======== この物語はあくまでもフィクションです =========
 ============== 主な登場人物 ================
 大文字伝子(だいもんじでんこ)・・・主人公。翻訳家。DDリーダー。EITOではアンバサダーまたは行動隊長と呼ばれている。。
 大文字[高遠]学・・・伝子の、大学翻訳部の3年後輩。伝子の婿養子。小説家。EITOのアナザー・インテリジェンスと呼ばれている。
 久保田嘉三・・・誠の叔父。警視庁管理官。交渉案件があれば「交渉人」の仕事もする。EITO初代指揮官。

 藤井康子・・・伝子のマンションの仕切り隣の住人。モールに料理教室を出している。EITO準隊員。
 大文字綾子・・・伝子の母。介護士。

 池上葉子・・・池上病院院長。
 真中志津子・・・池上病院総看護師長。
 物部一朗太・・・喫茶店アテロゴのマスター。伝子の同級生。大学翻訳部の副部長。
 高遠達には、今でも「副部長」と呼ばれている。

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 ==EITOとは、Emergency Information Against Terrorism Organizationを指す==
 ==エマージェンシーガールズとは、女性だけのEITO本部の精鋭部隊である。==

 ※医薬分業
 医薬分業とは、薬の処方と調剤を分離し、それぞれを医師、薬剤師という専門家が分担して行うことを意味しています。
 ヨーロッパでは800年近い歴史があり、神聖ローマ帝国のフリードリヒⅡ世(1194~1250年)が毒殺を怖れて、主治医の処方した薬を別の者にチェックさせたのが始まりと伝えられています。
 1240年には5ヵ条の法律(薬剤師大憲章)を定め、医師が薬局をもつことを禁じました。これが医薬分業と薬剤師制度のルーツとされています。
 薬剤師は医薬分業と切っても切り離せない職業なのです。
 明治に入ってから取り入れられた『医薬分業』の考え方に基づき、医薬分業は、厚生省(当時)が37のモデル国立病院に対して完全分業(院外処方箋受取率70%以上)を指示した1997年以降、急速に進み、2003年に初めて全国の処方箋受付率が50%を超えました。
 2020年には処方箋受取率は75%を突破し、処方箋発行枚数は8億枚を超えています。

 3月31日。午前9時。伝子のマンション。
 珍しく、久保田管理官が来ていた。
 藤井と綾子は、出勤前だったが、久保田管理官に気遣って、出掛けずにいた。
 久保田管理官は、久保田警部補の叔父で、伝子をEITOに登用した人だった。
 偶然、大文字家と関わっていた藤井を特別隊員にしたのも、久保田管理官だった。
 「グレート・グリフォンの言った『少年バイク事故』だが、昔、そう、昭和59年のことだった。夜を徹してバイクで爆走する若者、所謂暴走族の騒音に周辺住民は悩まされていた。トラブルの渦中にあった公園で事件は起きた。ある夜、疾駆してきた若者のバイクは吹き飛ばされた。夜道で分かり辛かったが、黒いロープが張られていたんだ。首を引っかけて転倒して、即死だった。当時、亀有署は何者かがロープを張ったとみて往来妨害致死容疑で捜査を始めたが、迷宮入りだった。今回、彼が死ぬ間際に告白したことで明らかになった。せいぜい怪我をする程度だと思っていたのだが、大事故になってしまった。」
 「管理官。グレート・グリフォンは、寺の坊さんだったということは、周辺住民が庇ったんじゃないんですか?彼は義憤でと言っていたから、周辺住民に慕われていたんでしょう。」
 「流石は、大文字君だ。当時、幾ら聞き込みをしても成果が上がらなかった訳だ。捜査機密だが、ロープは指紋が着いていなかった。また、110番したのは、後から来た仲間だった。目撃者ゼロなのは、深夜だったからという結論になったが、事故の大きな音は聞いた者がいてもおかしくなかった。」
 コーヒーを出した高遠が、「寺と幼稚園は、一時芦屋グループが面倒を見るらしいですね。そして、大上の『社会奉仕』が始まる。」と言った。
 「ダークレインボウは憎いテロリスト団体だけど、『幹』は、可哀想な人が多いんですね。つけ込まれて仲間にされて。」と、綾子がぽつりと言った。
 「そうだ。映画やテレビのような、『根っからの悪党』は少ない。『幹』が日本人ならな。民族性、かな?」と、珍しく伝子が同調した。
 「向こうの人間は、日本人のような『自己犠牲』の精神なんてないんだわ。」と、藤井も言った。
 「さて、あまり長居も出来ない。お邪魔しました。高遠君、ごちそうさま。」
 「管理官、いい人を推薦してくれました。活躍してくれている柊ですが、お寺と関係ありますか?」「ああ。川崎観音の近くの、小さな寺の娘だ。それが何か?」
 「あの時、数珠を大上に差し出したので、ひょっとしたら、と思って。」
 久保田管理官は頷き、出て行った。
 「じゃ、私も出掛けるわ。」と、綾子が言い、「料理教室の仕込みをしなくちゃ。お邪魔様。」と言って、藤井が言い、2人は出て行った。
 コーヒーカップを片づけていた高遠に、「今夜、おさむに会いに行くか。」と言う伝子は言った。
 高遠が振り返ると、「会い」の前の「愛」の準備が出来ているのを見た。
 午後1時。モール。喫茶店アテロゴ。
 「珍しいな。筒井。休暇か?」
 「ああ。」筒井は、先日の闘いについて話した。
 物部は同級生だ。店員も仲間も同然だ。他の客がいれば、自粛するが、今は幸い誰もいない。
 「成程な。ジジイも成仏出来るな。」
 「さっき本庁に行って来たんだが、アクアラング集団は、一部が那珂国人で、他は闇バイトの学生だった。条件は水泳が出来る事、で、高給だ。飛びつくさ。しかし、集団の万バーが2種類だっただけじゃ無かった。一方の日本人闇バイトの方は那珂国産の耐久時間が短い不良品、もう一方の那珂国人傭兵は日本産の『丈夫な製品』、兵隊が『使い捨て』なのは同じだが、露骨な差だ。まあ、仕方が無いか。乗る『受け子』も特殊詐欺同様、何も罪の意識が無いのかも知れない。ところで、前の『幹』がまだいるのに、割り込んで来たから『せっかち』だ思っていたが、案外狡猾かも知れない。パラ・リヴァイアサンと名乗っていた連中もプロを予寄越して来た。助っ人がプロだから助かったよ。連中は、どさくさでジジイを暗殺しようとしていた。それと、同じ時期に発生した大阪の、いや、大阪支部の案件も、敵の1人がナイフガンナイフを持っていたらしいから、そっちもダークレインボウの組織の一部かも知れない。」
 客がパラパラ入って来た。
 「今日は、休暇か?」
 「ああ。カミさん孝行だ。で、頼みがある。」
 「何だ?」「『お見送り』を頼む。カミさんは、階級も上だし、逆らえないんだ。」
 物部は笑いながら、「引き受けた。たっぷり可愛がって貰ってきてくれ。」と言った。

 午後11時。池上病院。
 伝子と高遠を送ってきた物部。伝子が降りた後、物部はそっと高遠に尋ねた。
 「バトルがあったのか?」「はい。愛のバトルが。」
 「お大事に。」と笑って、降りた高遠に物部は手を振った。
 午後11時半。池上家。
 大文字夫妻の息子おさむは、いつ敵の『魔の手』が迫るかも知れないので、ここ池上病院の隣の、院長の家に匿って貰っている。
 大文字夫妻も、送迎無しには来られない。
 総看護師長の真中志津子は、「順調に育っているわ。2人に似て、賢そうね。」と高遠に言った。
 授乳している伝子を横目に見て、「いつもお世話になりっぱなしで済みません。」と高遠は言った。
 「何言ってるの、高遠君。彰が亡くなってから、あなたが息子代わり。幾らでも甘えなさい。料金払っているんだから遠慮しなくていいのよ。」と、後からやってきた池上院長が言った。
 院長の息子彰は、高遠の中学の卓球部後輩で、よくコーチに来ていた。
 しかし、彰は交通事故で亡くなった。
 幸い、犯人はすぐ捕まった。
 院長は、息子の死を悲しむより、仕事に専念することを選んだ。
 通夜や告別式の日も、病院に顔を出した。
 当時の副院長を信頼していなかった訳では無かった。
 皆、心中を察して何も言わず、通常勤務をした。通夜と告別式は、シフトで調整した。
 高遠は、可能な限り、池上家に協力した。
 池上院長は、今でも大文字家を応援しているが、EITOの協力者でもあり、宮田准教授誘拐事件以降、統一された医療ネットワークを樹立した。
 池上家は江戸時代以降、代々、日本の医療の為に貢献してきた。長い間、病院の近くで「薬屋」も併設されていた。だが、『医薬分業』の考え方が進み、明治時代に病院から薬局は切り離され、別経営になった。池上葉子の先々代院長も世間に習った。
 先代院長、つまり、葉子の母が存命の頃に、池上葉子はアメリカで研修、NASAの研究所にも在籍していた。葉子は、病院を『チェーン化』せず、提携制を取った。
 本庄病院は、提携病院である。医療ネットワークは『医は仁術』という、江戸時代の中津藩藩医,大江雲澤の言葉を重んじる、医師の家系が池上家であり,葉子の考え方である。その為に、流行病コロニーが発生流行あいた時の医療界の混乱を2度と起こさない為の医療ネットワークだった。
 伝子と高遠は、朝、筒井が迎えに来るまで、池上家で「親子3人で」眠った。
 翌日。午前7時。大阪市南港。
 沢山の密航者が外国製の船で現れた。
 その存在は、まだ闇サイトハンターこと山並も知らないことだった。
 だが、海上保安庁と大阪府警四課では、察知していた。
 密航者の集団のボスは、反社の会長と握手した。
 以前から「業務提携」していたのだ。
 朝霧の中、沢山のジープやトラックが移動して行った。
 事件が起こったのは、翌々日のことだった。
 ―完―