＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝ この物語はあくまでもフィクションです ＝＝＝＝＝＝＝＝＝
============== 主な登場人物 ================
大文字伝子・・・主人公。翻訳家。DDリーダー。EITOではアンバサダーまたは行動隊長と呼ばれている。。
大文字（高遠）学・・・伝子の、大学翻訳部の3年後輩。伝子の婿養子。小説家。EITOのアナザー・インテリジェンスと呼ばれている。
斉藤理事官・・・EITO創設者で、司令官。
一ノ瀬（橘）なぎさ一等陸佐・・・ある事件をきっかけにEITOに参加。伝子を「おねえさま」と呼んでいる。皆には「一佐」と呼ばれている。
久保田（渡辺）あつこ警視・・・ある事件をきっかけにEITOに参加。伝子を「おねえさま」と呼んでいる。皆には「警視」と呼ばれている。
草薙あきら・・・警察庁情報課からのEITO出向。民間登用。ホワイトハッカー。
増田はるか三等海尉・・・海自からのEITO出向。
結城たまき警部・・・警視庁捜査一課からのEITO出向。
飯星満里奈・・・元陸自看護官。EITO準隊員。
馬越友理奈二曹・・・空自からのEITO出向。
久保田管理官・・・EITO前指揮官。あつこと結婚した久保田警部補の叔父。
夏目警視正・・・警視庁副総監の直属。斉藤理事官（司令官）の代理。
一ノ瀬欣之助・・・一ノ瀬孝一佐の父親。なぎさの舅。
一ノ瀬悦子・・・一ノ瀬一佐の母親。なぎさの姑。
井関権蔵・・・警視庁鑑識課課長。久保田刑事の先輩。
井関五郎・・・鑑識の井関の息子。EITOの爆発物処理担当。
野口元総理・・・政権交代時の違憲異種党総理。
外山元総理・・・政権交代時の違憲異種党総理。
阿寒元総理・・・政権交代時の違憲異種党総理。
市橋早苗総理・・・移民党の、現総理。
==EITOとは、Emergency Information Against Terrorism Organizationを指す==
==エマージェンシーガールズとは、女性だけのEITO本部の精鋭部隊である。==
午前１０時。EITO秘密基地。
「何故、東日本大震災の日に事件を起こすだろうと分かっているのに、それまでの日に警戒しなければならないか？というのが、警視庁の見方だ。」
EITOシェルターと久保田管理官の部屋がマルチディスプレイに映っていて、久保田管理官が発言した。
「勿論、警戒は必要だが、何か根拠があるのかね？高遠君。」理事官が高遠に尋ねた。
「根拠はありません。ただ、忍者の銀行強盗事件、私の家にボヤ。3月13日では、時間が空きすぎている。今まで、敵の攻撃が1週間空いた前例はありません。例えば、『小手調べ』的なものかも知れません。井関さんに言わせればこの前の強盗事件も『手際が良すぎる』事件でした。まだ、何らかの事件が多発するかも知れない。まだ、敵の攻撃パターンが分からないからこそ、警戒すべきです。」
「具体的に、どこを警戒すればいいのかね？」と、理事官が言った。
「草薙さんによれば、東日本大震災の責任者は、政権交代した時点で『お役御免』になっているけれど、被災者の親族で、許せないと思っている人達の運動が高まっているそうです。」
高遠の言葉に、理事官は、横にいる草薙に尋ねた。「本当なのか？草薙。」
「シェルターに幽閉された分、情報収集する時間がたっぷり出来ましたのでね。主にBase bookからなんですが。Base bookは、利用者の趣味や思想でグループを作ることが出きるんです。最初は東日本大震災を忘れるな、という程度のモノがあったんですが、最近2週間、責任者に責任を負わせるべきだ、というグループが幾つも出来上がっているんです。いや、増え続けているんです。ネット上だけならいいが、エスカレートしていく可能性がなくはないです。これは、私自身のカンに過ぎませんが、誰かが『火を点けて回っている』んじゃないかと・・・。」
「つまり、闇頭巾の仕業だと。経費は安くつきそうだな・・・あ、これは冗談だ。みんな忘れてくれ。大文字君、どうする？」と、理事官は尋ねた。
「与党の移民党なら、総理に根回しして貰えますが、政権交代していた頃の要人となると、『押しかけSP』はしにくいのが現状です。」と、伝子は理事官の言葉に応えた。
「違憲異種党か。政権交代時代の恥は認めないだろうしなあ。」理事官と管理官は唸った。
「野口元総理なら、どうでしょう？阿倍野元総理の国葬儀でも唯一まともなことをおっしゃっていたし。総理から口説いて貰えば。飽くまでも『政府要人は那珂国マフィアに狙われている』ということで。彼らには日本の与党も野党も関係無いから、と。」と、マルチディスプレイの画面の端の高遠は言った。
「うむ。任せるよ、大文字君。例え、山勘でも当てて来たんだ。大した夫婦だ。闘いが終ったら、国民栄誉賞だな。」
画面は消え、リモート会議は終了した。
「取りあえず、行って来る。なぎさ。一ノ瀬さんの月命日だったな。あつこ、送ってくれ。」「了解しました。」あつこは頷き言った。なぎさは伝子に深くお辞儀をした。
正午。一ノ瀬一佐の墓。
一ノ瀬欣之助、悦子となぎさが墓参りしている。
「いい上司だな、なぎささん。民間人なんだろう？」と欣之助が言った。
「はい。民間人でも、心根は自衛官と同じです。だからこそ、孝さんも一緒に部下になった。なろうとしたんです。」と、なぎさは言った。
「そんな立派な上司のパンティ履いてちゃダメよね、なぎさ。」
「はい。もう履いてません。」と、なぎさは顔を赤らめた。
「しかし、今度の作戦。あんなアホな政治家達が、言うこと聞くかな？」と、欣之助は腕組みしていたが、「さて、住職に挨拶して帰るか。」と言った。
「はい。」と、なぎさは短く返事をした。亡き夫の舅姑は優しかった。嫁入りは正解だった、となぎさは思った。
午後1時。総理私邸。
伝子が話し終えると、「分かったわ。野口さんなら分かってくれるかも知れない。野口さんを含めた、元違憲異種党総理が狙われているというタレコミということにしましょう。24時間何事もなかったら、EITOのSPは解除。後はお任せね。」と、総理は、にっこり笑った。
午後2時。野口元総理の家。
「本当ですか？信じられない。私たちはもう与党じゃない。」と外山元総理が言った。
「それが、『逆恨み』した連中が徒党を組んでいるらしいんですよ。」と、野口は言った。
「我々は、国民の為に働いてきているのに。」と、阿寒元総理は言った。
「この頃、頭のおかしい連中が多いでしょう？誰でもいいから殺してやりたい、って。そんな類いでターゲットに選んだんでしょう。とにかく、EITOが『タダ』でお守りしますって言うんですから、やらせればいいじゃないですか。何事も無ければ、ほらごらん、考えすぎだったでしょ？と言ってやればいい。」と野口は唆した。
「野口さんが、そこまでおっしゃるのなら・・・で、いつからですか？」と外山は言った。
「今日午後4時から明日午後4時までですね。」と野口は答えた。
「じゃあ、お手並みを拝見しましょうか？EITOの実力を。先日焼け野原になったんですよね。」と、阿寒元総理は言った。
「ええ。今は修復中なので、仮の施設とか言っていましたから、プレハブじゃないんですか？」「プレハブで出動ですか？大丈夫かな？」3人は笑った。
午後4時。外山元総理の家。
エマージェンシーガールズ姿の増田と馬越がやって来た。
「よろしくお願いします。」と増田が挨拶をすると、外山は「お二人で24時間ですか？」「いえ、3交替です。既にお知らせしましたように、何事も無く終る可能性もあります。明日この時間までに何事も無ければ、いたずらかガセネタとして、EITOは撤収します。」
午後4時。阿寒元総理の家。
エマージェンシーガールズのなぎさと田坂がやって来た。
なぎさは、増田と同じ挨拶をした。
午後4時。野口元総理の家。
エマージェンシーガールズの伝子と飯星がやって来た。
伝子は。増田と同じ挨拶をした。
「行動隊長さん。時々、市橋総理のSPもされているとか。今回、本当にやってくるとお思いですか、マフィアが。」と、野口は率直に尋ねた。
「来ないと思います。」「え？」「野口元総理だから、率直にお答えします。我々が24時間3交替で監視している間は来ない、と思います。撤収した後にやって来る、と私は判断しています。」
野口は悟った。「詰まり、我々は囮ですね？」「はい。24時間以降は総力を挙げてお守りします。ご理解頂けて恐縮です。テロリスト、テロリズム。絶対許してはなりません。」
「その通りです。警護に感謝します。ところで、行動隊長さん、一つお伺いしたいが、東日本大震災のあった日当日は大丈夫なんでしょうか？」
「いえ。今回何かある、という予測は、前兆的な意味合いです。本番は、元総理がおっしゃった日だと思います。何をしでかすかは想像がつきませんが。」
「とにかく、ありがとうございます。」と、野口は深々と頭を下げた。
阿倍野元総理が一目おいてただけはあるな、と伝子は思った。
24時間が過ぎた。伝子の予想通り、何事も起こらなかった。
午後5時。野口元総理の家の外。
物陰から金森と張り込みをしていた伝子は、忍者らしき者が2人、家の中に消えるのを見届けた。
午後5時半。野口元総理の家。書斎。
野口が、何か書き物をしていると、忍者の格好の男が2人、入って来た。
「野口さん、ちょっと付き合って貰おうか。」男の言葉に野口は、「断る！」と言ってのけた。
「断っても連れ出すよ。」と、忍者の一人は拳銃を向けた。もう一人も、それに習った。
どこからか、ブーメランが飛んできて、男達は2人とも拳銃を落されてしまった。
「嫌がってるのになあ。」と、エマージェンシーガールズ姿の伝子と金森は、難なく男達を倒した。
午後5時半。外山元総理の家。
外山はリビングで、秘書を相手に冗談を言っていた。「通常通りの警護で充分だった。考え過ぎなんだよ。幾ら人数がいても、おんなじゃないか。」
「外山元総理は、セクハラがお好きなようだ。呆れるね。これで元総理か。」
外山が振り向くと、秘書が忍者にナイフを突きつけられている。
「何が望みだ。金か？」「お前の命だよ、お馬鹿さん。」部屋にはもう一人忍者がいた。
「お馬鹿さんは、お前もだ。セクハラで呆れるというのは、意見が一致したな、忍者さん。」
エマージェンシーガールズ姿のなぎさは、秘書にナイフを突きつけている忍者の腕を掴み、強引にナイフを忍者の首にあてがった。「今、元総理は、おんなのくせにみたいに言ったよな、あんたも聞いたよな？」「はい。確かに聞きました。」
「確認しよう。」なぎさは片手でICレコーダーを操って再生した。
［いくら人数がいても、おんなじゃないか。］
外山が何か言いそうになった時、もう一人の忍者は馬越に首を絞められ、送襟絞 （おくりえりじめ)で落された。
なぎさは、忍者のナイフをもぎ取って、「降参するか、倒せる相手かどうか確認するか？」と冷たく言った。
その忍者は秘書を離し、床にひれ伏した。
午後5時半。料亭。
阿寒元総理は、自分の派閥の議員達と食事会をしていた。
「EITOなんて、所詮そんなもんだったのさ。」と言っていたが、阿寒は突然入って来た忍者の一団に銃で撃たれた。議員達は凍り付いた。
銃を撃った忍者は、どこからか飛んできたブーメランで、銃を落された。
「そこまでだ！」という声がして、他の忍者の銃もシューターやブーメランで銃を落された。ペッパーガンが撃たれ、忍者達も議員達もむせ返った。
シューターとは、EITOが開発した武器で、うろこ形の手裏剣である。先に痺れ薬が塗ってある。ペッパーガンとは、胡椒等の調味料を丸薬にしたモノを撃つ、EITO独自の武器である。
5人のエマージェンシーガールズは、バトルスティックで、あっと言う間に忍者を倒した。バトルスティックとは、軽量の棒で、この棒にも痺れ薬が塗ってある。
エマージェンシーガールズ姿の飯星は、阿寒元総理の脈を確認してから、DDバッジを押した。
エマージェンシーガールズ姿のあつこは、「警察と救急の手配を。それと、元総理は我々が運びます。」と、やってきた料亭従業員に言った。
料亭の外。オスプレイが止っている。井関が用意したストレッチャーに、飯星達は運び込んだ。全員がオスプレイに乗り込むと、ジョーンズが叫んだ。「本庄病院に運びます。」
午後7時。本庄病院。手術室。
あつこと伝子が廊下にいる。久保田管理官がやって来た。
「どうだ。」「申し訳ありません。我々は、少し遅れました。元総理は料亭の予約より予定を早めて集まっていました。」
「謝罪はいい。そんなことより容態は？」
伝子が言った。「幸い弾は貫通していました。ですが、重傷です。脚なので、立てなくなるかもと院長は言っています。」
「そうか。命は助かるか。明日、記者会見を行う。夏目君が担当する。明日からは、夏目君が理事官の代理だ。」「了解しました。」
翌日。午前9時。国賓館の一室。EITO臨時記者会見場。
「EITO司令官代理の夏目です。ご存じの様に、昨夜、3人の違憲異種党の元総理が狙われ、阿寒元総理は、凶弾に倒れました。リハビリに時間がかかる、と医師は言っております。」
「元竿総理が囮にされた、と聞いておりますが・・・。」
一人の記者の質問に、「あなたには、別室でお話を伺います。今、はっきり言っておきます。今まで、敵組織ダークレインボーの一味の者は何度となく、失脚を狙って失礼な質問をぶつけて馬脚を現しております。辛抱が足りないのは、民族性かも知れませんね。不規則発言は、これ以降無視させて頂きます。他の質問がある方は挙手願います。姓名と組織名を名乗って下さい。」
先ほどの記者は、あつこと結城が強引に別室に連れて行った。
一人の記者が手を挙げた。
「はい、あなた。」「週刊コミットの倉持と申します。先日、EITOが爆破され、全焼になりましたよね。司令官代理の方にお尋ね致します。理事官やスタッフの方々の安否は、一向に伝わってこないのですが。」
「お答えします、倉持さん、斉藤理事官やスタッフは火災の際、大やけどを負い、目下治療リハビリ中です。医療機関は機密事項なので申し上げられませんが、いずれも存命です。理事官の後任がなかなか決まらなかったので、ご報告が遅れました。ご容赦下さい。建造物は7割ほど再建出来ておりますが、スタッフは残りの者でなんとかやりくりしております。ついでに申し上げておきますが、エマージェンシーガールズは、仮の場所から出場しております。」
会見は1時間ほどで終了した。失礼な質問の記者は、夏目が睨んだ通り、闇頭巾の『葉っぱ』だった。
午前11時。EITO秘密基地。
小規模の地震が起こった。余震がないことを確認してから、伝子は皆に一時帰宅するように命じた。伝子の胸騒ぎは、なかなか収まらなかった。
―完―
============== 主な登場人物 ================
大文字伝子・・・主人公。翻訳家。DDリーダー。EITOではアンバサダーまたは行動隊長と呼ばれている。。
大文字（高遠）学・・・伝子の、大学翻訳部の3年後輩。伝子の婿養子。小説家。EITOのアナザー・インテリジェンスと呼ばれている。
斉藤理事官・・・EITO創設者で、司令官。
一ノ瀬（橘）なぎさ一等陸佐・・・ある事件をきっかけにEITOに参加。伝子を「おねえさま」と呼んでいる。皆には「一佐」と呼ばれている。
久保田（渡辺）あつこ警視・・・ある事件をきっかけにEITOに参加。伝子を「おねえさま」と呼んでいる。皆には「警視」と呼ばれている。
草薙あきら・・・警察庁情報課からのEITO出向。民間登用。ホワイトハッカー。
増田はるか三等海尉・・・海自からのEITO出向。
結城たまき警部・・・警視庁捜査一課からのEITO出向。
飯星満里奈・・・元陸自看護官。EITO準隊員。
馬越友理奈二曹・・・空自からのEITO出向。
久保田管理官・・・EITO前指揮官。あつこと結婚した久保田警部補の叔父。
夏目警視正・・・警視庁副総監の直属。斉藤理事官（司令官）の代理。
一ノ瀬欣之助・・・一ノ瀬孝一佐の父親。なぎさの舅。
一ノ瀬悦子・・・一ノ瀬一佐の母親。なぎさの姑。
井関権蔵・・・警視庁鑑識課課長。久保田刑事の先輩。
井関五郎・・・鑑識の井関の息子。EITOの爆発物処理担当。
野口元総理・・・政権交代時の違憲異種党総理。
外山元総理・・・政権交代時の違憲異種党総理。
阿寒元総理・・・政権交代時の違憲異種党総理。
市橋早苗総理・・・移民党の、現総理。
==EITOとは、Emergency Information Against Terrorism Organizationを指す==
==エマージェンシーガールズとは、女性だけのEITO本部の精鋭部隊である。==
午前１０時。EITO秘密基地。
「何故、東日本大震災の日に事件を起こすだろうと分かっているのに、それまでの日に警戒しなければならないか？というのが、警視庁の見方だ。」
EITOシェルターと久保田管理官の部屋がマルチディスプレイに映っていて、久保田管理官が発言した。
「勿論、警戒は必要だが、何か根拠があるのかね？高遠君。」理事官が高遠に尋ねた。
「根拠はありません。ただ、忍者の銀行強盗事件、私の家にボヤ。3月13日では、時間が空きすぎている。今まで、敵の攻撃が1週間空いた前例はありません。例えば、『小手調べ』的なものかも知れません。井関さんに言わせればこの前の強盗事件も『手際が良すぎる』事件でした。まだ、何らかの事件が多発するかも知れない。まだ、敵の攻撃パターンが分からないからこそ、警戒すべきです。」
「具体的に、どこを警戒すればいいのかね？」と、理事官が言った。
「草薙さんによれば、東日本大震災の責任者は、政権交代した時点で『お役御免』になっているけれど、被災者の親族で、許せないと思っている人達の運動が高まっているそうです。」
高遠の言葉に、理事官は、横にいる草薙に尋ねた。「本当なのか？草薙。」
「シェルターに幽閉された分、情報収集する時間がたっぷり出来ましたのでね。主にBase bookからなんですが。Base bookは、利用者の趣味や思想でグループを作ることが出きるんです。最初は東日本大震災を忘れるな、という程度のモノがあったんですが、最近2週間、責任者に責任を負わせるべきだ、というグループが幾つも出来上がっているんです。いや、増え続けているんです。ネット上だけならいいが、エスカレートしていく可能性がなくはないです。これは、私自身のカンに過ぎませんが、誰かが『火を点けて回っている』んじゃないかと・・・。」
「つまり、闇頭巾の仕業だと。経費は安くつきそうだな・・・あ、これは冗談だ。みんな忘れてくれ。大文字君、どうする？」と、理事官は尋ねた。
「与党の移民党なら、総理に根回しして貰えますが、政権交代していた頃の要人となると、『押しかけSP』はしにくいのが現状です。」と、伝子は理事官の言葉に応えた。
「違憲異種党か。政権交代時代の恥は認めないだろうしなあ。」理事官と管理官は唸った。
「野口元総理なら、どうでしょう？阿倍野元総理の国葬儀でも唯一まともなことをおっしゃっていたし。総理から口説いて貰えば。飽くまでも『政府要人は那珂国マフィアに狙われている』ということで。彼らには日本の与党も野党も関係無いから、と。」と、マルチディスプレイの画面の端の高遠は言った。
「うむ。任せるよ、大文字君。例え、山勘でも当てて来たんだ。大した夫婦だ。闘いが終ったら、国民栄誉賞だな。」
画面は消え、リモート会議は終了した。
「取りあえず、行って来る。なぎさ。一ノ瀬さんの月命日だったな。あつこ、送ってくれ。」「了解しました。」あつこは頷き言った。なぎさは伝子に深くお辞儀をした。
正午。一ノ瀬一佐の墓。
一ノ瀬欣之助、悦子となぎさが墓参りしている。
「いい上司だな、なぎささん。民間人なんだろう？」と欣之助が言った。
「はい。民間人でも、心根は自衛官と同じです。だからこそ、孝さんも一緒に部下になった。なろうとしたんです。」と、なぎさは言った。
「そんな立派な上司のパンティ履いてちゃダメよね、なぎさ。」
「はい。もう履いてません。」と、なぎさは顔を赤らめた。
「しかし、今度の作戦。あんなアホな政治家達が、言うこと聞くかな？」と、欣之助は腕組みしていたが、「さて、住職に挨拶して帰るか。」と言った。
「はい。」と、なぎさは短く返事をした。亡き夫の舅姑は優しかった。嫁入りは正解だった、となぎさは思った。
午後1時。総理私邸。
伝子が話し終えると、「分かったわ。野口さんなら分かってくれるかも知れない。野口さんを含めた、元違憲異種党総理が狙われているというタレコミということにしましょう。24時間何事もなかったら、EITOのSPは解除。後はお任せね。」と、総理は、にっこり笑った。
午後2時。野口元総理の家。
「本当ですか？信じられない。私たちはもう与党じゃない。」と外山元総理が言った。
「それが、『逆恨み』した連中が徒党を組んでいるらしいんですよ。」と、野口は言った。
「我々は、国民の為に働いてきているのに。」と、阿寒元総理は言った。
「この頃、頭のおかしい連中が多いでしょう？誰でもいいから殺してやりたい、って。そんな類いでターゲットに選んだんでしょう。とにかく、EITOが『タダ』でお守りしますって言うんですから、やらせればいいじゃないですか。何事も無ければ、ほらごらん、考えすぎだったでしょ？と言ってやればいい。」と野口は唆した。
「野口さんが、そこまでおっしゃるのなら・・・で、いつからですか？」と外山は言った。
「今日午後4時から明日午後4時までですね。」と野口は答えた。
「じゃあ、お手並みを拝見しましょうか？EITOの実力を。先日焼け野原になったんですよね。」と、阿寒元総理は言った。
「ええ。今は修復中なので、仮の施設とか言っていましたから、プレハブじゃないんですか？」「プレハブで出動ですか？大丈夫かな？」3人は笑った。
午後4時。外山元総理の家。
エマージェンシーガールズ姿の増田と馬越がやって来た。
「よろしくお願いします。」と増田が挨拶をすると、外山は「お二人で24時間ですか？」「いえ、3交替です。既にお知らせしましたように、何事も無く終る可能性もあります。明日この時間までに何事も無ければ、いたずらかガセネタとして、EITOは撤収します。」
午後4時。阿寒元総理の家。
エマージェンシーガールズのなぎさと田坂がやって来た。
なぎさは、増田と同じ挨拶をした。
午後4時。野口元総理の家。
エマージェンシーガールズの伝子と飯星がやって来た。
伝子は。増田と同じ挨拶をした。
「行動隊長さん。時々、市橋総理のSPもされているとか。今回、本当にやってくるとお思いですか、マフィアが。」と、野口は率直に尋ねた。
「来ないと思います。」「え？」「野口元総理だから、率直にお答えします。我々が24時間3交替で監視している間は来ない、と思います。撤収した後にやって来る、と私は判断しています。」
野口は悟った。「詰まり、我々は囮ですね？」「はい。24時間以降は総力を挙げてお守りします。ご理解頂けて恐縮です。テロリスト、テロリズム。絶対許してはなりません。」
「その通りです。警護に感謝します。ところで、行動隊長さん、一つお伺いしたいが、東日本大震災のあった日当日は大丈夫なんでしょうか？」
「いえ。今回何かある、という予測は、前兆的な意味合いです。本番は、元総理がおっしゃった日だと思います。何をしでかすかは想像がつきませんが。」
「とにかく、ありがとうございます。」と、野口は深々と頭を下げた。
阿倍野元総理が一目おいてただけはあるな、と伝子は思った。
24時間が過ぎた。伝子の予想通り、何事も起こらなかった。
午後5時。野口元総理の家の外。
物陰から金森と張り込みをしていた伝子は、忍者らしき者が2人、家の中に消えるのを見届けた。
午後5時半。野口元総理の家。書斎。
野口が、何か書き物をしていると、忍者の格好の男が2人、入って来た。
「野口さん、ちょっと付き合って貰おうか。」男の言葉に野口は、「断る！」と言ってのけた。
「断っても連れ出すよ。」と、忍者の一人は拳銃を向けた。もう一人も、それに習った。
どこからか、ブーメランが飛んできて、男達は2人とも拳銃を落されてしまった。
「嫌がってるのになあ。」と、エマージェンシーガールズ姿の伝子と金森は、難なく男達を倒した。
午後5時半。外山元総理の家。
外山はリビングで、秘書を相手に冗談を言っていた。「通常通りの警護で充分だった。考え過ぎなんだよ。幾ら人数がいても、おんなじゃないか。」
「外山元総理は、セクハラがお好きなようだ。呆れるね。これで元総理か。」
外山が振り向くと、秘書が忍者にナイフを突きつけられている。
「何が望みだ。金か？」「お前の命だよ、お馬鹿さん。」部屋にはもう一人忍者がいた。
「お馬鹿さんは、お前もだ。セクハラで呆れるというのは、意見が一致したな、忍者さん。」
エマージェンシーガールズ姿のなぎさは、秘書にナイフを突きつけている忍者の腕を掴み、強引にナイフを忍者の首にあてがった。「今、元総理は、おんなのくせにみたいに言ったよな、あんたも聞いたよな？」「はい。確かに聞きました。」
「確認しよう。」なぎさは片手でICレコーダーを操って再生した。
［いくら人数がいても、おんなじゃないか。］
外山が何か言いそうになった時、もう一人の忍者は馬越に首を絞められ、送襟絞 （おくりえりじめ)で落された。
なぎさは、忍者のナイフをもぎ取って、「降参するか、倒せる相手かどうか確認するか？」と冷たく言った。
その忍者は秘書を離し、床にひれ伏した。
午後5時半。料亭。
阿寒元総理は、自分の派閥の議員達と食事会をしていた。
「EITOなんて、所詮そんなもんだったのさ。」と言っていたが、阿寒は突然入って来た忍者の一団に銃で撃たれた。議員達は凍り付いた。
銃を撃った忍者は、どこからか飛んできたブーメランで、銃を落された。
「そこまでだ！」という声がして、他の忍者の銃もシューターやブーメランで銃を落された。ペッパーガンが撃たれ、忍者達も議員達もむせ返った。
シューターとは、EITOが開発した武器で、うろこ形の手裏剣である。先に痺れ薬が塗ってある。ペッパーガンとは、胡椒等の調味料を丸薬にしたモノを撃つ、EITO独自の武器である。
5人のエマージェンシーガールズは、バトルスティックで、あっと言う間に忍者を倒した。バトルスティックとは、軽量の棒で、この棒にも痺れ薬が塗ってある。
エマージェンシーガールズ姿の飯星は、阿寒元総理の脈を確認してから、DDバッジを押した。
エマージェンシーガールズ姿のあつこは、「警察と救急の手配を。それと、元総理は我々が運びます。」と、やってきた料亭従業員に言った。
料亭の外。オスプレイが止っている。井関が用意したストレッチャーに、飯星達は運び込んだ。全員がオスプレイに乗り込むと、ジョーンズが叫んだ。「本庄病院に運びます。」
午後7時。本庄病院。手術室。
あつこと伝子が廊下にいる。久保田管理官がやって来た。
「どうだ。」「申し訳ありません。我々は、少し遅れました。元総理は料亭の予約より予定を早めて集まっていました。」
「謝罪はいい。そんなことより容態は？」
伝子が言った。「幸い弾は貫通していました。ですが、重傷です。脚なので、立てなくなるかもと院長は言っています。」
「そうか。命は助かるか。明日、記者会見を行う。夏目君が担当する。明日からは、夏目君が理事官の代理だ。」「了解しました。」
翌日。午前9時。国賓館の一室。EITO臨時記者会見場。
「EITO司令官代理の夏目です。ご存じの様に、昨夜、3人の違憲異種党の元総理が狙われ、阿寒元総理は、凶弾に倒れました。リハビリに時間がかかる、と医師は言っております。」
「元竿総理が囮にされた、と聞いておりますが・・・。」
一人の記者の質問に、「あなたには、別室でお話を伺います。今、はっきり言っておきます。今まで、敵組織ダークレインボーの一味の者は何度となく、失脚を狙って失礼な質問をぶつけて馬脚を現しております。辛抱が足りないのは、民族性かも知れませんね。不規則発言は、これ以降無視させて頂きます。他の質問がある方は挙手願います。姓名と組織名を名乗って下さい。」
先ほどの記者は、あつこと結城が強引に別室に連れて行った。
一人の記者が手を挙げた。
「はい、あなた。」「週刊コミットの倉持と申します。先日、EITOが爆破され、全焼になりましたよね。司令官代理の方にお尋ね致します。理事官やスタッフの方々の安否は、一向に伝わってこないのですが。」
「お答えします、倉持さん、斉藤理事官やスタッフは火災の際、大やけどを負い、目下治療リハビリ中です。医療機関は機密事項なので申し上げられませんが、いずれも存命です。理事官の後任がなかなか決まらなかったので、ご報告が遅れました。ご容赦下さい。建造物は7割ほど再建出来ておりますが、スタッフは残りの者でなんとかやりくりしております。ついでに申し上げておきますが、エマージェンシーガールズは、仮の場所から出場しております。」
会見は1時間ほどで終了した。失礼な質問の記者は、夏目が睨んだ通り、闇頭巾の『葉っぱ』だった。
午前11時。EITO秘密基地。
小規模の地震が起こった。余震がないことを確認してから、伝子は皆に一時帰宅するように命じた。伝子の胸騒ぎは、なかなか収まらなかった。
―完―
