
・・・。
PCの前で高遠が、うたた寝していると、伝子に揺り動かされた。
「学、大丈夫か?」寝ぼけながら、高遠は夢を説明した。
側で爆笑する男が二人。筒井と青山だった。
「ばーか。」伝子は、着替えに寝室に消えた。
「それ、小説のネタか?もう一人増やせばピラミッド出来るぞ。」と筒井がからかい、「それじゃあ、組み体操でしょう。」と、青山が続けた。
高遠は、照れながら、洗面所に向かった。
寝室から洗面所に移動した伝子が何か囁いている。
「お邪魔だったかな?」「帰りますか?」2人が言っていると、「帰らなくていいよ。」と伝子がやって来た。
「不可能な技ではないが、やはり、『ボンバーキック』だろう。そう言ってたんだ。」
「呆れた夫婦だ。」と筒井が言い、「全く。」と、青山が同調した。
高遠がリビングに煎餅とコーヒー、紅茶、お茶を運ぶと、筒井が言った。
「やはり、大文字は並外れている。もうホバーバイクの運転はマスターした。」
「そうなんですか。でも、2台しか無いのでは?」「俺は遊軍だからな。いつでも乗れる訳じゃないから。」高遠の質問に筒井が端的に答えた。
高遠のスマホが鳴った。出ると、福本だった。「先輩、帰ってる?」「うん、いるよ。」
高遠はスピーカーをオンにした。「先輩、僕の劇団一緒にやってる本田の事、覚えてます?」「ああ。勿論。何度も手伝って貰っているからな。どうかしたのか、本田君。」
「実は、本田の知り合いにも『シンキチ』がいるんです。で、最近尾行されているような気がしてならない、って本田に相談してきたんです。」
「愛宕に聞いたけど、年末年始以外は、そういう相談は続いているらしいそうだ。でも、警察は『起こった事件』にしか対処出来ないし、どこの生活安全課でも、聞くだけ聞くってスタンスらしい。」
「それで、僕が松下の件を話したんです。あの時も、下手をしたら知らぬ間に殺されていたかも知れないじゃないですか。」「確かに。学。今までに関係していた『シンキチ』は何人だ?」「32人。」「流出したデータの『シンキチ』の内、東京のシンキチは50人だから、あと18人。それでも、全部を守り切れないかも知れない。何しろ、どういう事件が起こるか分からないからな。」
2人の会話を中断させたのは、青山だった。「どうも、福本君。元丸髷署生活安全課の、元青山です。僕は、一旦退官してEITOの民間採用なので、青山でいいですよ。その本田君の知り合いがお名前カードをいつ作ったかを先ず確認して下さい。もし、お名前カードを作っていなかったら、一応体対象外です。情報漏洩でもね。それでも、私で良ければ、張り込みしますよ。怪しい人物がいたら、逆に尾行しますよ。」
「ホントですか?そりゃあ助かる。連絡とってみます。」福本の電話は切れた。
「念の為に、中津興信所にも依頼したら、どうだ。大文字。もうEITOの案件なら、彼らは調査費用を負担する必要は無い。」と、筒井は言い、「そうだな。お前、たまには、いいこと言うな。」と伝子が続けた。
「たまには?・・・情けない。」と、筒井は肩を落とした。
伝子が電話している間に、高遠は「照れ隠しですから。」と、小声でフォローした。
電話を切った伝子は、「喜んでー、だって。居酒屋かよ。」と笑った。
その後、雑談していたが、筒井と青山は午後4時には帰って行った。
午後4時半。チャイムが鳴ったので、高遠が出ると、編集長だった。
「ねえ、聞いて聞いて。」編集長は、入って来るなり、言った。
「あら、このイケメン。初対面ね。」と青山に言った。
「僕も初対面じゃなかったかな?」と筒井が言うと、「編集長はメンクイなんですよ、筒井さん。」と高遠が応えた。
「メ、メンクイってか。」と力む筒井に、「そう向きになるなよ、筒井。編集長、大変は何です?」
「それがねえ、大文字くぅん。『シンキチ』のリストはないかって、問い合わせが我が社にも時々来るようになったのよ。機密事項だから警察は漏れたシンキチ情報を発表しないらしい、って、やんわり断るんだけど。」
「前に週刊誌に書かれたことあるけど、敵側からわざとリークした情報ですからね。はっきり分かると生活しにくくなると思います。」と高遠は言った。
「折角のお名前カードなのに、使いにくくなる。魔女狩りだな。あ。青山です。今度EITOに入りました。お噂はかねがね。」と青山が言うと、「お噂?」「いつも陰ながらDDやEITOを応援して頂いているんですよね。」
「ん?まあね。」と、編集長は、まんざらでもない顔で言った。
「詳しい事は警察に聞け!って言ってかわす以外ないね。久保田管理官なら、うまく誤魔化すだろうな。」
「そういうこと。一応、理事官にも編集長が困っていることは伝えておくよ。」と、伝子が言い、「頼むわね、これ、マスターに渡しといて。ギャラ。」と編集長は封筒を差し出した。「了解しました。」と高遠は受け取った。
編集長が帰った後、筒井が「何、それ?」と高遠に言った。
「税務署にチクらないで下さいよ。ネットの煎餅はね、共同経営なんですよ。」「へえ。」と、筒井は感心した。
午後6時。福本から伝子に電話があった。
「先輩。明日、本田に青山さんを紹介します。その、本田の知り合いの戸川さんも連れて来るそうです。」
「分かった。じゃ任せたぞ、福本。」伝子は電話を切った。
翌日。午後1時。ある喫茶店。
福本と青山が行くと、本田と、その知り合いが来ていた。
2人が着席してオーダーを済ませた後、本田は当該人物を紹介した。
「福本。青山さん。紹介します。戸川しんきちさんです。」2人が唖然としていると、「初めまして。戸川しんきちです。歯科衛生士です。」と彼女は、自己紹介した。
「本田。狙われているのは『シンキチ』という男性だぞ。この方は、どう見ても女性じゃないか。」福本が憤慨して言うと、「いやいや。福本君。偏見はよくないよ。丸髷署にも女装男子の方がいらしたことがある。そうですよね、戸川さん。」と青山がフォローした。
「いえ。女性です、私。」そう言うと、戸川は運転免許証とお名前カードを出した。
「住民票も必要ですか?」戸川は真顔で言った。
「えーっと、どういうこと?本田。」と福本は本田に尋ねた。
「彼女の場合、『女性らしくない名前』に過ぎないんだ。1分ほど考え込んでいた青山だが、「そうか。名付けた人のエゴだね?男の子の名前しか用意していなかった。いざ産まれると女の子だった。でも、区役所には用意していた名前で出生届を出した。随分ご苦労されたことでしょう。」と戸川に確認した。
「ええ。運転免許証自体、とる時に大騒ぎ。融通の利かない教官でしてね。大学の教授が間に入ってくれて、区役所区長の確認書を作って貰い、教習所所長に掛け合ってくれました。名前の由来は、両親が慌てて間違えて手続きした、ということにして。」
「職質とか、交通規制の時の確認でも、不便がありましたか?」「はい。『偽造』でないことを確認されました。最近は、あまり不便はしていません。先ほど言われた女装男子の市民権的な風潮のお陰で。本当は女性ですが、そういう目で納得されているようです。」
「元警察官として、代表で失礼を謝罪します。ごめんなさい。」
青山の態度に、彼女はケラケラ笑い出した。
「真面目で、正直で、面白い方。そして、常識がある方。お目にかかれて光栄です。あなたのような方にパートナーになって頂きたいわ。」
「えとー、今日ってお見合いの日だっけ?」と言う本田に、お前がちゃんと話してくれてなかったから、おかしくなったんじゃないか。」と福本が言った。
「いや、実は僕も女装男子だと思ってた。差別になるといけないから、って、特に聞いていなかった。」と、本田が弁明した。
「それで、本田経由で聞いたけど、戸川さんがお名前カードを作ったのは、情報漏洩が発覚する前のことなんですね。」と福本が確認した。
「はい。女だと、女性だと対象外でしょうか?青山さん。」と戸川は青山に確認した。
「福本君。僕から大文字さんに確認してみるよ。」そう言って、青山は席を外した。
「常識的には、『シンキチ』は男だからなあ。」と、福本は腕組みをして考え込んだ。いや、考える振りをした。どの道、伝子次第なのだから。
青山が、程なく戻って来た。「対象内だって。確かに、です・パイロットは『シンキチ』に恨みを持っている。シンキチという人物の人生を奪おうとしている。が、枝である使い魔や、葉っぱである使い魔の手下に『シンキチ』を狙う動機や目標がちゃんと伝わっているだろうか?お名前カードには、勿論性別は書かれている、性別データはある。差別に繋がるとか騒ぐ輩もいたが、飽くまでも戸籍上の性別だ。その性別が『男性』という条件で、です・パイロットが指令を出していると断定する根拠がない。だから、尾行されているなどの不安要素があれば、守るべきだ。万一、ストーカーであっても同じだ。警察には未然に防げないのだから、任せる。これが、アンバサダーというよりエーアイの見解です。」
一気に言った青山に、本田と戸川が尋ねた。「エーアイってスーパーコンピュータ?」
「人間です。」と、青山が応えた。
午後3時。伝子のマンション。
伝子のスマホに福本から電話がかかった。「先輩。青山さんが配置につきました。愛宕さんにも頼んでくれたんすか?さっき、交替要員で入るって連絡がありましたけど。」
「うん。頼んでおいたよ、署長にね。みちるも交替要員に入ると言っている。本当に対象内だったら、一人の命が助かる。テロを未然に防げる。」
「それと、エーアイって、先輩と高遠のことだって、青山さんが言ってたけど、本当っすか。」「ああ。理事官が命名したんだ、アンダーインテリジェンスだって。時々記者会見で言っているエーアイは、私たち夫婦のことらしい。名誉ある言葉だな。進捗を報せてくれ。」「イエッス。マム!!」「ばあか。」
高遠と伝子は顔を見合わせ笑った。
午後7時。みちるから、伝子のスマホに電話があった。
「おねえさま。今、青山さんと交替しました。午前0時に、青山さんと寛治に交替します。」(寛治?ああ、愛宕の名前だった。)
「分かった。24時間、異常なしなら、一旦止めて対策を練り直そう。」「了解しました。」
電話を切ると、伝子は高遠に「実は、南原に頼んでおいた。あいつは隠し撮りも上手いからな。戸川さんのアパートの近くに、丁度使われていない下水処理場がある。文子さんのアイディアで、年に数回塾の教え子を連れて『社会見学』をやっているらしい。塾も少子化の為過当競争らしい。それで、時期と場所を変更して貰ったんだ。EITOから、役所の許可も取った。」
「成程。尾行や見張りをする者があれば、こちらの張り込みは、却って用心させることにもなりかねない。流石、伝子。愛する妻だ。」「褒めるなよ。今夜は寝かさないからな。」「他の表現ないの?」
翌日。午後3時。みちる達は、引き上げた。
午後3時10分。南原夫妻は、塾の生徒達を連れて、戸川のアパートの近くを通り過ぎ、旧下水処理場に向かった。
やはり、いた。張り込みが無くなったので、安心してアパートの方の様子を伺っている。
南原は、それとなく撮影をした。
午後4時。やはり、いた。南原は再び撮影をして、伝子に送った。
午後4相半。EITOベースゼロ。
菅沼重鎖部長が声を上げた。「理事官。マトリのデータベースに、写真の当該人物がいました。」
河野事務官も声を上げた。「公安と消防の連携データベースにもヒットしました。」
資料を読んだ理事官は、「よく今まで捕まらなかったな。本格的に追い詰めるか。」と、言ったが、沖三層が、「当該場所付近で火災発生。消防も出動したが、MAITOも出動しました。」と、叫んだ。
「陽動か?一佐。EITOも出動しろ。草薙。」理事官が言うより早く、草薙が伝子のマンションに繋いだ。
「大文字君。例の戸川さんのアパート近くに火災が発生。陽動かも知れん。すぐにオスプレイを向かわせる。現場に直接急行してくれ。」理事官の言葉に即刻「了解しました。」と伝子は返事をした。
午後5時半。現場に戻った青山を見かけた伝子は、青山に尋ねた。「アパートから出ないように、と電話をしたら、出ないんです。」
青山の報告に、伝子は臍をかんだ。先を越されてしまったか。火災現場の監視をなぎさ達に任せて、伝子は青山と戸川のアパートに急いだ。今頃になって、アパートの住人達が何事かと、出てきた。
青山を部屋に行かせて、伝子は野次馬の住民に尋ねてみた。「戸川さんなら、さっき消防士さんと出て走って行ったわ。何か変だなとは思ったけど、知り合いか何かと思った。」伝子は、その住民に写真を見せて確認した。「似てるわ。消防士さんに。」
青山が引き返して来て、首を振った。
愛宕と橋爪警部補がやって来た。「橋爪さん、戸川さんのアパートを鑑識に調べて貰って。誘拐されたかも知れない。」「了解しました。」
午後7時。EITOベースゼロ。
「テレビAを通じて、EITOに犯人から招待状が来たよ。戸川しんきちの女を預かった。明日午後1時。戸川しんきちを連れて、エマージェンシーガールズ全員で、こだま山中腹の、旧バンガロー村に来い。以上だ。」
理事官の言葉に、「戸川さんを誘拐に行ったら、彼女がいたので、『戸川しんきちの彼女』と思い込んだ訳ですか。」と、伝子は言った。
「その通りだ。今日は一旦解散。明日に備えろ。」理事官は、苦虫を潰した顔になった。
翌日。午後1時。旧バンガロー村。
バンガローが点在する手前に大きな駐車場があり、そのすぐ帳にテニスコート跡がある。その一角に、戸川は椅子に座らされ、両手を後ろ手にロープで縛られている。
エマージェンシーガールズが到着した。
その隣にいる那珂国人の男が何か怒鳴った。
すると、バンガローから続々と那珂国人の一団が出てきた。
伝子が、『戸川しんきちの代わり』の青山を連れて一歩前に出た。青山は、みちるがレンタル衣装屋に用意させた、歯科衛生士の白衣を着ている。
青山と戸川が中央に出て、入れ替わった。男が青山にロープをかけ、座らせた直後、本物の戸川しんきちが伝子の背後に回り、ナイフを突き立てた。
「どういうことかな?」と伝子は戸川に尋ねた。「この瞬間を待っていたのよ。私が使い魔よ。」
「詰まり、被害者であり、加害者である、というパターンか。もう学習済みだ。」
「何?」「横の繋がりは、あまりないのか。やはりな。」「やっておしまい。」
男が何やら怒鳴ると、一団の男達は、次々とエマージェンシーガールズにロープをかけた。伝子は隙を突いて、DDバッジを押した。
オスプレイが現れ、人が降ってきた。金森である。金森はスカイダイビングをしながら、ブーメランを戸川のナイフ目がけて投げた。
ナイフが地面に叩きつけられ、折れた。伝子は戸川を突き飛ばし、エマージェンシーガールズの方に走った。パラシュートを駆使して降りた金森は、命令していた男を殴り飛ばし、青山のロープをシューターで切った。シューターとは、EITOが開発した武器で、うろこ形の手裏剣である。先端にはしびれ薬が塗ってある。通常は縦に投げつけるが、横に持ち替えると、ナイフ代わりになる。金森は青山の、伝子はエマージェンシーガールズのロープをシューターで切って解いた。
エマージェンシーガールズは本格的に闘いに入った。そこへ、ホバーバイクが2台飛んできて、エマージェンシーガールズを後方支援した。今日は夏目警視正と筒井が乗っている。
100人いた敵は30分もすれば倒せた。幸い、彼らは銃や機関銃を持っていなかった。持っていたのは、ナイフと棍棒だけだった。
伝子は、戸川を平手打ちした。伝子の合図で、警官隊がなだれ込んで来た。「言い訳は警察で言ってくれ。」
「危ない!」命令していた男が戸川を庇って飛びつき、吹き矢のような小さい矢が、戸川の腕に刺さっていた。
矢が飛んできた方向に、筒井がホバーバイクで追いかけたが、すぐに引き返し、なぎさに首を振った。
伝子に抱き起こされた男は、一枚の紙片を伝子に握らせた。
「こういうシーン。前に映画で観たよ。日本の文化は何もかも素晴らしい。俺は那珂国人だが、帰化して良かったと思っている。だが、本国の命令には逆らえない。戸川は巻き込まれただけだ。たまたま、『シンキチ』という名前だったから、使い魔に仕立て上げられた。俺と付き合ったばっかりにな。日本には、EITOには、大文字伝子という、強い女がいる。幹を越え、枝を越えて話は伝わっていた。死の商人の幹全体を制覇した、伝説の女。今、俺の目の前にいるのが、あんたがそうか。この毒は30分以内に体中に回る。どんな毒かは知らないが、元々は薬用に研究されたものらしい。戸川を、俺の第二の故郷を守ってくれ。お前なら出来る。今、確信した。」
男は、ぐったりとなった。救急用具を持った、井関と飯星が近寄って来たが、伝子は首を横に振った。
戸川を警官隊に引き渡そうとする結城に、伝子は、「最後を看取らせてやってくれ。」と言った。
戸川は思い出話を、男に語っていた。です・パイロットに見いだされ、利用され続けたようだった。やがて、男は息を引き取った。飯星が脈を確認し、首を横に振った。
皆、涙を流しながら、静かに合掌をした。
翌日。午前9時。警視庁。副総監と理事官が並んで立っている。
伝子達が、です・パイロットの手先と闘っていた頃、警察官発砲事件が起こっていた。犯人は、指名手配犯で通行人を撥ねて、クルマで逃走。警察官の制止を振り切って逃げようとした。追跡する警察官二人はやむを得ず発砲し、犯人は重傷を負った。理事官は、あまりにマスコミが発砲した警察官を責めるので、義憤にかられて、EITOの事件の記者会見を合同という名目でねじ込んだ。
理事官は言った。「警察官も人の子だ。家族もいる。一般家庭では家族だけ守ればいい。だが、警察官は一般家庭の家族も、自分の家族も同時進行で守らなければならない。コンビニは、一部を除いて1日24時間365日営業の営業時間。でも、勤務時間は同じではない。警察官は食事も採れば休憩も休暇もある。でも、1日24時間365日拘束なんだ。必要とあれば、自分の家族をおいて飛び出す。自分の時間も家族の時間も犠牲にする。それでも、理想を押し付けたいか。危険が迫っても発砲するのは暴力だとか戦争行為だと叫ぶのか。君たちの意見こそ暴力じゃないのか?責任を問うのなら、総指揮者である私に言え。ここまでが、警視総監の意見です。」
理事官は、水を飲み、話を続けた。
「続いて、EITOの扱った事件です。簡略に申し上げる。犯人達は逮捕連行しました。残念ながら、『使い魔』は『別の使い魔』によって殺害されました。機密条項の為、詳細は申し上げられないが、『シンキチ』さんは無事です。我々EITOも命がけで闘っています。全ての人間、全ての『シンキチ』さんを守るのは極めて困難です。それでも、家族との時間を犠牲にして闘っています。警察を、自衛隊を、EITOを信じて下さい。この通りだ。」理事官は泣きながら、壇上から深く頭を下げた。
記者達は沈黙をした。
同じ頃。伝子のマンション。
「これで、少しはおとなしくなるかな?」と、高遠が言うと、「一瞬だな。昼からみんなが集まるからな。寿司とったのか?」と、伝子は応えた。
「今回はピザとハンバーガー。」
「あら、おいしそうね。」いつの間にか、綾子が立っていた。
「学。ゴキブリスプレー持って来い!」「ゴキブリ?あんた、私は母親よ。」「私は、その娘だ。」
二人の、なかなか終らない口論を、入り口のドアの所で、高遠と、隣の藤井はじっと眺めていた。
―完―